第180毒 テーラー、ハンドと話す
いつの日からだろう。
すっかり賑やかになってしまった自宅のテーブルに座りながら、私は指で眉間を摘み、ため息をつく。
「お、おい、どうしたテーラー、気分でも悪いのか?」
「わ、私の御飯が美味しくなかった?」
「まさか~、お母さんの御飯が美味しくないわけないよ~。
でもでも、お兄ちゃん、本当に大丈夫?」
「……」
くそ、頭が痛い。
どうしてこんなことになったんだ……。
……そうだ、全部、あいつのせいだ。
あの、毒舌娘が悪いんだ……。
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私の名はテーラー。
偉大なるトキシン侯爵に仕えるメイドだ。
メイドとはいっても、一応、男だが。
最近、どうにも腹が立ってしょうがないことがある。
くそ、また、頭痛が……。
頭痛の種の名はボツリヌス・トキシン。
トキシン侯爵様の6番目の子供にして、魔力量10の出来損ないの少女だ。
この阿呆は、ことあるごとに、大恩ある侯爵様を馬鹿にしているのだ。
自分の立場を、全く弁えていない馬鹿な少女。
いつ殺されても文句は言えないはずなのに。
侯爵様の慈悲に縋ってかろうじて生を繋いでいるだけなのに。
全く、自分勝手過ぎて、反吐が出る。
「あまり、根を詰めるものではないですよ、テーラー」
「はあ」
ひとしきり仕事が終わって夜になり。
空腹を紛らわすために食堂に行くと、ハンドメイド長が一人でお酒を飲んでいた。
「いろんな人たちがいます。
私は、いろんな人たちのお尻をペンペンすることが仕事なのですが。
……テーラー、あなたはむしろ、頑張りすぎですよ。
もっと、肩の力を抜きなさい」
こんな真夜中、みんなが寝静まった頃の一人酒。
メイド長はすっかり酔っぱらっていたけれど、彼女の言葉は侮れない。
むしろ、お酒を飲んで、本音をしゃべる時こそが学べるタイミングとも言える。
メイド長が即席で作った焼酎の水割りを恭しく受け取ると、厳かに一口飲んで、彼女の次の言葉を待つ。
「……まあ、それは置いておいて。
貴方の親戚のいい男……紹介してくれませんか?」
「……はあ?」
……想定外の言葉が聞こえたのだが。
「もう、嫌なんですよぉ……。
早く運命の王子様に攫われたいんですよ、私ぃ……」
聞き間違えじゃなかった。
うん、駄目だ。
この人、悪い酔い方している。
メイド長がその有り余る財力で、町のはずれに豪邸を立てているのは屋敷の全員が知っていることだ。
まだ出会わぬ王子様のために建てた大豪邸は。
週に1回も帰らない、廃墟になっていることも、屋敷の全員が知っていることだ。
て言うか、攫われたいのか定住したいのかはっきりして欲しいものだけど。
「ほ、ほ、ほんとは、お、お局様は、もう嫌なの!
全部捨てて、愛の逃避行がしたいぃぃ!!」
私の襟首を掴んでがくがくと前後させる涙目のメイド長。
……メイド長は、別に可愛くない訳でも、性格が地雷な訳でもない。
ただ、恐ろしく有能なせいで、逆にいろいろ損しているところがある。
これで仕事一筋ならば、素晴らしい人生を歩めたんだろうけど。
将来の夢が、可愛いお嫁さんなのだから、なんというか、うん。
「……それで?
