第158毒 猛毒姫、思い返す
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前回のあらすじ
雨を降らせる邪神が産まれました。
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村は歓迎もーど一色じゃ。
取りあえず村長の家で泊まることになったが、ひっきりなしに村人たちが食事やら何やらを持ってきてくれる。
しかしこの村の食糧事情を鑑みると、ここは我慢するのが正しいじゃろう。
食事は屋敷に帰ってから食べるとしよう……。
「邪神ボツリヌス様、これをお納めください」
「いらぬ。
と言うか飢饉なんじゃろ?
意外に食べ物があるんじゃな」
「これは来年の種もみです」
そんな大事な物を私にあげるな。
私は別に、世紀末覇者の世界のひゃっはー君では無いんじゃから。
「邪神ボツリヌス様、これは私の娘です」
「初めまして、邪神様!」
「おお。
可愛らしいのう。
なんじゃ、私の屋敷で働かせたいのか?」
「いえ、邪神ボツリヌス様の生贄にして頂きたいのです」
食べません。
そもそも神じゃあない。
と言うか、崇拝するのはまだ分かるが、『邪』って付けるな。
「あ。
生贄と言えば、あの生贄の羊君はどうなったのかのう」
すっかり忘れておった。
流石に殺されてはいないであろうが、こんなことがあった後であるし。
村には居づらいんじゃあないか?
「別所で待機して貰ってはありますが。
正直、持て余しております」
「さもありなん。
羊君、家族は?」
「いません。
と言うか、彼はつい最近この村に住みついた流れ者なのです」
おや。
大分幼いのに。
いや、魔族って若く見えるだけで本当の年齢なんて分からないが。
「これから村八分の様な状態は更に激しくなると思われます」
余所者とはいえ、可哀想じゃのう。
どうにか出来ない物か。
あ、そうじゃ。
「ニンニクよ。
彼奴を屋敷で雇おうじゃあないか」
それが一番良い気がしてきた。
「身請けする、と言う事かな?」
「身請け?
まあ、そう言う感じになるのかしらん?
詳しいことは分からぬからお主に任せよう」
「御意」
「……あ、しまった。
よ、良きに計らえ!良きに計らえ!」
言いたかった台詞を言うたいみんぐじゃったので連呼したのじゃが、すでにニンニクはいなくなっていた。
失敗か。
悔しい。
「それにしても流石は邪神ボツリヌス様。
あれほどの大魔法を使って涼しい顔をされておられる」
村長がきらきらした目で此方を見てくる。
「まあ、後2回くらいは使えるからのう。
そして、邪神はやめい」
魔力消費量は3くらいじゃったし。
私は、ずずっとお茶を啜ると、今回の魔法を考え付いたに至るオーダーとのやり取りを思い出す事にした。
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「オーダーよ。
そう言えば私、ちょっと考えたことがあるのじゃが」
「実にくだらない話ですね」
「ま、まだ何も言っておらぬ」
私は咳払いをすると、彼女に説明する。
「以前、『縄張り』について話をしたことがあったのう。
ある程度の距離までは魔法消費量は一定であるが、その距離を超えると指数関数的に増えていくと言う、あれじゃ」
「『第49毒 猛毒姫、縄張りを持つ』参照ですね」
オーダーが相槌を打つ。
「そして、こうも言った。
私の魔法、使用魔力量1に調整してあるが、特に良く使う魔法は消費魔力が1以下になっておると」
「『第90毒 猛毒姫、ブライニクる』参照ですね」
オーダーが再度相槌を……相槌か、これ?
