第159毒 猛毒姫、息子が増える
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前回のあらすじ
0.3486784401。
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それでは屋敷へ帰ることにしよう。
早く酒池肉林する作業に戻らねば。
「その前にボツリヌス様、例の生贄の子だけど。
本人にも聞いておいたけど、身請けする形でオッケーだって」
「あ、そうじゃ、忘れておった」
ニンニクの後ろには、生贄の羊君がおる。
「羊君よ、これからお主は私の屋敷で働くことになるが、良いか?」
「……うん」
無口じゃ。
草食系男子。
羊じゃった。
「それで羊君よ、名前はなんという」
「……忘れた」
「む?」
流石に自分の名前は忘れないじゃろう。
怒っているのかしらん。
「違うよボツリヌス様。
どうやらこの子、記憶喪失みたい。
どこかから逃げ出してこの村に来たらしいんだけど、逃げ出す前の事は全然覚えていないってさ」
なんと不憫な。
記憶を忘れて彷徨って、流れ着いた村で生贄にされるとは。
「それにしても名前が無いとは困るじゃろう。
取り敢えず名前を付けておくが、良いかのう」
「……うん」
名前か。
名前のう。
ふむう。
「シツジにするか」
羊じゃし。
「……うん」
ぐ、全然感情が読めぬぞ。
「じゃあシツジ、始めるよ」
「……うん」
ん?何を始めるんじゃろう。
「『汝、シツジは魂の盟約を結びボツリヌス・ピッグテヰルに忠誠を誓え』」
「……誓う」
ニンニクから光が発せられたかと思うと、シツジの手に刻印が刻まれていた。
「身請け、完了」
「あ、身請けってこんなに大がかりなものだったんじゃな」
もっと言葉的な物とか、書類的な物を想像しておったので驚いた。
「まあ、魔貴族様が子供の一人や二人攫っても犯罪にすらならないけど。
住民の心証の問題もあるし、一応ね。
これでこの子はボツリヌス様の息子になったよ」
……。
えっ。
「さあ行こうかボツリヌス様」
「いやちょっと待て。
今、さらっと流せない言葉が聞こえたのじゃが」
「?」
「『?』じゃないが」
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話を聞くと、どうやら身請けと言うのは孤児を親戚とか家族にするものらしい。
私の場合は結婚しているので息子扱いになるそうじゃ。
ニンニクはてっきり私も理解している物だとばかり思っていたとのこと。
「と、取り消せないのか?」
「魂に誓った刻印だから無理だよ」
うん、そんな気はしていた。
ど、どうしよう。
攫われた先で、子供まで作ってしまった。
セルライト、認知してくれるじゃろうか。
私が青い顔でわたわたしておると、シツジが近寄ってきた。
「……僕、死のうか?」
「……!!」
私は自分より頭1つ分小さいシツジの頭を抱きしめる。
「心配かけてすまんのう、シツジよ。
大丈夫じゃ、一緒に生きていこうじゃあないか!」
しんぐるまざーも覚悟の上。
私は可愛らしいヒツジの角をもふもふしながら決意を新たにするのであった。
「……よろしく、マザー」
マザーって、ちょっと恥ずかしいのう。
それにしてもまさか若干6歳で息子が出来るとは思わなんだ。
……あれ?
以前にもなんだ似たような事があったような無かったような。
……まあ、気のせいか。
そんなにぽんぽん血の繋がらない息子が出来るはずがあるまい。
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というわけで帰ることになった。
村々の上空を飛んでおると、気が付いた村人達が手を振りかえしてくれて嬉しい。
しかし、直近の食糧不足は回避したものの、やはり慢性的な食糧不足に関してもどうにかしたいところじゃ。
多分、土とかが痩せていて良くないんじゃろうけど、うーむ。
「……ボツリヌス様、僕の村に寄っても良いかな」
「ん?
勿論構わぬが。
この間行ったばかりじゃろ、何かあるのか?」
「村の方角に、何かいる」
ニンニクの顔を見ると、真っ青になっておる。
いや、もともとそんな顔じゃったか。
「何かいる、とは?」
「ここまで感じられるプレッシャー。
……恐らく、魔貴族様だ」
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ニンニクの故郷では、なんだか良く分からないことが起きておった。
武装する村人たち、木の化け物、そして1本角と赤い皮膚を持つ巨大な魔族。
多分、鬼じゃな。
それはともかく。
「な、何が起こっておるのじゃ」
「あの樹木の怪物はレッサートレントだね。
そしてアチラが13魔貴族の1柱……。
うん、やっぱり訳が分からない」
勿論、何故魔貴族が私の領地に来たのかも良く分からんが。
それ以上に現状がさっぱり理解できぬ。
まず、魔貴族がレッサートレントと対峙しておる。
これは分かる。
更に、魔貴族が村人たちと対峙しておる。
これもまあ分かる。
何故か村人たちがレッサートレントを庇う様に共闘しておるのじゃ。
どこをどう突っ込んでいいのか分からないので。
当事者に聞いてみることにした。
「おい、そこの鬼さんや」
「……なんだ、この小娘は」
鬼が私を一瞥して。
そしてニンニクを見た後に理解した様な表情をした。
「なんと。
小娘、お前が新しい13魔貴族なのか」
「らしいのう」
私の言葉がつぼに入ったのか、鬼は一笑いすると自己紹介を始めた。
「我は13魔貴族が1柱。
『聳え立つ奈落』こと、剛力殺だ」
駄目じゃ。
突っ込みどころが増えた。
聳え立つ奈落って恰好良いけど、良く考えると訳が分からぬ。
そして、剛力殺。
なんて読むんじゃろう。
読み方次第では小説が削除されるぞ。
NiO先生の次回作にご期待ください。
「剛力殺様、何故この村にいらしたのですか?」
おお、そう読むのか。
大丈夫な方で良かった。
「どうやら訳の分からない力を持つ13魔貴族がいると聞いてな。
小娘、お前に手合せを所望しようと来たのだ」
えっ。
嫌じゃ。
「で、小娘の屋敷まで歩いていると、たまたま村を襲うトレントを見かけたのでな。
暇だしぶっ殺してやろうと思ったら、何故か村人が邪魔してきたのだよ」
殺も肩を竦めておる。
成程。
魔貴族も現状を理解しておらぬ様子じゃ。
「これは、邪神ボツリヌス様より授かった、この村の宝なのです!」
私たちが理解に苦しんでおると、武装した村長が声を上げた。
……あれ?
この村では邪神扱いされていなかったはずじゃが。
そして当然、私はトレントをぷれぜんとした覚えなどないんじゃが。
それにしても、トレントの奴、全然人間を襲わないのう。
背中を向けている村人とかもおるのじゃが。
ひょいと樹の化け物を観察してみると。
……どこかで見たことのある魔法陣が胸に刻まれておった。
「あれ、もしかして」
私が驚いておると、トレントの方も此方に気が付いたようで、私に顔を向けた。
“……ハハウエ……”
喋った。
?「お母様、私もおりますよ!
ちょ、出番はまだですか?」