逃避行して、どうしたいんですか?」
「き、聞いてくれますか、テーラー!」
にぱ、と笑う彼女に苦笑いをしながら、私は続きを促す。
メイド長のストレスは、メイド全員のストレスになる。
ここで発散させておいた方が良いだろう。
「……そして犬はシベリアンハスキーが良いですね~。
あと子供は……私はあまり好きじゃ無いんですけど。
でもでも、王子様が望むなら……って、何を言わせるんですかっもう!」
ぐ、めっちゃ痛い。
なぜ私が叩かれるんだ。
面倒くさい事この上ないが。
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「テーラーよ、精が出るのう」
私がトキシン家の家宝である宝壺を磨いていると、彼女が話しかけてきた。
「チッ……毒舌娘……」
かなり邪険に扱っているはずなのに、少女は毎回私に話しかけてくる。
やはり、相当の阿呆なのだろう。
「うむ、仕事中引き留めて悪かった、それじゃあの!」
「二度と話しかけるな、トキシン家の黴菌」
私は先ほどまでまで家宝の壺を拭いていた布巾を右手でつまみあげ、少女の顔にぺしゃりとぶち当てた後、その布巾を塵箱に叩き込み、すたすたと歩き去った。
これだけすれば、私が嫌っていることに気が付くだろうと思ってのことだったが。
……私は、後程知ることになる。
少女は、侯爵様の慈悲に縋って生きていたのは間違いない。
侯爵様がいなければ、彼女は死んでいただろう。
しかし、その事実を差し引いても。
侯爵様は、少女に罵倒されて、しかるべき人、だったのだ。
……彼女の生きる環境は、劣悪で。
そして、それは。
人によっては死を選ぶ程の状態だったのだから。
……少女は、私が嫌っていることなど、既に知っていたのだ。
知った上で……私と話をしていたのだ。。
……他にまともに話をしてくれる人が誰もいなかったから。
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私はある日、トキシン侯爵家に伝わる宝の壺を割ってしまった。
先代が先王から下賜されたというその壺の欠片を見ながら。
私は謝罪や悔恨の念よりも。
……ただただ保身に頭が行ってしまっていた。
「貴様は…!この壺は…!私は…!」
トキシン侯爵様がいらっしゃって、私をしたたかに殴りつける。
頭を地にこすりつけ、謝罪をするべきなのは分かっていても、私はただ立ち尽くすだけ、だった。
何故ならここで謝るということは、その過ちを認めるということ。
つまりそれは、私だけでなく、父や妹が殺されるということ……。
……いや、それどころか、一族もまとめて処刑されるということと同義だからだ。
「貴様、楽に死ねると思うなよ、じわじわと嫐なぶり殺しにしてくれるわ!」
あまりの剣幕に、体がガクガクと震える。
もはや、立ってもいられない。
そんな中、一人の少女が、私とトキシン侯爵様の間に、割って入った。
突然の闖入者に、目を丸くする私と侯爵様。
少女は、楽しそうにくるりと1回転してスカートをはためかせた後。
……実に嬉しそうに、こう言った。
「壺を割ったのは☆わったしっじゃよー♪」
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その後に行われた侯爵様の暴行と監禁劇を、私はどこか遠くから眺めていた。
まるで、当事者でないような浮遊感。
……そして、いつの間にか屋敷内にある自分専用の部屋のベッドに倒れていた。
ああ、頭が痛い。
どうしてこんなことになったんだ……。
ああ、全部、あいつのせいだ、あの、毒舌娘が悪いんだ……。
私の脳内が、黒く染まる。
……きっとアイツは野良犬を拾う様な気軽さで、私を助けたのだろう。
おそらく、3日もしないうちに根を上げるに決まっている。
……いや、そうか。
アイツが……、アイツがもしそのまま死んでくれたら。
全部、丸く収まるではないか!!
「くそ、死ね、死ね、死んでくれ!
