第15毒 猛毒姫、引き算をする
引き篭り宣言をして丸2日が経過した。
私が部屋から出て来ると、朝ご飯を部屋の前におこうとしていたオーダーと鉢合わせした。
「あれ?ボツリヌス様、お早ようございます。
気分転換ですか?」
「いや、屑魔石を使い切ってしまっての」
「え?」
そうなのじゃ、丸2日で早くも屑魔石100個を使い切ってしまったのじゃ。
せっかくやる気満々じゃったのに次に魔石が届くのは来月じゃのう。
まあ、これから月に20000個も魔石が届くとなると、しばらくは完全に引き篭りになるからのう。
その前に屋敷内を歩いていろいろ済ませるべきことを済ませておこうと思っておる。
せっかくなのでオーダーも誘おうかと声をかけようとする。
「うーん、うーん……」
……オーダーはまだ何か考えておる。
2日で100個の屑魔石を消費したのがまだ信じられんらしい。
なんじゃこいつ、算数が出来んのか。
「えーと……ボツリヌス様は、最初は部屋の中でも出来る『風玉(劣化版)』……消費魔力1の魔法をマスターすると言っていましたよね」
「うむ、言ったの」
「ちょっと『風玉(劣化版)』見せてくださいよ」
「?心得た。
『生命を司りし神風よ!弛緩より吐き出されし薫風よ!
その大いなる畝りから息吹を生み出し給え!風玉!』」
私は言われるがままに『風玉(劣化版)』を唱えると、手の平の中で風がくるくると巻き起こった後、数秒で霧散した。
それを見てオーダーは改めて頷く。
「うん。詠唱と発動に30秒くらい掛かりますよね」
「掛かるのう」
「いやいや、じゃあ、やっぱりおかしいでしょう、時間的に考えて」
やれやれ、『時間的に』と来たもんじゃ。
慣れない言葉を使うものではないぞ、オーダーよ。
「全く、オーダーは四則計算も出来んのか。
では問題じゃ。
平均50の魔力量を持つ屑魔石100個の総魔力量はいくらか」
「ボツリヌス様、馬鹿にしていますね……。
総魔力量は50×100=5000です。まあ、約、ですが」
「『風玉(劣化版)』は消費魔力量1である。
魔法は何回唱えられるか」
「唱えられる回数は5000÷1=5000回ですよね、もちろん」
「ふむ。
1回30秒と考えると、屑魔石を使い切るのに何秒掛かるか」
「5000×30=150000……15万秒です」
「分に直すと?時間に直すと?」
「えー……と……
15万秒
=150000÷60分=2500分
=2500÷60時間≒約42時間ですね」
私は胸を張って答える。
「の?48時間あったら使い切れるじゃろ?」
「え?」
「え?」
ぬ?ぬ?どう考えても完璧な証明なのに、オーダーは疑問の声を上げた。
一体今の説明の何処が解らなかったのじゃ?
「あの、ボツリヌス様、睡眠時間とか休憩時間とか食事時間は?」
なんじゃ、オーダーは。
ここまで計算しておいて、それが解らんのか。
「全く。48から42を引くと、6になるじゃろ?」
「え?」
「え?」
この後、何故か無茶な事をするなと5時間くらい正座で怒られた。
そうは言うが、前世では仲間内で不眠不休読経大会とかの耐久勝負もやっておったし。
……まあ、恥ずかしい事に私は300時間くらいで降参じゃったがの。
それに比べると、たった2日で睡眠も取って良いのだから、無茶な事どころか、十二分に余裕のある事じゃったんじゃが……。
「もうこんな頭のおかしい事はしないように。
ところで、ボツリヌス様はどこに行こうとしてたんですか?」
「うむ。下手をしたら1年くらい皆とも会わないからの。
仲の良い連中と少し話をしておこうと思っての」
「ボツリヌス様と……仲が良い?????????」
「?を9個も付けおったな……」
確かに屋敷では私が話しかけても返事をしない者が大多数ではあるが、決して0ではないのじゃ。
オーダーは素直に驚いておる。
「へえ、知りませんでしたよ。
誰なんですか?私も付いていっても良いですか?」
「よかろ。私の交友関係の広さに腰を抜かして白目を剥くが良い!!」
私は呵々大笑すると、まずは、と調理場に向かった。




