第151毒 閑話 トキ、猛毒姫の回想をする
書くかどうか迷いましたが、やっぱり書かないといけない気がした。
やあ皆さん、お久しぶり。
僕の名はトキ。
今回は、名も無き放浪者をしているよ。
今回の縛りプレイの内容は
『時魔法による攻撃・防御(絶対破壊・絶対防御)』
『時魔法による時間遡行(いつでもセーブ&ロード)』
『時魔法による増殖・復活(無限増殖、無限復活)』
以上3つの使用禁止。
まあぶっちゃけ、この3つのうち1つでもありだと何でもアリのチート状態になるので、ほとんどの回で縛ってある。
つまり、ほとんど縛りなしの状態と言ってもいいかもしれない。
今回の目的は、強い奴を選んで倒していく事。
皇国、武国の目ぼしい奴らは片っ端からフルボッコにし終わったところ。
という訳で、今はムカシヤンマ帝国に来ている。
「おお、このお店のココット、美味しい」
帝国でも安くて美味しいと有名なお店。
その庭先の席に1人で陣取りお昼ご飯を食べながら、今後の方針を練ることにした。
とりあえず亜人を含めた人類最強であるセッカイ帝王をチョチョイと倒した後に竜族の里で大暴れしようかな。
いやあ、それにしても武国3本の矢は、相当に強かったなあ……。
皇国の騎士団も楽しかったけど。
ぼんやりとそんな事を考えながら。
ふと空を見上げると。
……そこに、人がいた。
「……え。
……あ、忘れてた」
羽もなく空に浮かぶ人間なんて、時魔法使い以外では長い歴史の中でも1人しかいない。
「ボツリヌス・トキシン……このタイミングでの出現ってことは……猛毒姫の方だな」
僕は相変わらずココットにパクつきながら、呑気にそう一人ごちた。
象牙壁から鉱国側に降りた彼女は、いろいろ紆余曲折は経るものの、トキシン侯爵邸へと無事帰還する。
一時の平穏を取り戻す彼女であるが。
彼女がピッグテヰル公爵やキサイと出会わない、と言う事は。
いつか来る、魔族の侵攻を抑えられないと言う事。
そんなわけで猛毒姫ルートでは、時期が来ると魔族がサヨナラー公爵領を飲み込んで、トキシン侯爵領へと迫る。
そして、その魔族軍をニコチン率いるトキシン軍が倒す。
毎回、ちゃんと倒せるのだけれども。
その被害は勿論甚大なものになる。
特に、ボツリヌスにとって大事な人である、オーダーとテーラーの両名。
この2人は、毎回必ず死ぬ。
2人がかりでカルマ・クラッシュを行って、魔貴族と相打ちになるのだ。
この戦いの後から、ボツリヌスはおかしくなり始める。
そして、ピッグテヰル公爵家に嫁入りした後、ピッグテヰル公爵とのやりとりで完全に狂った彼女は、猛毒姫となってこの人間界を滅ぼしにかかるのだ。
自分の生まれ育ったトキシン侯爵領を攻め滅ぼし、ストリー王を誑かしてギロチンにかけ。
そして。
ムカシヤンマ帝国へ向けて、侵略を開始するのだった。
「いやあ、ついてるなあ。
まさかちょうど猛毒姫が現れるなんて」
前回は金魔法で鉱国を滅ぼし、世界を滅ぼせる程の科学兵器を持ち出してきていた。
更にその前は、魔力10でも使える極大破壊魔法を開発していた。
毎回違う猛毒姫が見られるけれど、毎回魔王よりも苦戦させて貰っている。
さて、今回はどんな猛毒姫が見られるかな……。
そんなことをボヤッと考えていたんだけど。
おや、猛毒姫の様子がおかしい。
いつもと、なんだか違う様な……。
あ、もしかして。
「石油危機」
猛毒姫が魔法を唱えると。
帝都の地面が割れ……というか、地面が液状化し、それらが全て石油になった。
「す……凄い魔法だなあ」
初めて見る魔法に驚きながら、すかさず空に回避する僕。
下を見ると、見渡す限り地平線まで黒い液体で埋め尽くされていた。
破壊兵器を持った猛毒姫や、破壊魔法を手に入れた猛毒姫。
今まで色々な猛毒姫を見てきたけど。
「まさかまさかの、夢の実現だ。
今回の猛毒姫は。
強大な魔力を持った、猛毒姫、か」
考えられるのは、魔力量を100倍にするアイテム、龍の胆。
龍を1体殺すことで得られるその特殊なアイテムであるが。
彼女の今使った魔法から現在の魔力を推測して考えると、少なくとも20個程のそれを手に入れたのだろう。
つまり……彼女は、ほぼ間違いなく、龍族を滅ぼし尽くしたのだ。
僕が驚愕していると、目下地平線が、赤く燃え盛り始めた。
どうやらどこかで引火したようだ。
辺りから激しい悲鳴とともに、焦げ臭い人の焼ける匂いが漂い始める。
そして。
これだけの人間を現在進行形で虐殺しながら。
猛毒姫は眉毛も動かさずに、空に逃げた僕を睥睨する。
「なんじゃお主は。
まさか空魔法を使える人間が他におるとはのう」
「初めまして、ボツリヌス・トキシン。
僕の名前はトキ。
時魔法使いだよ」
「ほう。
なんと、時魔法使い様か!
