第148毒 猛毒姫、速やかに回収する
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前回のあらすじ
1か月後……。
そこには元気に走り回る豚公爵の姿が!
豚公爵「もうあんな目に会うのはコリゴリだよ!
僕を救ってくれたボツリヌスには、ホント感謝しています」
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それにしてもこのあらすじ、のりのりじゃ。
とりあえずセルライトが元気になってよかったのじゃが。
「ボツリヌスよ。
あの魔法、ど、どうやって、お、思いついた!」
なんだか、セルライトの知識欲に火をつけてしまったようじゃ。
ちょっとうざい。
「光魔法から着想を得た。
あとは、砂糖食べ放題がしたかったんじゃ」
「新しい魔法を作るとは、な、なかなかやるではないか!」
「とは言っても、以前見た促成魔法魔法陣を少し弄るだけで完成したからのう。
自分で作った魔法というには、少し恥ずかしいが」
「し、しかし使い道が、あ、あまりないようだなぁ」
ふむ。
確かに、翌日には虫が寄ってきて使えなくなる蜜魔法魔法陣であるが。
「そんなことはないぞ。
森で迷った時には、貴重な食料源になるじゃろうし。
そもそも虫も、貴重な蛋白源じゃ」
「……」
あれ。
なんで嫌な顔するんじゃ。
以前、虫も食卓に上ったではないか。
蛆虫とか、蜚蠊とか。
「ボツリヌス……貴様、まだ、あ、新しい魔法を、か、隠し持っているな?」
「……。
むふふ、勿論。
まだまだ、隠し持っておるぞ!」
まあ、実際に形になっているのは、後一つくらいじゃが。
せっかくじゃし、此方もお目見えするとしようか。
……セルライトも、さらに元気を出してくれることじゃろう。
というわけで、懐から新たな魔法陣を取り出す。
「じゃーん!
声魔法魔法陣じゃ!!」
「ほう……今度の物は、て、転移魔法魔法陣に似ているな」
お、流石はセルライト、理解が早い。
「それの劣化版みたいなものじゃが。
これは、相手に声が伝わるように改変したものじゃ」
とらんしーばーとか携帯電話みたいな物と考えて貰えればよい。
「な、成程。
これはこれで、べ、便利だな。
それでは、早速……」
「ま、待つんじゃセルライト!」
「ん?」
「まったく。
2人が近くにおったら、魔法陣による声かどうか分からぬじゃろうが」
「い、いや。
分かると思うが」
駄目じゃ、此奴。
全く分かっておらぬ。
「離れた所から初めて聞こえてこそ、浪漫じゃろうが!」
「……。
分からん」
あれ。
理解されなかった。
「兎に角、私は外へ出てその魔法陣を使うから!
セルライトは此処で私の声が聞こえるのを指を咥えて待っておるがよい」
私が呵呵大笑すると。
「奥様、外は危険です。
私が行ってきましょう」
バトラーが、話の腰を折る。
「お、おいおいバトラーよ。
私が作った魔法陣じゃ。
最初に使うのは私に決まっておるじゃろう」
「じゃあ、別の誰かが外に出て、ボツリヌスが屋敷に残れば良いにゃ」
シャーデンフロイデが、珍しく人のことを考えた提案をする。
「いや、この家は信用ならぬ。
私の声を別の方法で伝えるやもしれぬ」
「ボツリヌス様……であれば、私が一緒に行きましょう」
オーダーまでが、私の邪魔をする。
「ぬうう、分からぬ奴等よ。
私が!
この屋敷を離れて!
知り合いのいない場所で使うからこそ!
意味があるのじゃ!!」
「「「「いやいや、それ、攫われる」にゃ」」」
ぐ。
はもりおって。
確かに、可能性はぜろでは無いが。
この魔法は、こうやって使ってこその浪漫なのじゃ。
……よおし。
「絶対攫われないから大丈夫じゃ。
念のために、魔石も持っていこう!」
漂流者を使える私じゃからのう。
魔石を持った私を攫える者なぞ、もはや上位魔族れべるで無いと難しいはずじゃ。
「もし、攫われたら、どう責任を取るつもりですか?」
む。
オーダーが、怖い顔で私を見ておる。
「分かった。
もしも攫われたら、全裸で逆立ちしながら鼻からすぱげてぃーを食べて、屋敷を一周して見せよう!」
これ程言えば大丈夫じゃろう。
「こんなにフラグを立てられる人間は、なかなかいないにゃ」
シャーデンフロイデが腹を抱えて笑っておる。
ふむ。
罰げーむ見たさにシャーデンフロイデが私を攫うことも考えられるな。
……まあしかし此奴相手なら、魔法をぶん回せば逃げ切ることは出来るじゃろう。
「というわけで、他に異論はないか?
では、私は行くぞ」
そんな訳で、私は意気揚々とピッグテヰル屋敷から外へ出ることにした。
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私は元気に門を抜ける。
記念すべき声魔法魔法陣、最初の言葉はどうしようかのう~。
なんちゃって、実はもう決めてある。
『オーダー君!
すぐに来てくれたまえ!
用がある!』
じゃ。
むふふ、グラハム・ベルりすぺくと。
にやにや笑いながらぽてぽて歩いておると。
見知らぬ男が、声を掛けてきた。
真っ黒なこすちゅーむに、竹箒を逆様にした様な、ひょろりとした体格に、天を衝くへあすたいる。
なんじゃ此奴。
「ああ、良かった。
目的の人物がまさか一人で現れるとは」
……。
あれ。
いやいやいや。
いくらなんでも早すぎじゃろう。
「こんにちは、ボツリヌス様。
私の名はニンニク。
君が来るのを待っていたよ」
「だ、誰じゃ貴様は!」
「……?
私の名はニンニク。
君が来るのを待っていたよ」
あ、聞こえてないと思われたようじゃ。
繰り返させてしまい、申し訳ない。
「そ、そうか。
で、ニンニクよ、私に何か用か」
「うん。
取り敢えず、黙ってついてきてもらえるかな?」
おお。
やっぱり、人攫いじゃった。
速攻でふらぐ回収とは。
流石はNiOさん。
やってくれる……が。
「……ふふん。
言っておくが、私をただの6歳児と思うなかれ。
魔石を持った私は、もはや中級魔族に匹敵するほどの」
「私は上級魔族だよ」
「」
「」
「」
「それじゃあ、ついてきてくれるかな」
「はい」
ニンニクと名乗った男は私の手を握ると、隠していた羽を広げた。
此奴、さては……吸血鬼か!!
私はニンニクに聞こえないように、小さな声で囁いた。
そしてこれが、記念すべき声魔法魔法陣に伝わる最初の言葉となった。
「助けておくれ、攫われた」
シャーデンフロイデの爆笑が魔法陣を通して聞こえてきたのは言うまでもない。
あ、豚公爵編終了でした。




