第17毒 猛毒姫、挨拶する
氷漬けのオーダーを復活させて、次の親しい者に挨拶に行くことにする。
「ボツリヌス様、次は誰のところに行くつもりですか」
「メイドのマー坊のところじゃ」
「え!?ボツリヌス様、マーともお話しするんですね」
そんなことを話していると廊下の向こうからマー坊がやってきた。
ちんまい身長のマー坊は、確か今年で14歳、自分の身長より長い緑色の髪を揺らして慌ただしく動いておった。
自分の身長より長い髪は、謎の重力で彼女の足元に行かない様になっているようであるが、次の瞬間にでも転びそうでこっちがはらはらしてしまう。
「マー坊よ、久しぶりじゃのう」
「ボ……ボツリヌス様!あわわあわわ」
「私はまた暫く引き篭る予定じゃからのう、挨拶に来たぞ」
「あわわあわわ」
「しばらく会えぬが、達者に暮らせよ」
「あわわあわわ」
「うむ。仕事中引き留めて悪かった、それじゃあの!」
「あわわ、し、失礼します!!」
マー坊は地面に頭が付くほどの180度礼をするとぱたぱたと走り去って行った。
「マー坊は良い奴じゃのう」
「マーが良い子なのは否定しませんが。
……まさか、今のを親しいカウントしているんですか?
とても仲良しの会話内容ではなかったですよ?」
「そうかのう」
マー坊は優しい奴である。
周囲からは私を無視する様に言われておるようじゃが、4歳児が話しかけてるのに返事をしないのが耐えられないらしい。
結果、上記のような『あわわ会話』になるのじゃが、彼女の場合は顔が口ほどに物を言うため、会話になってしまうのじゃ。
それがあまりにも面白くて、申し訳ないが一方的に声をかけて楽しんでおる。
例えば、今の会話でも私が引き篭ることをマー坊が心配していることや、わざわざ自分に挨拶に来てくれたことへの嬉しさがその表情から伝わってきた。
しかし、マー坊が180度礼をする度、私の顔に毎回髪の毛をぶつけるのをどうにかして欲しいがの。
「はあ……そうですか。
もういいです、次行きましょう。
次はだれですか?」
「あとは、奴じゃのう」
私は廊下にあるトキシン家の家宝を磨き上げて満足気な若々しい男めいどを指さした。
……男めいどって、めいどの語源的にどうかと思うのじゃが、まあ良い。
男めいどはすらっと伸びた体に燕尾服を身に纏い、橙色の髪の毛を私と同じようにおかっぱ、前髪ぱっつんにしている。
オーダーは男めいどが視界に入っていない様に不思議がる。
「奴って……家宝の壺くらいしかありませんが」
「ほら、おるじゃろう。テーラーじゃよ、確かオーダーと同い年の」
「え、いや、だから、テーラーしかいないじゃないですか」
此奴はなにをいっておるのじゃ?
まあ良い、テーラーにも声をかけておくか。
「テーラーよ、精が出るのう」
「チッ……毒舌娘……」
テーラーがあからさまに舌打ちをしながら私を見下ろして呟く。
「私はまた暫く引き篭る予定じゃからのう、挨拶に来たぞ」
「もう永遠に出てこなくても良いぞ」
「しばらく会えぬが、達者に暮らせよ」
「今生の別れにしたいところだ。出来れば死んでくれよ」
「うむ、仕事中引き留めて悪かった、それじゃあの!」
「二度と話しかけるな、トキシン家の黴菌」
テーラーは先ほどまでまで家宝の壺を拭いていた布巾を右手でつまみあげ、私の顔にぺしゃりとぶち当てた後、その布巾を塵箱に叩き込み、すたすたと歩き去って行った。
「テーラーは嫌な奴じゃのう」
「テーラーが嫌な奴なのは否定しませんが。
……まさか、今のを親しいカウントしているんですか?
とても仲良しの会話内容ではなかったですよ?」
「そうかのう」
……ふむ。テーラーは嫌な奴ではあるが、性格が悪いわけではない。
奴は、自身を雇っているテトロド・トキシン侯爵を尊敬し、忠誠を誓っているのじゃ。
偉大なるトキシン侯爵を豚扱いする私など、まさに黴菌の様にしか見えないであろう。
それに、他のめいどなどは事なかれ主義で私が話しかけても答えてくれないが、奴はちゃんと私と向き合って話してくれるというのが点数が高い。
「はあ……そうですか。
どう考えてもおかしいですが、もういいです、次行きましょう。
次はだれですか?」
「ん?これで終わりじゃが」
「そうですか。これで終わ……
って、えええええええええええええええ!?」
オーダーは私の宣言通り、その場で腰を抜かして白目を剥いた。
ユニークアクセス48を達成しました。
2014/10/24の初回投稿の47アクセスを今回でやっと超えられたので記念書き込。
初回で速攻エタってしまったから仕方無いね。
こつこつ行こー