これは凄いのう!!」
ボツリヌスは、黒い笑顔で呵呵大笑した。
「まあ良い。
死ね。
天使の触手」
彼女がそう唱えると、炎をまとった土石流が、高速で僕に襲いかかった。
「お、おおおお。
やるなあ、猛毒姫!!」
僕はその触手を交わしながら、彼女へ突貫する。
しかし、分厚い空気の壁に阻まれた。
「うわ、楽しい。
もういいや、縛りプレイ、やーめた!
時魔法『絶対破壊』!」
象牙壁を含め、世界の全てを破壊できる最強の魔法で空気の壁を破壊する。
そのままの勢いで拳を振るうと、まるで豆腐みたいに、猛毒姫のお腹にぽかんと大穴が開いた。
「此奴め……痛いじゃあないか!
ただでは殺さんぞ!!」
「……まあ当然、光魔法魔法陣は装備済み、だよねえ」
次の瞬間、開いた大穴は元通りだ。
やっぱり、ボツリヌス+魔力+光魔法はチートだなあ。
「お返しじゃ、『開護摩』」
「へ?」
次の瞬間、轟音と共に、今度は僕のお腹に風穴が開いた。
え?
アリババって、こんな魔法だっけ??
「ほれ、『漂流者達』」
「う、うわああああああああ!」
視界が縦に横に、何周も回転する。
多分、普通の魔法に何十倍の魔力を加えて使っているのだろう。
まるで壊れた竹とんぼの様に僕はそのまま石油の中に墜落した。
「それじゃあ、消え失せろ。
『氷竜巻』」
相変わらず聞こえてくる高笑い。
そして、高温から突然の冷却。
石油を飲み込んだ僕ごと、世界が凍っていく。
「え、ちょっと待って。
これ、僕、勝てなくない?」
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「いやあ、アレは恐ろしかったなあ」
久しぶりにムカシヤンマ帝国で例の食事処で前と同じココットを注文して待っていると、唐突に当時を思い出した。
あんまり怖かった物だから、僕は這う這うの体で逃げ出したんだっけ。
勿論、時魔法全開で戦えば、勝てない相手なんていないんだけど。
そんな言い訳をしている時点で。
そして、僕が勝てないと一瞬でも考えた時点で。
もう、彼女の勝ちで良いや、と思ってしまった。
縛りプレイも結局解除しちゃったし。
猛毒姫とは、もう戦いたくないなあ。
「そういえばこの周回も猛毒姫ルートだったな。
そろそろトキシン侯爵領に侵攻する頃合いかな?」
時魔法を使って、ボツリヌスの様子を観察する。
ボツリヌスは……何故か、魔族に、連れ去られていた。
「……え、なんで?」
あれ。
そんなイベントは今まで無かったぞ?
僕は慌ててボツリヌス・トキシンの過去視を行う。
「え、ボツリヌス、豚公爵を圧倒している?
っていうか、魔貴族も倒したの!?
それで、オーダーもテーラーも死ななかったのか……。
いや、そもそも魔族の数が少ない……バッカルコーンの距離が、いつもより近いせいだ……。
なんだ、なんだ、どういう事だ!?」
ブツブツ言いながらも、実は少し予想はしていた。
今回の周回、自分は傍観者とか何とか言いながら。
面白半分でちょっかいを出してしまった、アレが原因でいろいろこんがらがっているのだろう。
過去視をして、とうとうその原因と思える場所を見つけてしまった。
「ガラクトース・グロテスク……やってくれる……!」
悔しい声を出したかったのだが、残念ながら笑い声しか漏れ出なかった。
「小聖女でも、猛毒姫でもないボツリヌス・トキシン……。
2人の良いとこ取りをしている様な感じだから……さしずめ、真・猛毒姫かなあ」
やはり彼女は、面白い。
「何より面白いのが、この、真・猛毒姫。
今までの、どのボツリヌス・トキシンよりも、弱いぞ?」
光魔法を手に入れられず。
なりふり構った手段も使わず。
それなのに、誰よりも武勇を誇る彼女。
もともと訳の分からない彼女であったが、もう、何もかもが分からない。
なんだか、久しぶりに大爆笑をしてしまったよ。
「豚肉と蜂蜜のココットでございます」
怪訝そうに店員がランチを配りに来た。
僕は彼女の行く末を少し眺めた後。
ゆっくりと本日の昼食に、取り掛かる事にした。
というわけで、もともとの猛毒姫ルートでございます。
第77毒終了時点ではこの内容で話を進めていく予定だったんです。
当初は主人公含め数人を残して登場人物は全滅させる予定でした。
出てきたキャラクターのセリフはひとつ残らずフラグ→遺言になる予定だったのですが。
……なんだか突然人気が出てきたので、急遽変更。
というわけで、これから続いていくのは新説・猛毒姫でございます。
収まるところに収まらない感じのフラグもあると思いますが、ご容赦くださいませ。
どっちの猛毒姫が面白かったのかは、もはやNiOさんにも分からない。
トキ様のパーフェクト悪役令嬢教室
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未来が変わったのはこの作品のせい。
いろんな意味で。