第161毒 猛毒姫、心を開かせる
終電ちゃんという漫画が、とっても面白いです。
布教したいのに、知り合いは誰も読んでくれない。
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あらすじ
世界は2人の最強の存在を許さない。
宮本武蔵と佐々木小次郎、然り。
バッ○マンとスー○ーマン、然り。
そして……。
「……呪われし神よ、今こそ貴様の滅びる時。
我は第八無限地獄の底より舞い降りし鬼神!
人呼んで、聳え立つ奈落・剛力殺だ!!」
「子鬼が吠えて、全く可愛らしいのう。
底浅き底無し地獄の主よ、奈落と言う物の本当の黒を教えてやろう!
私は生ける猛毒にして、第八無間地獄を現世に顕現させる慈悲深き邪神・ボツリヌスじゃ!!」
ぶつかりあう2柱のKAMI。
どちらが勝っても、人類の地獄が始まる……。
鬼神≪KIJIN≫ VS 邪神≪JASHIN≫
2016年 夏 COMING SOON !!
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……え?
ちょっと待って。
かみんぐ・すーんて。
……来ないよ?
「おい、小娘」
「なんじゃ、殺よ」
結局、殺の奴は私の屋敷に転がり込んで居候をしておる。
既に数日が過ぎておるが、その視線はだんだん冷ややかな物を見る目になってきておる。
「お前、さっきから何をしている」
「え?
逆立ちじゃが」
私はと言えば、最近、逆立ちの練習を始めた。
来る日に備えての準備じゃ。
鼻から行くのは何とかなると思うのじゃが、逆立ちが出来ないのでのう。
「……壁を使わないと、出来ないのか?
逆立ち、だぞ?」
「何事も、鍛練よの」
「まあ、それは、そうだが」
壁を使っての逆立ちの練習。
殺の奴はすっかり毒気を抜かれておる。
まあ、こんな私の日常を見ておったら、戦う気など失せるじゃろう。
それも狙いの一つなんじゃが。
「よーし、5秒達成じゃ!」
「……良かったな」
ぜーぜーしながら勝利に酔っておると、殺が褒めてくれた。
「……マザー。
洗濯、終わったよ」
「おお、シツジか」
とてとて、とやってきたのは、私の息子、シツジじゃ。
「お主は別に家事なぞしなくても良いのじゃぞ?
私と一緒に酒池肉林しようじゃあないか!」
「……別に、大丈夫」
……うーむ。
なんだかシツジの奴、いつまでも打ち解けないのう。
なんじゃろ。
元気が無いと言うか、感情が無いと言うか。
まあ、記憶を失っておるし、ひどい目にもあっておるし、仕方ないと言えば仕方ないのじゃが。
これは母親としてどうにかしてあげねばなるまい。
「シツジよ、何か欲しい物はないか?
世界の半分とか」
「……いらない」
「美少女はーれむとか」
「……いらない」
どうしよう。
此奴の欲しい物、全然分からんぞ。
「……家事は、好きだから、大丈夫」
なんだかそれはそれで心配じゃのう。
いろいろ考えたが、シツジはもしかしたら、感動が足りないのかもしれない。
感動は大事じゃ。
ただ、そうそう心動かされることなど転がっておらぬしのう……。
ふむ。
「……そういえばシツジよ、誕生日って知っておるか?」
「……誕生日?
知ってはいる……覚えてないけど」
「よし、じゃあ本日、8月1日をシツジの誕生日にしようじゃあないか!」
「……僕の、誕生日?」
お、少しだけ目に光が灯った様じゃ。
こういう精神的なものが情操教育に大事なんじゃよな。
子育てとか、初めてじゃが。
「それにしてもシツジは欲しい物がないらしいからのう。
何をあげようか……」
シツジはどうやら物質的なものはそんなに欲しくないらしい。
では、いったい何を……。
少しだけ考えて、私は思いついた。
「それではシツジよ。
貴様には、絶景をくれてやろうじゃあないか!」
私は魔石を握ると、光魔法を唱えた。
私の使う光魔法は、光が無いと使えない物。
そして、反射した光を操る物。
「……!!」
というわけで、先ほどまでいたボツリヌス城の一室は。
別の世界の空間になっておった。
「……な、なんだここは!」
辺り一面雲の海。
殺の奴は驚いておるが、次第に魔法によるものだと分かった様じゃ。
光魔法は、光を操る魔法。
つまり、いめーじした景色を映すことも可能じゃ。
私がいめーじするのは、この世界で一番の絶景。
あたり一面の雲海。
足元には、鉱国の象牙壁。
そう。
ここは、象牙壁の、てっぺんじゃ。
「どうじゃ、シツジよ!
流石に心動かされる風景じゃろうが!!」
一面に広がる空の真ん中で、私は呵々大笑する。
「……」
む、無言か……。
「……凄い……綺麗……」
お。
やっとシツジから、まともな感情を持つ言葉を聞いた。
まあ、そりゃあそうじゃ。
あの『時魔法使い様』ですら心動かされた風景じゃからのう。
なんというか、古いようで、新しい。
初めて見るようで。
「……なんだか、懐かしい……」
そう。
まさにそんな、風景じゃ。
シツジの目に、少しだけ感情らしき物が宿った気がする。
良かった、良かった。
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「小娘よ。
あんな凄い魔法を見せつけた後に、今度は何をしているんだ」
「え?
酒池肉林じゃよ?」
「私は貴女のペットです、ご主人様!」
「ボツリヌス様、どうして君は夢の中にまで出てきて僕を苦しめるの?」
「とろける様だよ子猫ちゃん」
「……もう、いい」
やっと殺が諦めてくれたようじゃ。
心の中で呵々大笑しておると。
「……食事、作った」
「おお、シツジよ、有難う!
でも、別にお主が作る必要はないんじゃよ?」
「……好きでやってるから、大丈夫」
お。
言葉に少し感情が入り始めている気がする。
良い傾向じゃ。
それにしても今回のは、なんだか嫉妬の様な気持ちが混じっている気がするのう。
……何故じゃ?
私が不思議がっておると。
シツジは、とてとて、と私に近づくと。
ぎゅう、と抱きしめながら、恥ずかしそうに言った。
「……と、とろける様だよ、子猫ちゃん」
うわ。
なんじゃこの可愛い生き物。
ぅゎ ιっι゛ ヵヮぃぃ