第187毒 猛毒姫、縦回転するかも
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前回までのあらすじ
劣勢
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いや、そうなんじゃけども。
二文字だけか。
ちょっと寂しいの。
まあいい。
私は、引き続きいちころさんに話しかける。
「お主が手に入れておらぬ魔法は、いくつかあるじゃろう。
まずは時魔法に、闇魔法。
ただ、これらは賢者と魔王の魔法。
まず手に入れられるものではあるまい。
お主も、半ば諦めておろう」
「……正確には、諦めては、ないけど、ねぃ」
いちころさんの奴、なんだか悔し紛れに言葉を発しておる。
「後は、鋼族の石魔法……鋼族はそもそもがーどが固いし、多分、お主の技術でも復活は叶わなかったのではないか?」
何しろ、奴ら、労補人じゃからのう。
しかも、魔法と思われておる鋼族の石魔法って、ただの科学じゃからな。
「……そして、一番お主が欲しておるのが、恐らく……不老不死となることが出来る、聖女の光魔法……」
……目の前のいちころさんは、40代くらいでも通じそうではあるが。
「……なんで?
ボツリヌスちゃんは、なんで、わかったのかなぁ?」
「ふむ、一つは、それ以外に人間界を攻め滅ぼす理由って、あんまりないから、じゃな」
私は得意げに、指を一本立てる。
人間界を攻め滅ぼすのって、結構大変じゃ。
人間界を攻略したとしても、更に別の魔貴族が人間界に攻めてくるじゃろうし。
あんまり、旨味がないのじゃ。
自分を馬鹿にした奴等を見返したいとか、アンゴルモアを顕現したいとか、そういう理由だけで決断出来るようなものではない。
北真倉の遺体を手に入れるのも、別に戦争する必要はない。
そうやって考えていくと、答えは自ずと予想できる。
「二つ目は、ピッグテヰル公爵の光魔法を見たときの、お主の顔じゃ」
まるで、ここで一つ目的を達成したような笑顔をしておった。
確かに、ピッグテヰルを殺して眷属にしてしまえば、光魔法使いたい放題じゃろう。
「そして三つめじゃが、単純に、貴様が人間族だ、ということじゃ。
限られた寿命……大分昔の魔貴族の存在も理解しておる様に思われる……。
お主、大分おじいちゃん、じゃろ?」
「……使役している人達のスキルも、自由に使うことが出来るからねぃ。
不老長寿みたいなスキルを持ってる人達を使って、なんとか長生きをさせてもらっているよぅ」
「……じゃが、大分無理筋の戦を始めようとしているところを見ると。
それも、限界のようじゃの」
「……なるほど。
やっぱり、普通の人間じゃ、ないねぃ」
いちころさんは、少し体を反らした後。
私の目の前に、向き直った。
「ボツリヌスちゃん、あんた。
……テンセイシャ……だねぃ」
「……ほう。
あたり、じゃ」
突然じゃったので心臓ばくばくしたが、普通の顔で答えることが出来た。
「……うん、テンセイシャ、しかも喋りに特化型、かなあ」
「これもまた、大体、正解じゃ」
正しくは喋りと精神力、じゃがな。
そこがばれると終わる。
「知識とか、頭の回転の速さとか、喋りの上手さは、それで説明がつくんだけど。
やっぱり、『北真倉猿夢』を倒した理由が、わからないんだよ、ねぃ~……」
ふう。
頭もよさそうじゃな、いちころさん。
転生者って、ばれたし。
倒した理由も、ばれつつあるし。
……ていうかもうほとんど正解に辿り着いておるのじゃがな、此奴。
ただ、私がどうやって精神力で北真倉を圧殺したのかが分からないんじゃろう。
……正直私も不思議じゃった。
他の面々は、どうしてあんな小さな蟻に負けてたのじゃろうか?
いろいろ考えて思い付いたのが。
『私の踏み潰す速度が速かった』
これじゃ。
あんな小さな蟻にやられるとしたら、速さしかあるまい。
他の面子はおたおたしている間にやられたのじゃろう。
その点私は、圧倒的な反射神経で踏み潰した。
自分でも惚れ惚れする。
これこそ、北真倉猿夢を倒すことのできた真の理由と考察が出来よう!
……まさか私と他の面々との精神力が、大きさにして人間と蟻以上の差があった、なんて理由とは思えぬしの。
私がそんなことを考えておると。
後ろから、オーダーに話しかけられた。
「あの……ボツリヌス様。
予想はしておりましたが……私、ボツリヌス様がテンセイシャという話、初耳ですよ」
「……え?」
言ったぞ?
多分、2話くらいで。
お主が信じなかっただけじゃあないか。
……あ、違ったわ。
ここで言う『テンセイシャ』は、『この世界には無い特殊な知識や能力を持った人間の総称』……即ち、私が考えておる『転生者』とは用法がやや異なる。
確かに『テンセイシャ』であるとは、言っておらんかった!
「ふむ。
これは、タテ回転も追加しなくちゃあ、ですね」
「たっ、たてかいてん!?」
私は縦回転する自分の頭を思い浮かべて青くなる。
こ、此奴、私の頭をじゃぐりんぐの御手玉か何かと勘違いしてないか!?
最終的には火を付けられた私の頭が空中高くぽんぽん飛んだのち、オーダーの口に含んだ油でゴーッてなって、周囲から拍手喝采される、までは想像できた。
私が小刻みに震えておると。
ごおおおおおおん!
またもや激しい爆音が響き、私たちはそこへ目を向ける。
何やら戦況に、動きがあったようじゃ。