第156毒 猛毒姫、行脚する
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前回のあらすじ
ボツリヌス様の知識チートが火を噴く!(前世の、とは言っていない)
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私の蜜魔法魔法陣のお陰で。
近くの村の食糧事情が安定したようじゃ。
「あの村は毎年この時期には子供を売ったりする程貧しいところなんだけどね。
今年は例の魔法陣のお陰でそういった状態に陥らなくて済みそうだ」
「良かったじゃあないか」
「……有難う、ボツリヌス様。
あそこは、僕の村だ」
「……そか。
良かったじゃあないか」
「うん。
それじゃあボツリヌス様、行こうか」
うん?
「どこへじゃ?
行こうか、といわれても。
私は、ほれ、この通り、酒池肉林で忙しいんじゃが」
「とりあえず領地の隅々まで、例の魔法陣を書いて行ってもらうよ」
「ぬな!?」
い、言いたいことは分かるが。
この前地図を見せてもらったが、ボツリヌス領って相当大きいぞ?
人間界と魔界はほとんど同じ大きさと言ってよい。
人間界は5つの国で分けられ、それぞれの国の貴族により細分化されておるが。
魔界は魔王と13柱の貴族で分けられておる。
と言う訳で、魔貴族の領土は人間界の貴族と比較して、超広大じゃ。
私の領土は、ストリー王国の1/3くらいある。
「そんな広大な土地を全部回るつもりか?
って言うかそんなことしたら、私途中で殺されるかもしれんぞ!?」
「まあ、たぶん大丈夫じゃないかな。
勘だけど」
「なんで私の安全に対してそこまで適当なんじゃ!?」
しかし、ちょっと考えてみるが、ここで領内の魔族達に恩を売っておくのも悪くない。
上手くいけば、私を倒そうと思う者もいなくなるかも。
昔から言われておる。
男を掴むには、まず胃袋から。
魔族も多分一緒じゃ。
うむ、私ってば、出来る女子。
できじょしじゃ。
「よおし、仕方あるまい。
それでは他の地域へ向かおうじゃあないか!」
私が高らかに呵々大笑すると、ニンニクは旅支度をしに部屋を出ていった。
私が笑い終わってからにして欲しい。
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「よし、この地域も終わったな。
じゃあ、次に移動するよ」
「ま、待っておくれ。
魔法陣書くのって、超神経使うんじゃって。
少し休みをおくれ」
と言う訳で早速ニンニクに連れられて、あちこちの地域を回っておる。
ニンニクは魔方陣を書く大変さを全然分かっておらぬ。
特に直接木に書くたいぷの魔法陣は、樹木や台地から流れる魔力なんかも見ないと正しく発動しないから、書き終わった後は3日間くらい寝ていないような疲労感に包まれる。
1つや2つならまだしも、こんなもの10も20もいっぺんに書かされると、流石に辛いものがあるぞ。
因みに、今回はピッグテヰル領で使用されていた成長補正魔法や促進魔法は普及させていない。
理由は3つ。
1つは、私自身にあまり余力が無いと言う事。
更に1つは、今すぐそれらを普及させたとしても、それらが収穫されるまではまだまだ時間がかかり、現時点での食糧危機を助ける手立てにはならないためじゃ。
そして最後の1つであるが。
……これらの魔法は、キサイとセルライトが考えた魔方陣である、と言う事じゃ。
この世界に著作権という概念があるかどうかは分からぬ。
あったとしてもキサイは私に全てを託してくれた、と考えて間違いないとも思う。
しかし、魔法というのは情報であり、財産じゃ。
2人が文字通り必死で考えたであろうそれらを、横から入ってきた私という他人がひょいひょい広めていくのは違うと思う。
蜜魔法は、まあ、私が考えた魔法だから良いが。
因みにピッグテヰル公爵領で使用されている魔法陣は、複製防止のしすてむがいろいろと仕込まれておる。
今回私が書いている蜜魔法も、わざと木に流れる魔力の流れと魔法陣の位置を調整して、他の者が同じ魔法陣を書いたとしても発動しないようにしておる。
なんだかんだでこの魔法も私の数少ないちーと知識の1つじゃからな。
そうそう広めるわけにはいかぬ。
「ボツリヌス様……これで我々の村も救われます……本当に、本当に、有難うございました!」
私が地面にへたり込んでおると、何やら長老らしき者がやってきて、涙を流して礼をしてきた。
既に例の魔法陣に集まってきた昆虫の1匹をぼりぼり貪っておる。
そこまで感謝されておるのであればもう1つくらい蜜魔法魔法陣を書いて行っても良い気がするが。
ニンニクの試算では、1つの村に1つあれば最低限飢えはしないとの試算だそうじゃ。
というわけで今回はとりあえず、全ての村や町に蜜魔法魔法陣を配置するのが目的としておる。
「今までの、魔貴族様とは、全然……全然違います!」
「無理な年貢も取らないし!」
「若者を無理やり兵士に取らないし!」
「傍若無人な虐殺も行わないし!」
あちこちから今までの不満が爆発しておる。
ふむ。
無理な年貢をとっていないのはニンニクの配慮であるし。
若者を兵士にとらないのは、そもそも人間界と戦争するつもりが無いだけであるし。
虐殺を行わないのは、そんなことをしたら逆に虐殺されるからじゃ。
しかも私、屋敷に帰ったら酒池肉林やっておるし。
……というか、この村から駆り出された若者達を殺したのって、もしかしなくても私じゃあないか。
心が痛くなってきた。
「じゃ、じゃあの。
私は次の村があるからのう。
さあ、ニンニクよ、参ろうか」
「そうですか……本当に有難うございます、ボツリヌス様!!」
村人たちは、『ボツリヌス様、ばんざーい!』と万歳三唱をして送り出してくれた。
胃袋を握るだけのつもりじゃったが、なんだか人心まで掌握してしまった気がするぞ。
りょ、良心の呵責が……。
もうちょっと諸国行脚予定です。
あ、あと、明日は書けないと思います~