第172毒 猛毒姫、バランサーになる
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あらすじ
オーダー「ババア、その牌だ。
リーチ一発、平和ジュンチャン三色イーペーコー、ドラ31」
ぼつりん「」ぐにゃ~
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「さ、さあ、ボツリヌスよ。
案内するのだ。
わ、吾輩は、一体、誰を愛すれば良いのだ?」
……ど、どうしよ。
セルライトが、良い笑顔でこちらを見ておる。
セルライトは、あれじゃな。
味方にすると頼もしいが、敵にするとやばすぎる。
勿論、正着な手順を踏むならば、ニンニクに会わせるべきなのじゃろうが。
会わせても、私の城が白い正義でべちゃべちゃになるだけじゃ。
どうしたものか。
うーむ……。
魔貴族城に連れていくべきかどうか悩んでおると。
「……乗りかかった船だ。
この案件が終わるまで、ボツリヌス……貴様に味方してやろう」
後ろからふらりと現れたのは、剛力殺じゃった。
どうやら私が希望する落着点に落ち着くように、手助けしてくれるらしい。
こんな素敵な奴を脳筋とか言っていた、昔の私を叩いて叱ってやりたい。
多分『豚公爵と猛毒姫』の中で、バイタビッチ・ダブルピースの次に話が通じる奴じゃあないか。
……因みに下から2番で話が通じないのは私じゃろう。
そして下から1番は、なんというか、言わずもがなじゃろう。
「ぶひょぶひょぶひょ」
笑って居る。
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「それにしてもオーダーよ。
39回転って。
いくら『10本の指☆完全回復記念』とはいえ、めちゃくちゃじゃあないか」
「え?
ボツリヌス様。
そうはおっしゃいますが。
39回転は、基本料金ですよ?」
「え?」
「え?」
「……基本料金?
え?
込み込みぷらんじゃなくて?」
「そうですよ。
屋敷に帰ったら、ちゃんと追加料金を清算してくださいね☆」
ぎえええええ。
てっきり禊は済ませたと思ったのに。
例の39回転は、オーダーから言わせれば、最低限の回転数だったらしい。
屋敷に帰って、私の話を聞いてから、ゆっくりと追加の回転を加えるつもりなんじゃろう。
ふえええええ。
「それにしても、あんな肉塊の状態で、どうして周りの状態が分かったんですか?」
「ああ。
それはのう、『5感開放』というすきるが……」
「……はあああああああああああ⁉」
……いきなり、叫ばれた。
あ、あれ?
いきなり虎の尾っぽを踏んだらしい。
「……ボツリヌス様、そのスキルは、今すぐ捨ててください」
「……え、え?
なぜじゃ、便利なのに」
「……『5感開放』のスキルは、人間には早いスキルと言われています」
「に、人間には早いスキル?」
「使うと脳がついていかずに、七孔噴血して果てるのです」
「し、七孔噴血、とな」
な、なるほど、それは確かに声を荒げてしまうのも無理はない。
ふむ、思い起こしてみれば、5感開放は、使うたびに相当に精神をがりがり削っておった。
人間の体で使っていたら、体中の孔という孔から、血を吹いて死んでおったのかもしれぬ。
はんばーぐだったから、助かったのじゃろう。
むしろ中がじゅーしーになって、ちょっと美味しくなったくらいで済んだのじゃ。
「そ、そんな恐ろしいすきるが、あるんじゃのう」
「まあ、ハズレスキルはむしろメジャーですよ。
5感開放なんて、その代表格です。
寝ぼけて使って、死んじゃうスキルですね」
なにそれこわい。
と、そんな話をしていると。
「……あそこですか」
「ふむ。
魔貴族城じゃ」
我が魔貴族城が見えてきた。
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「はじめまして、ピッグテヰル公爵、で良いのかな?
僕の名前はニンニク。
この城では、ボツリヌス様の補佐をしているよ」
「ふ、ふむ、ふむ、ふむ。
成程。
つまり、貴様が。
す、全ての、発端だな」
城に招き入れられたセルライト、バトラー、シャーデンフロイデ。
そして、私とオーダー。
5人に向かい合うのは、ニンニクと、はーれむ3兄弟。
……なんとも不安なめんつ。
因みに外野では、シツジとうんこ好きと剛力が、はらはら状況を見守っておる。
「え?え?
お、お母様って、結婚していたんですか⁉」
息子を自称するうんこ好きが、小さな声で失礼な言葉を吐いておる。
まったく、私の魅力ならば、当り前じゃろう。
見よ、このたまご肌を!
「……最初に言っておくけど。
魔貴族になったものにとって、自領を守るのは権利であり義務だ。
僕はその手伝いをしたに過ぎないよ」
「ほ、ほう。
つまり、き、貴様の正義というのは。
幼女を浚って監禁すること、なのだな?」
「……必要とあれば、ね」
セルライトの訳のわからない威圧を受けても、ニンニクは平然としておった。
流石はニンニク。
ちょっと鼻が高いぞ。
「というか、そういう水掛け論は、止めにしないか?
僕から一つ、提案があるのだけれど」
「ほ、ほう、面白い。
言ってみろ」
「ボツリヌス様には、引き続き魔貴族として働いてもらう。
但し、働く場所は、ピッグテヰル公爵領に移ってもらう。
……これで、どう?」
……お、おう?
つ、つまりこれは、私がピッグテヰル公爵領に帰ってもいい、という事じゃな。
私は名前だけの魔貴族となり。
後のことは、ニンニクたちが何とかする、という事じゃろう。
しかし、大丈夫か?
私がいなくても、本当に大丈夫か?
私は、自分が魔貴族領で行ってきた大変な仕事の数々を思い出す。
うむ。
大体が、酒池肉林じゃった。
いなくても大丈夫じゃな、私。
それにしても、ニンニクの提案は、一方的に魔族側に不利な様に思えるが。
「……ボツリヌス様には、いろいろ、苦労を掛けたからね。
本当はお飾りでも、いてくれた方が助かるんだけれど。
これ以上はもう、申し訳ないかな」
ニンニクはそう言って、私に笑いかけた。
うう。
やっぱり、良い奴じゃ。
私の体が2つあればいいのに。
私がぽろぽろと涙をこぼす。
「奥様……」
「ぼつりん……」
「ボツリヌス様……」
「とろこね……」
両陣営、少しだけ和やかな雰囲気になった。
なんとなくいい感じで、話がまとまりかけたところで。
「……ぶひょ、ぶひょ。
ぶひょひょひょひょひょひょひょひょひょ!」
……どこからか、不穏な笑い声が、聞こえた。
「な、何とも、笑わせるではないか!」
爆笑しながら、手をぱんぱんと打つと。
ぎしぎしと、座っている椅子が悲鳴を上げておる。
「お涙頂戴、そう言いたい所だが……」
一頻り笑った後。
奴は、とびっきりの笑顔で、こう言った。
「……じょ、譲歩した、つもりか?
そ、それで?」
なんという、まじきちすまいる。
声を上げたのは、当然。
……我らが、話が通じない人、なんばーわん、じゃった。