「以上の事から導き出される事があるのじゃが。
小数点以下の魔法を遠距離で放つと、使用魔力量が減るのではないか?」
「……は?」
「もう少し分かりやすく解説してみよう。
私の『縄張り』の範囲は85㎝。
この範囲であれば魔法は通常消費魔力量通りで使用することが出来る。
消費魔力量3の魔法は3。
消費魔力量1の魔法は1。
消費魔力量0.9の魔法は四捨五入されて1で発動する。
ただし、消費魔力量0.9の魔法は10個いっぺんに放つと9の魔力量で発動出来る」
「ええ、分かります」
「これが170㎝、つまり2倍の距離であったとしよう。
消費魔力は距離に対して指数関数的に増えていく。
つまり2乗されるわけじゃ。
消費魔力量3の魔法は9。
消費魔力量1の魔法は1。
しかし、消費魔力量0.9の魔法は、あら不思議。
2乗すると、0.81になる。
なんと、元の消費魔力量よりも減っちゃうんじゃ
……まあ、結局四捨五入されて1で発動するんじゃが」
「……まあ、確かに、理論上はそうですね」
「勿論この程度ではどうしようもないが。
例えば距離が8m50cm、つまり10倍の距離であったとしよう。
消費魔力量3の魔法は……えーっと、3の9の27の……」
「59049」
「59049じゃ。
消費魔力量1の魔法は勿論1。
そして消費魔力量0.9の魔法はなんと……えーっと……」
「0.3486784401」
「0.3486784401じゃ。
魔力量0.9の魔法を2つ同時に発動出来る事になる!」
「これは夢が広がりますね!」
「そうじゃろう、そうじゃろう!
というわけで、実験に協力しておくれ」
「いやです☆」
「なぜええええ!?」
いつもの軽口かと思って突っ込んでみたが、オーダーは意外に真剣な顔をして居ったので、佇まいを改めることにする。
「理由は3つあります。
1つ目、今までそんな理論を聞いたことが無い、と言う事」
「そりゃあ聞いたこと無いじゃろう。
低すぎて誰も使わないと言われているLV1の魔法ですら消費魔力2じゃからのう。
加えて魔法を分解するという概念も、縄張りという発想もなかったのじゃから当然じゃ」
正直な所、大昔の大魔法使い達というのは、この理論に到達した者なのではないかと考えておる。
『大災害』のぺンツとか。
ペンツって確か、ぺてんって意味じゃよな。
「2つ目ですが、最終的には何万キロか離れて数百の魔法を同時に使って試験する事になるんでしょう?」
「……まあ、近距離の実験が成功すれば、そうなるじゃろうのう」
「それだけ距離を離れる手間が恐ろしくかかります。
そして、失敗したらボツリヌス様が死ぬかもしれません」
「じゃ、じゃから近距離で試しながら……」
「魔力量1の魔法ならば無限の距離で使える、と言う事ですら未だに私は疑っています。
ある距離を超えると、『縄張り』以外の別の理論が働く可能性も否定できません」
成程、確かに。
普通に考えたら距離が離れれば離れるほど魔力消費量が減るなどと信じられぬ。
理論ではそうだとしても、実践でどうなるかは分からん。
もしかしたら別の理論が存在するかもしれぬ。
失敗したら、魔力枯渇で死ぬじゃろう。
「そして3つ目ですが……ボツリヌス様、この魔法を大火力として使いたいのでしょうが、どの位距離の離れた敵を倒すつもりですか?」
「そ、そうじゃのう……1㎞先……いや、10㎞先くらいかのう」
その位離れないとそれなりの破壊力にはならないじゃろうし。
「その距離の敵って、見えます?」
「見えぬ」
「魔法って、使えます?」
「使えぬ」
「実にくだらない話でしたね」
「さっきのは予言だったのか!?」
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と言うことがあったのじゃ。
今回の大魔法は、それを確かめるために行ったこと。
つまり、20㎞くらい上空に向かって水魔法と火魔法を放ち、大量の雨雲を作ったのじゃ。
出来るかどうかは不明じゃったが、上手くいって良かった良かった。
……後、この魔法を試したことは秘密にしておこう。
ばれたら多分、オーダーにぶっ殺されるじゃろうからのう。
文章力練習用小説始めました。
ワラキ屋の夜御飯
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読者様「『豚毒』もまともに書けていないのに、また新しく連載を始めるつもりですか?」
NiOさん「練習小説だし、7話くらいで完結予定だから勘弁して!」