第169毒 猛毒姫、梅干す
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あらすじ
ゴキブリは頭を切られてもすぐには死なない、が。
その状態で数週間経過すると、流石に命が尽きるという。
因みに、死因は。
餓死。
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おい。
なぜごきぶりを例に出したのじゃ。
うう。
でも、確かに、このままでは私、餓死しちゃう。
「……マザー、ハンバーグ、食べられないの?
……えい」
シツジが私に、ハンバーグのデミグラスソースをかけてくれた。
なるほど、液体であれば表面から栄養に消化できるやもしれぬ、と思ったのじゃが。
駄目じゃ、消化できぬ。
それどころか、いよいよ、美味しそうな巨大ハンバーグになってしまった。
まるで、子供の浪漫じゃ。
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数日が経過した。
「……」
「……」
「……」
「……」
シツジと、ニンニクと、なぜかまだ屋敷に居る剛力と、なぜかまだ屋敷に居るうんこ好きが。
酸っぱそうな顔でこちらを見ている。
「……マザー……一体、僕は、どうすれば……」
酸っぱい顔をしながら、白米を貪るシツジ。
「ボツリヌス様……もう、無理なのか……」
酸っぱい顔をしながら、白米を貪るニンニク。
「くそ、一体どうすれば良いんだ!」
酸っぱい顔をしながら、白米を貪る剛力。
「誰でもいい!
お母様を助けることのできるものは、いないのですか!」
酸っぱい顔をしながら、白米を貪るうんこ好き。
「……」
私は五感開放で、自分の姿を確認する。
綺麗なまん丸だった私は、数日間の絶飲食を経て、すっかりしわしわになっておった。
うん。
どう見ても。
大きな、梅干しじゃった。
……て言うかお主ら、私をおかずに飯を食うな。
しかし、そろそろ、流石にやばいのう。
絶食はまだいけるが。
絶飲食となると、もう限界に近いぞ。
……そうじゃ、バトラーじゃ。
彼奴さえ居れば、元の姿になれる。
幸い私には五感開放があるからのう。
破ー!
……お、東の方から、何か桶みたいな物を背負った坊主が一人で歩いてきておる。
いや、東を見ても意味が無いんじゃった。
西側の、人間界側を探さなくては。
破ー!
む、いたいた、バトラーじゃ。
あれ、結構近くに居るのう。
もしかして、ここから数㎞も離れておらぬぞ。
私は視界を更に広域にしてみる。
お、近くにはセルライトもおるようじゃ。
更に遠くには、オーダーもおる。
更に遠くには。
……おやおや、あれあれ、なんじゃなんじゃ。
ぐ、軍隊が出動しておるぞ。
そこには。
魔族領を蹂躙せんとばかりの豚公爵軍が、展開しておった。
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とりあえず五感開放で聴力を近くまで持っていくことにした。
「皆の者、偉大なるセルライト・ピッグテヰル公爵様より、訓示がある!
心して聞くように!!」
「「「ワーワー!」」」
「ぶひょ、ぶひょ!
み、皆の者、奴らはわ、吾輩の妻、ボツリヌスを誘拐するような真似を、し、し腐りおったのだ!!
わ、吾輩の妻ということは、き、貴様らの母親も同然!
母親を攫う、そ、そんな奴らを、き、貴様らは一体どうする!?」
「「「白き正義を! 白き正義を!」」」
「い、今から侵攻する街には、老女が、幼児が、中年が、少女が、壮年がいるだろう!
そ、そんな奴らを、き、貴様らは一体どうする!?」
「「「白き正義を! 白き正義を!」」」
「そ、そうだ貴様ら!
今こそ奴らの口腔内に!
直腸内に!
子宮内に!
吾輩達の、白き正義を、そ、注ぎ込んでやるのだ!!」
「「「白き正義を! 白き正義を!」」」
あっ。
これ、だめな奴じゃ。
「先輩……ま、マジですかコレ?」
「ああ、お前新入りか。
これは、なんというか、一種のノリだ。
そして公爵様は、アレだ、反面教師だ。
絶対変なこと、すんなよ。
同類と思われるぞ」
「う、うす!」
と思いきや、意外と統率がとれていそうな声も聞こえてきた。
それにしてもセルライトの軍隊は、すっかり意気も軒昂じゃ。
……いや、これ、やばくないか?
町が蹂躙されるぞ。
私がぴょんぴょん飛び跳ねて危険を知らせておると。
「……西からの軍隊は、ボツリヌスの仲間か」
そんなことを言って立ち上がるものがいた。
……案の定、剛力殺じゃ。
「え、軍隊?」
「どうやらボツリヌスを取り返しに来たらしい。
我がともに、向かおう」
「ま、待ってください、剛力様。
ボツリヌス様は魔貴族なのです。
この領地から離れていただくわけには……」
「此奴は、もう死ぬぞ?
貴様の都合で連れてこられて。
貴様の都合でこんな姿になり。
貴様の都合でここで飼い殺しにするつもりか?」
「ぐ、ぐううっ」
ニンニクは、2の句が告げぬ。
……ちょっと早口言葉みたい。
ニンニクハニノクガツゲヌ。
「行くぞ、ボツリヌス」
剛力が、私を頭の上に持ち上げると。
「破ー!」
凄い風が巻き起こり。
そして、その状態で、既に。
セルライトの真ん前に、いた。
正義の主人公:豚公爵様、やっと戻ってきたんじゃー