お願いだから、私の、私たちのために、死んでくれ!!」
ベッドの中で、呪詛の言葉を吐きながら、私は眠りについた。
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それから私は3日3晩ベッドから出ずに彼女を呪い続けた。
そして、運命の4日目。
流石にボツリヌスも限界を向かえて洗いざらい喋った頃合いだろう。
いよいよ私の元に侯爵様がやってきて。
そして、一族皆殺しの沙汰を下すはずだ。
おびえながらベッドにいた私であるが。
……グー……。
昨日からずっと腹の虫が、限界を告げるように泣き続けている。
起き上がって冷静に考えてみると、こうやって無為に時間を過ごすよりも、するべきことがあるのに気付く。
家族や親戚に、此度のことを説明し、謝罪しなければならない。
恐らくもはや残された時間は少ないだろうが……。
そして、それをするには、流石に腹がすき過ぎていた。
こんな絶望的な状態でも、腹は減るんだな。
当たり前のことに少しだけ苦笑すると、私は食堂へと向かった。
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お昼時だというのに、食堂は何故かガラガラだった。
食事を取る人たちも、何というか、軽食くらいしかとっていないように見える。
いや、今は人のことはどうでもいい。
自分のなすべきことをなさなくては。
目の前に置かれた久しぶりの食事を食べていると。
「おう、テーラー。
久しぶりだな……やっと出てきたか」
……総料理長のコックが、話しかけてきた。
「……ああ。
まだ、家族や親戚に、今回のことを話していない。
今すぐ発って、伝えてくる」
私が死ぬことを決めたと、気づいたのだろう。
「そうか。
いや、俺には考えもつかないほどの絶望だ。
3日で出てくるなんて、お前は凄い奴だなァ……。
……ただ、急げよ。
このままだと……ボツリヌス様が死ぬぞ」
……はあ?
何を言っているんだ、総料理長は?
まるで、ボツリヌスがまだ、監禁されているような……。
……まさか。
……おいおい、嘘だろ?
「知らなかったようだなァ。
……あのお姫様は、飛び切りの大馬鹿らしい。
てっきり、ただの同情かと思ったがよォ。
……まだ地下牢で、頑張っているぞ、アレは」
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馬鹿だ。
……私は、馬鹿だ。
自分を助けてくれた少女の死を願うなんて、度し難い馬鹿だ。
そう。
例え反対側の天秤に、一族郎党の命が乗っていたとしても!
そこからの私の行動は早かった。
まずは自宅へ急ぎ、父と妹に土下座をして許しを請い。
親戚の家の土下座回りを始めた。
当たり前だが、片っ端から、殴られたのだが。
親戚の反応は、皆、一様に同じだった。
まずは怒りがあり。
次に寛容を経て。
そして最後に……懇願が来た。
「お前のしたことは、取り返しがつかない。
俺たちも含めて、罰を受けよう。
ただ、子供たちは……子供たちだけは、助けてくれないか?」
親戚の皆が頼むのには、理由があった。
一族郎党皆殺し。
一言でいうと簡単だが、実は裏の事情がある。
15歳に満たない未成年は、自身の家を捨てることを条件に罰を免れることができるのだ。
例えば孤児院や、養子という形をとれば、幼子は命を助けることができる。
「……命に代えましても、子供たちの命は約束します!」
私は声をあげ、土下座を繰り返した。
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そこから更に1週間、私はあらゆる孤児院や子供を欲している家族など、知りうる限りの情報をかき集めて走り回った。
そして……絶望、した。
「ウチは一杯で、今すぐには無理ですねえ」
「私たちにも、選ぶ権利がありますから……」
「申し訳ありませんが、ご縁がなかったということで」
……誰も、引き取ってくれないのだ。
「な、なぜ引き取ってくれないのですか!?」
もう何件目になるかわからない断りの言葉に、私は思わず食い下がる。
孤児院の院長は、私を憐みの目で見た後、静かに、本音を答えた。
「……む、無理ですよ。
そんな、王の怒りに触れた一族の子供を引き取るなんて……」
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もう、何日経っただろうか。
「お、お兄ちゃん……」
「……すまん、一人にさせてくれ……」
「う、うん。
……私は何があっても、お兄ちゃんの味方だからね!!」
妹は気丈に笑うと、部屋から出て行った。
……あいつは14歳。
引き取り手さえ見つかれば、生き残ることが出来る。
……だが、このままでは……。
部屋の中で頭を抱えていると。
『テーラー、今、大丈夫ですか?』
どこからともなく、声が聞こえてきた。
……これは確かハンドメイド長の風魔法……。
遠距離で会話が出来るという特殊な魔法だ。
おそらく侯爵家から会話を試みているのだろう。
「あまり大丈夫では、ありませんね……」
『……なにか、ありましたか?
