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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
日常編
16/205

第16毒 猛毒姫、放棄する

 調理場にいる仲の良い者と言うと、勿論(もちろん)コック料理長のことである。

 コックは昼食の片付けをしながら夕食の仕込みをしていた。


「なんだ、ボツリヌス様じゃねぇか、どうしたぃ」


 コックは馬鈴薯(じゃがいも)の皮を剥くのを止めて返事をした。

 相変わらず普通にしていれば、だんでぃー風のいけめんである。


「ふむ、また(しばら)く引き篭る予定なのでの。挨拶じゃ」


「子供は外に出て遊ぶのが一番だぞ」


 コックは苦笑いをすると馬鈴薯(じゃがいも)に向き直り皮剥きを再開する。


「ん?朝飯の食器を持ってきたんじゃないのか。味はどうだった?」


 ……えっ。……あっ。食べてない。

 オーダーに5時間くらい怒られていたからすっかり食べるのを忘れておった。

 後ろでオーダーもあからさまに慌てておる。


「今日はボツリヌス様が好きかと思って玉子焼きを甘くしておいたんだが」


「うむ。私はお子様じゃからのう。あの位の甘さが調度良いの」


「そうか。今日のメニューに玉子焼きは無かったんだがな」


(たばか)られた!?」


 ぬうう、老功(べてらん)詐欺師の私がこんな単純な鎌掛けにまんまと引っかかるとは……。

 コックは再度皮剥きを止め、こちらを向き直ると何故かオーダーに怒りの矛先を向けている。

 歴戦の戦士の様にドスの効いた声で話を続けた。


「どうせお前ぇのせいだろ、オーダーぁ。

 ボツリヌス様はいつも完食してくれるからなぁ。」


「あばばばばっばbっばばb」


 何故か激しく怯えるオーダー。

 ……救助(ふぉろー)しておくか。

 実際、オーダーが怒ったせいで朝食を食べそこなったのじゃが、オーダーが怒ったのは私のせいじゃからの。


「済まぬコックよ、お詫びにまた私の作った飯でも食べてくれぬか」


「……ほぅ」


 コックの背中から赤い炎が揺らめいておる。

 此奴は私を料理の好敵手(らいばる)と見做しているようじゃ。

 さて、今日はどんな魔改造系料理を作ろうかの。

 コックが準備した夕食の食材を眺める。

 牛と豚の挽肉(みんち)に玉葱のみじん切り、れたすにとまとの輪切りか。

 うむ……昼食の白米も残っているようじゃ。

 よし、あれを作るか。


「コックよ、夕食の材料を少し頂くぞ」


「ああ、構わねえ。

 魔法陣に火を入れておくぞ」


 コックは焜炉(こんろ)代わりの魔法陣に魔力を注いでくれた。

 浅鍋(ふらいぱん)に油を落として玉葱、挽肉、茄汁(けちゃっぷ)と順番に炒める。

 それらをまとめて白飯に乗っけて、野菜を散らせば完成じゃ。


「ほい。たこらいすじゃ。大分簡単に作ったがの」


「成程。タコスの生地をご飯で代用したのか

 畜生、見た目通りの味だが、美味ぇじゃないか!」


 コックがまた感極まってぶるぶる震えだしたので、そっと視界の外へ移動させた。

 全く残念ないけめんじゃ。

 お、そうじゃった。


「ほい。オーダーも食べるじゃろ?」


「え?いえ、私はちょっと……」


 オーダーは何か言い淀んでいる。

 此奴もまだ飯は食べていないはずじゃが……


「オーダーは肉が苦手でな。

 余った分は、俺がたべるさ」


 なんと、オーダーは本当に(にく)より河豚(さかな)派であったか。

 しかしオーダーは(かぶり)を振った。


「いいえ、確かに肉は苦手ですが……

 ボツリヌス様だって苦手な魔法をどうにか使えるように努力しているんです!

 私だってトラウマの一つや二つ、乗り越えて見せます!」


 オーダーは勢い良く、たこらいすを口の中に流し込む。

 しかし心的外傷(とらうま)を乗り越えるどころか、むしろ派手に乗り上げてしまった様じゃ。

 吐きそうになる衝動を抑えるべく無理矢理手で口や鼻を塞ぎ。

 次いで目と耳も塞ぎ。

 それでも抑えることが不可能と判断した為か、オーダーは無詠唱の氷魔法を使って自分の顔全体を氷で覆い、そして彼女は動きを止めた。

 こ……呼吸は?


「有難うな、ボツリヌス様」


 唐突にコックが私に話しかけた。


「俺はな、ボツリヌス様が生まれてくるまでオーダーが笑った顔を見たことがなかったんだぜ。

 あんたが生まれて、侍女の役目を貰った時も、ブスーっとしていたもんさ。

 でも、あんたの世話をしているうちに、段々に喜怒哀楽を思い出したんだろうなぁ。

 正直今のコイツの様子は、数年前だったら想像もできねぇくらいだ」


 そうなのか。

 私からすれば、喜怒哀楽の無いオーダーの方こそ想像が出来ない。

 ボツリヌス様が弱かったから。と、コックは続けた。

 だからこそ、オーダーはこんなに優しくなれたのだと。


「ボツリヌス様、あんたの魔力量や体力量をバカにする奴は多いかもしれない。

 だが、あんたが弱いお陰で、一人の人間の笑顔を取り戻せたんだ。

 それは凄い尊いことで。胸を張って、良いと思うぜ」


 そう言うと、既に失禁し終えていたコックは、既に呼吸が停止し机に突っ伏している氷漬けのオーダーを優しい笑顔で見つめた。


「そうかい。」 


 私は、突っ込みを放棄した。

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