第154毒 猛毒姫、きゅんとする
説明回。
あんまし話が進まない。
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前回のあらすじ
あっ。(察し)
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なんだかおかしな二つ名が大量に増えておった。
真の勇者とか、ちょっと予想していたものもあれば。
天才の後継者とか、ちょっと嬉しいものもある。
それは良いとして。
……13魔貴族ってなんじゃ。
いや、なんとなく理解は出来る。
魔界を統べる魔王様。
実はこの地位、誰にでも門戸が開かれておる。
なり方は簡単、現魔王を殺せばよい。
要は、王ですらかつ、世襲制ではない。
いわんや貴族をや、じゃ。
「私が北真倉猿夢に勝ったから、魔貴族になったということか」
「うん、そうだよ。
これで魔王様への挑戦権も手に入れられたわけだね」
「挑戦権?
……ふむ、成程のう」
ここで、魔族のるーるがおぼろげに見えてきた。
魔王を倒せば魔王になれる。
それは良いが、誰にでも挑戦権を与えておると、魔王の生活そのものに影響が出るじゃろう。
ぴんからきりまで強者も弱者も片っ端から魔王に挑戦する可能性があるからじゃ。
そう言った事態を避けるために、魔王の挑戦権、という形で13魔貴族がその緩衝剤となっていると思われる。
こうなると13魔貴族にたくさんの挑戦者が現れそうじゃが、彼らは彼らで優秀な人材を雇い、自分へいつでも挑戦してよいと言う形を保ちながら彼らを緩衝剤にしておるのじゃろう。
弱肉強食の割には、ちゃんとした社会機構になっていて面白いのう。
……む?
これ、私、やばくないか?
魔王の挑戦権どころか、私、この魔界で一番弱い自信があるぞ。
と言うかニンニクの奴、私をぶっ殺さないんじゃろうか。
魔貴族になれるちゃんすだと言うのに。
阿呆だから気づかないのかしらん。
「なんで私を殺さないんじゃ?」
あ、しまった。
思わず聞いてしまった。
気づいていなかったら気づかれてしまう。
阿呆じゃ。
「あー……確かにボツリヌス様はどうやって北真倉様を倒したのか分からないけど、まあ、僕でも倒せそうではあるよね」
どきどき。
「でも、止めておくよ。
あの人に殺されるから」
……あの人?
誰じゃろう。
全く心当たりがない。
そもそも、魔族に知り合いとかおらぬし。
「というか私、魔族じゃないのに魔貴族になっても良いのか?」
「勿論。
強さ以外は何の資格もいらないからね。
実際、人間の魔貴族はもう1人いるし。
あと変わり種と言えば、言葉すら話せない獣が魔貴族になったこともあったなあ」
強さ以外いらないとはいえ、知能が無くても魔貴族になれるのか。
そこは最低限に選んだ方が良いと思うぞ。
……いやいや、それ以上に聞き捨てならない言葉が聞こえたが。
「私の他にも……人間の魔貴族がおるのか!?」
「いるよ。
『大惨寺一殺』とか言う、恐ろしいスキル持ちの生臭坊主がね」
恐ろしい技術、か。
さもありなん。
人間が魔貴族と戦おうと思えば、純粋な戦闘力や魔力では太刀打ちできまい。
並外れた技術なんかを持っていない限りは。
そうだとしても、人間の身の上で魔貴族になるとは大したものじゃ。
話の分かる奴じゃったら機会があればお話とかしてみたいのう。
……それにしても、魔貴族の名前は漢字なんじゃのう。
私も何か漢字の名を考えるべきじゃろうか。
可愛らしい名前が良いのう。
毒子とか。
「つまり、私は魔貴族じゃから、この屋敷に案内されたわけじゃな」
「うん。
てっきり分かっている物かと」
一回でも自分を鑑定していたら何となく理解出来ていたかもしれんのう。
「……それにしても、13魔貴族の屋敷にしては、人が少なくないか?」
まともな戦闘力を持っておるのがニンニクくらいしかおらんのじゃが。
いけてるめんずも3人しかおらぬし。
「……前魔貴族様が、人望皆無だったからね」
「……ああ……」
そうか。
前魔貴族は、例の、北真倉猿夢じゃからのう。
大方、ほとんどの使用人は洗脳して手に入れたんじゃろう。
洗脳が解けて皆いなくなってしまった、ということか。
「ニンニクも洗脳されていた口じゃろう?
なんでこの屋敷に残っておるのじゃ」
「……13魔貴族は、魔王様より魔界の一部の統治を任されている。
当然、以前の北真倉様も。
そして、ボツリヌス様。
君も彼女の後釜として、統治される地域が与えられる」
「その辺は、まんま貴族じゃな。
それで、それがどうかしたのか」
「君の治めるこの土地は、僕の故郷なんだ」
あ、この魔族、人間臭い。
不覚にもきゅんときた。
「今、この辺りは治安も何もかも最悪な状態だよ。
今までの北真倉様の統治が基本は洗脳だったからね。
大混乱さ」
やれやれ、とおどけた様に首を振っているニンニクであるが、目が笑っていない。
此奴の眼の下に隈があるのも、がりがりに痩せておるのも、もしかして心労からなのかも知れんのう。
うむ。
やっぱり良い奴じゃ。
そういえば北真倉猿夢は人間臭い奴が好みだったようじゃし。
嫌な奴ではあったが、人を見る目だけはあったんじゃな。
「よおし。
ならば不肖、この私がニンニクの故郷を元に戻して進ぜようじゃあないか」
「……はあ?
ボツリヌス様が?」
ニンニクが頭のおかしい人を見るような目で私を見ておる。
全く失礼な奴じゃ。
何しろ私は異世界人。
前の世界の記憶とかもあるからのう。
やっと、知識ちーとが使える日が来たか。
これこそ、『ざ・転生』じゃあないか!
私は一人勝利を確信し、呵々大笑するのであった。
次回は転生名物NAISEI回。
ボツリヌス様の知識チートが火を噴く!