何か、私に出来ることであれば……』
彼女のその言い方に、思わずカッとしてしまう。
そんな簡単に解決する問題であれば、こんなにも悩むわけがないだろうが!
「誰も! 子供たちを! 引き取ってくれないんです!」
『』
「王の怒りに触れた一族の子供たち、ですからね。
もう、どうしようもありません。
親族の子供たちも含めて全員、処刑されるしか、方法がないんです……!」
『』
メイド長に怒りをぶちまけてみたが、当然、誰も得しないのは、分かっている。
ただの、憂さ晴らしでしかない。
……くそ、何を、何をしているんだ、私は……。
「……だれか、たすけて……」
机に突っ伏し、嗚咽を上げる私。
その間、ハンドメイド長は、無言、だった。
いや、正確には、彼女も、嗚咽を上げていた。
『おえっ』とか、『げえぇ』とか、なぜか嘔吐も、していた。
……それから、5分程過ぎた後、だろうか。
『……親戚の、子供たちは、何人くらい、いるん、ですか?』
「……?
20人くらい、ですね」
メイド長は、再度『おえっ』と声を上げた。
それから、さらに、数十秒の間があって。
『……分かりました、私が、引き取りましょう』
……メイド長が、そう、言った。
「……は?」
『こう見えても私、子供は好きなんですよ?』
え、いやいや。
それは。
……嘘だ、子供はそんなに好きじゃないって、言っていたじゃないか。
『無駄に大きい家も買ってますし、ちょうど良いでしょう』
それは、王子様と暮らすために買ったものだろう。
『……大丈夫です、子供たちのことは、任せてください!』
メイド長が嗚咽を上げていた意味が、ここで初めて分かった。
……彼女は、自分の人生を全部投げ出して、私たちを助けようとしているのだ。
自分の望みや、願い。
それをもう一度考え直して。
そのあまりの違いに、嘔吐して、悩み抜いて。
別に、見ないふりをすれば何でもないのに……私たちのために、人生を捧げようとしているのだった。
「……ハンドメイド長……」
『な、なんですか、テーラー』
メイド長の意思を再確認など、私には出来ない。
メイド長も大事だが、それ以上に親戚の子供たちの命のほうが、大事だったからだ。
「申し訳ありません……よろしくお願いします!」
メイド長は、『大げさですねえ』と笑った後、もう一度嗚咽をあげていた。
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親族の全員が、ハンドメイド長の家の前に集合している。
各々の家族が、最後のお別れをしていた。
「本当に、何といってお礼をすれば良いのか……」
「必ず全員を皆様に恥じない子供たちに育て上げて見せます」
「ありがとう、ありがとうございます……」
メイド長は、今から死に行く私たち一人ひとりに声を掛けていた。
「いやだ!
ママ、パパ!!
ずっと一緒に、ずっと一緒にいようよ!!」
どこかで、誰かが声を上げた。
ほかの子供たちも、思わずそれに追随しようとする。
「……貴方。
お名前は、なんと言いますか?」
地の底まで冷えるような、恐ろしい声。
声を上げた子供は、驚いたように、声を上げた。
「め、メメシィだよ」
「良いですか、メメシィ。
恥を知りなさい」
トキシン侯爵に仕える、一癖も二癖もある屋敷のメイド達。
彼ら、彼女らを叩き伏せるメイド長のお言葉が始まった。
「貴方達の両親は、一人の無実な少女を助けるために死ににいくのです。
誰にでもできることではありません」
言いようだな、と思った。
正確には私の尻拭いでもあるのだが、そこには突っ込まないでくれるらしい。
「貴方達がすべきことは、泣き叫んで両親をにすがり付くことではありません。
父や母がいなくても立派に育って見せると、笑って見送ることなのです」
小さい子達は、ポカンとした顔をしている。
多分、言っていることの半分も分かっていないだろうが。
「う、うん、わがっだ!」
メメシィはくしゃくしゃな顔で首肯くと、両親に手を振った。
「い、いっでらっじゃい……!」
恐らく物心ついているなかで一番弱虫そうなメメシィがそう言ったことで、他の子供達も泣きながら笑顔を浮かべている。
「バイバイ、パパ、ママぁ!」
「僕、大きくなったら父さんみたいに勇敢になるから……!」
親達はハンドメイド長の言葉と子供達の変わりように、驚いた顔をした後で。
「ありがとう……貴女になら、任せられます」
そう、笑顔を浮かべた。
「イヤ! 私もお兄ちゃん達と一緒に行く!」
「お前……」
声を上げたのは、ウチの妹、だった。
「私はもう14歳だよ?
