第160毒 猛毒姫、誤魔化す
流石に義理の息子達はもう増えません。・・・多分。
*******************
ムスコォ・プリンスのあらすじ
ある日突然、貴女に12人の義理の息子ができたらどうしますか?
それも……とびっきりかっこよくて。
とびっきり素直で。
とびっきり愛らしくて。
とびっきりの寂しがりや。
しかも、そのうえ……彼らはみんなみんな、とびっきり!
……お母さんのことが大好きなんです。
*******************
なんじゃこの、とびっきり気持ち悪いあらすじ。
ムスコォ・プリンスって。
……ちょっとだけ興味があるじゃあないか。
まあ、げーむなら良いが。
実際にやられると2人……人?でも困るぞ。
“……ハハウエ……。
……オヒサシブリ デス……”
「しゃ……喋る……だと!?
ありえん!!」
剛力がびびっておる。
正直、私もびびっておる。
「おい、村長よ。
何があったのか、説明して貰おうか」
「畏まりました、邪神様」
違う。
「我々は、邪神様が蜜魔法魔法陣を描いた事に大変感謝しております」
「ふむ」
「そこで我々は考えました。
この御恩に報いるには、一体どうすれば良いのかと」
ここまでは別に間違っていないのう。
「成程、それでどうしたのじゃ?」
「下賜された邪木様に、大量の魔力を注ぎ込むことにしたのです」
……えっ。
なんでじゃ。
全然意味が分からぬが。
「雨の日も、風の日も、我々は村人が入れ代わり立ち代わり邪木様に魔力を注ぎ続けたのです。
そうしたら」
「そうしたら?」
「喋りだしました」
「なぜええええ!?」
余りにも理解不能な行為に理解不能な現象。
私は思わず突っ込みを入れるが、横でニンニクは成程と頷いておる。
「……そうか。
普通の木がトレントになるには100年くらい月の光を浴びて魔性を帯びる必要があるんだけど。
彼らがその代わりをやったって事か」
「馬鹿な、それでもおかしいぞ。
トレントが人……というか動物を襲わないなど、聞いたことが無い!」
剛力が頭を振るのに対し。
村長が自信満々に答える。
「勿論それは……邪神様が授けて下さった邪木様だからなのです!!」
違うぞ。
まあ、これで何故私が邪神呼ばわりされておるのか分かった。
この不思議なトレントのせいなんじゃな。
因みにこのトレントが人を襲わない理由は何となく分かっておる。
恐らく樹木がトレントへ変化した時、必要な栄養量や魔力量が著しく上がるのじゃろう。
それを補うために、通常のトレントは周囲の生き物を襲う事を余儀なくされるのじゃ。
しかし、このトレントは違う。
蜜魔法のお蔭で、大量の昆虫がいつでも手に入る。
しかも魔力は村人たちが直接大量に与えてくれる。
結果、此奴は生き物を襲う必要が無かった。
そして、その得るはずの戦闘力の代わりに得たのが恐らく。
“……ムラノ ミンナ ヤサシイ……
……ミンナヲ マモル……”
恐らく、知力じゃ。
「……まあ良い。
そいつが村を襲っていないというのなら、我は矛を収めよう」
剛力は理解力の速さを見せた。
……と言うか、思考停止した気がする。
“……ハハウエ……”
「私は“……ハハウエ……”ではない!」
多分樹齢とか、私の年齢より上じゃろう、此奴。
“……ハハウエガ ボクヲ ソダテテクレタ……”
「育てたのは村人達じゃ、私じゃない!」
“……ハハウエガ ボクニ マホウジンヲ キザンデクレタ……”
「刻んだのはこのないふじゃ、私じゃない!」
“……ハハウエ ボクニ ナマエヲ クダサイ……”
くそ、此奴め、どこまでも人の話を聞かぬ奴じゃ。
親の顔が見てみたいわ!
「……因みにここで名前を与えると、息子として身請けすることになるよ」
「おお、ニンニクよ、やはりか」
ないす情報。
まあ、こんなあからさまな名づけなんぞ、怪しすぎて誰もせんがのう。
よほどの阿呆でもない限りは。
よし、適当に誤魔化す事にしよう。
「よおし、分かったぞ。
お主がもっと大きくなったなら、考えてやってもよい」
“……オオキクナッタラ?……
……ドレクライ?……”
「さあのう?
ま、精々頑張って大きく育てよ。
寄らば大樹の陰、とは良く言ったものじゃからのう」
“……ヨラバタイジュノカゲ カ……
……ワカッタ 木 オオキクナル……”
むふふ、上手くいったぞ。
詳細な大きさは伏せておくのがぽいんとじゃ。
これならば、どれだけ大きくなったとしても『まだまだ』と言って断り続けることが出来るからのう。
「我々も、頑張らせて頂きます!」
何故か村長が声を上げた。
やめい。
まあ、とりあえず、これで一件落着と言ったところか。
わっはっは。
さあ帰ろう。
「ちょっと待て小娘、どこへ行く」
ぎくり。
「そもそも小娘、貴様に会う事が目的だったのだ。
さあ、我と戦え」
「ま、まあ待て剛力よ。
貴様の方が強いのは私も認めよう。
お主が戦いたいのは、変わった戦い方をする私であろう?」
「ぬ?
まあ、そうだな」
よ、よし、なんとかなるか。
「今は体力や魔力が本調子ではない。
たいみんぐを見て必ず貴様とは戦う。
誓おう」
「それで、その日時は具体的にいつになるのだ?」
ぐ、此奴。
先ほどのトレントとの会話から、私が戦う期日を設定せずに誤魔化し続けるなどと思っておる様じゃ。
なんという侮辱じゃ!
そして。
なんという図星じゃ!
脳味噌筋肉君だと思っておったのに。
……仕方あるまい。
私は剛力に向かって指を指す。
……実際はその後ろの、遥か遠くの山脈へ向けて、魔力を集めて。
「死の洞窟」
例のいんちき魔法をぶちかます。
ドゴオオオオオオオオオオ!
山に、巨大な穴が空いた。
数百㎞は先のはずじゃが、信じられない轟音がこちらまで響き渡る。
流石に剛力も驚愕の表情で後ろの山脈に空いた穴を見ておる。
まるで巨大な衝撃波で破壊されたような、その穴を。
……実際は、土魔法でこの距離からとんねるを掘っただけじゃけど。
私は成るべくくーるに笑うと、剛力に伝える。
「そう急くな。
私だって、貴様とやりたくてうずうずしておるのじゃ」
「……分かった、待ってやろう」
剛力の奴、何故ここで笑顔を浮かべるのじゃ。
変態か。
こんな奴と戦えるわけ無かろう。
「それまでは、小娘の屋敷で世話になるとするからな」
えっ。
なんでじゃ。
私がおたおたしておると。
ニンニクが恐ろしい情報を追加してきた。
「因みに剛力殺様はヒトケタの鬼種だよ。
純粋なパワーで勝てるのは、竜種と魔王様だけだろうね」
ま、まじかそれ。
ぬぐぐぐぐ……。
“……ハハウエ ガンバッテ……”
うるさい!
ムスコォ・プリンス、大手ゲームメーカーの方とかいましたら、製品化を検討して頂いても良いんですよ?




