第152毒 閑話 13魔貴族、猛毒姫を知る
「久しぶりの投稿、お疲れ様です!
ところで。
これだけ待たせておいて、豚毒内でもクソつまらないと有名の閑話をまさか今回もやるつもりですか?」
・・・とお思いの読者様。
ご安心下さい。
今回も閑話をやるつもりです。
―――魔界・魔王城・大広間―――
広大なその部屋の中央には、部屋にふさわしくないこじんまりとした石のテーブルが用意されていました。
こじんまり、とはいってもそれは部屋と比較しての話であり、実際はそれなりの大きさがあるのですが。
そしてテーブルにはすでに、12人の人影が席についていました。
テーブルにはまだまだたくさん空きはありますが、どうもお客さんはこれで全員の様です。
12人……まあ、ぶっちゃけますと、魔貴族の皆様なのですが。
魔王様の側近によって呼び出された13魔貴族が……正確には12柱ですが……この狭い部屋に集結していたのです。
「おいおい……まさか、ほぼ全員が揃うとはなぁ」
魔王様がなかなか現れないことに痺れを切らした1柱が、誰にともなく話しかけます。
彼の言う事は、その場にいた全員が思っていたことでもありました。
個人プレーの多い魔族において―――魔貴族は特にその傾向が強いのですが―――これだけの人数が、例え魔王様の号令であったとしても揃ったのは、今回が初めてかもしれません。
「そうだね。
……まあ、10中8、9は『北真倉猿夢』についての情報だろうから。
私も少し、興味があってね」
また、どこからともなく声が響きます。
「魔力も体力もカスだったが。
あの初見殺しのスキルを持つアレを、まさかその初見で殺せる奴がいるとは。
しかも、たかだか人間風情に」
更に鼻息の荒い声も聞こえます。
これも魔貴族全員の総意でしょう。
魔貴族が人間に戦闘で負けるというのは。
人間がサル相手に知恵比べをして負ける様な物ですから。
しかし同時に、彼らは知っています。
サルの中には突然変異が生まれることを。
そして、突然変異のサルが群れて知恵比べをすると、人間でも負けることがあると言う事を。
「まあ、そうは言っても奴は13魔貴族の中で最弱」
「人間如きに負けるとは、13魔貴族の面汚しよ」
誰かが、そうドヤ声を響かせると。
「くそ、先に言われるとは!」
「してやられた!」
と悔しそうな声が聞こえてきます。
そんな会話をしていると、奥の扉から1人の魔族が現れました。
「魔貴族の皆様、お元気そうで何よりでございます。
それでは、今回の報告を、不肖、魔王様の側近であるこの私からさせて頂きたいと思います」
「……おいおい、呼び出しておいて、魔王様はお留守かよ」
魔貴族の1柱が怒りの声をあげますが、彼は知らん顔で続けます。
「北真倉猿夢の人間界における戦闘についての情報共有をさせていただきます。
彼女は、ほとんど単独の人間にやられた、とのことです。
しかも勝負は一瞬。
彼女はほとんどダメージ0の状態から即死に至っています」
「「「はあ?」」」
魔貴族の何柱かから、驚きの声が上がりました。
魔貴族を単独で倒せる人間なら、1億人を探せば1人見つかるかもわかりませんが。
魔貴族を一撃で屠ることが出来る者など、他の魔貴族でも不可能だからです。
それこそ、魔王様や龍レベルの力が必要になります。
「……何か、特殊なスキルがあるのか?」
「攻撃系や魔法系、特殊系のスキルは皆無です」
「まさか、純粋な腕力や魔法で吹き飛ばしたというのか?
魔貴族を??」
「いえ、それが……。
彼女の体力は100、魔力は10に過ぎません」
「「「「「「「「「「「はああああああああ!?」」」」」」」」」」」
全魔貴族が驚愕の声を上げます。
「た、体力も魔力も最低値、スキルも何もない人間が、魔貴族を一撃で殺した、というのか……!?」
「ええ……その通りです。
全く訳が分からない物ですから、このような場を開かせて頂きました。
魔王様からのお言葉をお伝えします。
いらぬおせっかいとは思うが、貴様らも気を付けるように、とのことです」
「ほ、本当かよ……冗談で言ったつもりなのに、猿夢の奴、マジで魔族の面汚しじゃねえか……。
あ、ち、違うぞ、俺ァ別に本気で罵倒するつもりで言ったんじゃあないんだ!」
「お、俺もだ!ギャグで言ったつもりなんだったんだ!
……すまない、猿夢……」
側近の言葉に、どこからかそんな反省と謝罪の声が聞こえてきます。
「以上です、皆様、ありがとうございました」
側近が一通り情報を伝え終わると、魔貴族達へ向けて一礼をして、闇の中へ消えて行きました。
少しざわついていた魔貴族でしたが。
しばらくすると1柱、2柱と席を立ち始めます。
いくら詳細不明の人間といえども、所詮は人間。
自分に敵うはずがない、と皆が思っていたのでした。
最後まで石のテーブルに残っていた魔貴族は3柱。
彼らはブツブツと何かしらを呟いています。
どうやら、例の人間に興味を持ったようです。
「意味不明な強さ、か。
それほど強いのであれば、是非とも一度手合せしたいものだ……」
3柱の内の1柱が、拳をポキポキ鳴らしながら言いました。
「意味不明な強さ、か。
そう言うのは、念のため殺しておくのが吉だな。
よおし。
焦らない、焦らない。
一殺し、一殺し」
別の1柱がポヤンと笑いながら言いました。
「意味不明な強さ、ですか。
……これは、間違いないですね。
嗚呼、流石、流石でございます。
…… お 母 様 !!」
最後の……どこかで見たような1柱が、瞳を輝かせて言いました。
さてさて。
いきなり魔貴族3人に目を付けられるという絶望的な状況に陥ったボツリヌス様ですが。
彼女がそのことに気づくのは、もう少し先の事になるのでした。
閑話終了。
次回は魔貴族編開始です。