自分の生き方は自分で決めます。
ね、お兄ちゃん、一緒にごめんなさい、しにいこう、ね」
有無を言わせぬ妹の言葉。
メイド長の取った答えは……それらの、完全無視、であった。
「あぁ、テーラーの妹さんですね。
ちょうど良かった。
私一人では子供達を纏めきれません。
お力添えを、頼めませんか?」
「え、え?」
「申し訳ありませんが、圧倒的に女手が足りないんです。
私はお金をいれないといけないので、昼間にいることができない。
妹さんの力が必要なんです」
流石はメイド長。
妹も、こう頼まれたら絶対に断れない。
「う、うう、ううううう~!」
泣き崩れながら。
妹はゆっくりと頷いてくれたのだった。
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さて、なんというか……一族郎党の処刑が、なくなった。
もしかしたら途中で「やっぱり処刑な」となる可能性も考慮して、子供達は1ヶ月程ハンドメイド長に預かってもらったが。
実際は勿論そんなこともなく、3ヶ月を過ぎる頃には子供達は全員元の家に帰ることとなった。
「メイド長、この度は本当に、なんとお礼を言って良いやら……」
「あぁ、いえいえ、良いですよ。
なんだかすっごい、モテてますしねぇ」
苦笑いするメイド長。
……そうなのだ。
この件を境に、ウチの親戚がハンドメイド長に求婚し出したのだ。
10代から30代を中心に、下は6歳から、上は50歳まで。
イヤ流石にアレほどの男気を見せられたら、惚れてもおかしくはないけれども。
しかしそれらのアプローチを何故か袖にしつつ、メイド長は此方を見ていた。
「と、ところでテーラー。
あまり関係の無い話してすが。
……テーラーのお父様が今、独身というのは本当ですか?」
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というわけで、何故かメイド長が私の家で料理を作っている。
どうやらメイド長は、私の父に一目惚れしたらしい。
……全然王子様ではないムキムキマッチョなんだけど、何故だ。
妹は屋敷で過ごした数ヵ月で、完全にメイド長を『お母さん』と呼んで心酔しきっていた。
父も最初は『こんな素敵な人とバツイチの私が釣り合うわけない』と思っていたようだが、彼女がアフロになったのを見て『この人は自分がいないとダメだ』と思い直したらしい。
外堀も内堀も、埋められた状態というやつだ。
……。
すっかり賑やかになってしまった自宅のテーブルに座りながら、私は指で眉間を摘み、ため息をつく。
「お、おい、どうしたテーラー、気分でも悪いのか?」
「わ、私の御飯が美味しくなかった?」
「まさか~、お母さんの御飯が美味しくないわけないよ~。
でもでも、お兄ちゃん、本当に大丈夫?」
「……」
ああ、頭が痛い。
どうしてこんなことになったんだ……。
ああ、全部、あいつのせいだ、あの、毒舌娘が悪いんだ……。
私は自分達家族の未来を想像して。
そして、例のアホの笑顔を思いだいて。
ぐったりしながら、ため息をついた。
うつむく私を覗き込みながら、妹が不思議そうに尋ねる。
「……お兄ちゃん?
なんで笑ってるの?」