第147毒 猛毒姫、BOB団を結成する
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前回のあらすじ
ピッグテヰルとキサイの過去が明らかに!!(なりませんでした)
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キサイが没して1ヶ月が過ぎた。
セルライトは普段通りに笑顔を浮かべる様になったが。
いつもの、ぶひょぶひょ笑いが消えておる。
大切な人が居なくなった時、それを悲しむ時間は絶対に必要な物じゃ。
しかし、そうだとしても。
1ヶ月もの間それに思い煩い続けると言うのは、精神衛生上宜しくないと思うのは私だけじゃろうか。
勿論、キサイがセルライトの中で、それだけ大きな存在だというのも分かるが。
キサイの場合は不慮の事故などではなく、寿命じゃ。
その生き様を称える事こそすれ。
いつまでも悲しむというのは違うんじゃあないか、と思う。
うーむ……このままでは、あまり良くない気がするぞ。
と、言う訳で。
「第1回、ピッグテヰル公爵を励ます団、通称BOB団の活動を始めたいと思う!」
私が会議開催の宣言をすると、バトラーとシャーデンフロイデがぱらぱらと手を叩いた。
ちなみにオーダーはと言うと。
私の後ろで、自作したと思われる氷のじぇんがで遊んでおる。
自由じゃ。
「最近の公爵様は、いくらなんでも覇気が無さすぎです。
どうにかしなくてはと、私も思っていました」
「……ところで、BOB団ってなんのことにゃ」
「ピッグテヰル公爵を励ます団じゃ!」
「にゃ?」
誤魔化した。
ちなみにBOB団とは、『豚公爵を、大いに励ます、ボツリヌス達の、団』の略じゃ。
むふふふ、横文字。
何を隠そう実は私、英語が得意なんじゃ。
「あと、それは?」
「うむ」
BOB団の団員は合計4人。
私と、バトラーと、シャーデンフロイデと、もう一人。
それが。
「キサイ(遺影)じゃ」
私は南無南無と手を合わせる。
今回のセルライトの不調は、きっと彼女が一番心を痛めておると思う。
という訳で、参加して貰うことにした。
彼女がここにいると思うだけで、良い案が出てきそうじゃしのう。
「うーん……少し不謹慎な気もしますが。
大奥様なら、きっと笑って参加するでしょうし、まぁ良いでしょう」
「私は反対にゃ!
そいつが全ての元凶にゃのに!!」
シャーデンフロイデがキサイ(遺影)をびしっと指さして。
「貴女のは完全に不謹慎ですよ、シャーデンフロイデ」
バトラーがその人差し指を、優しく圧し折った。
「ギニャ――――――!!??」
「お、おい、バトラーよ。
流石にやりすぎじゃあないか」
「いえいえ、やりすぎどころか、ジャスティスです」
「じゃすてぃすか」
じゃすてぃすならば、仕方が無い。
「それでは、何か案はないか」
「ええええ!?
そ、それで納得できるのかにゃ!?
だ、誰か回復魔法を……」
「一番分かりやすいのは[ノクターン]ですけどね」
「うむ。
しかし以前[ノクターン]ったのじゃが、見事に失敗に終わったぞ」
「回復魔法……」
「私も元気づけようと一生懸命[ノクターン]ったのですが。
ピッグテヰル公爵様は[ノクターン]いで、いつも通り[ノクターン]れてしまいました///」
「惚気か」
「回復……」
残念じゃが[ノクターン]で元気づけるには限界がある。
豚公爵がその分野でぶっちぎりの上位種だからじゃ。
「……ならば、セルライトのもう一つの関心事。
『魔法』についてならば、どうか」
「『魔法』、ですか……。
チャレンジする価値はあると思います。
公爵様が新しい魔法を見て喜ばなかったことはありませんから」
「ならば、その方面で行ってみるとするか……」
振り返ってみると、オーダーのじぇんがは凄いばらんすを保っていた。
ため息を吐いただけで倒れてしまうとすら思える程のそれは……もはや芸術へと昇華されていた。
凄い。
凄い暇人じゃ。
「そんなことをやっている暇があったら、案の一つでも出すにゃ!」
シャーデンフロイデが折れた指とは逆の手でオーダーを指さすと。
じぇんがが、がしゃんと倒れた。
ああ、そんな大声を上げるから。
「にゃにゃにゃ!?
ご、ごごごごごめんなさいにゃ!!」
「……仕方ありませんね。
形あるものはいずれ滅びます」
オーダーはそう言って笑うと。
愛おしむかのように、シャーデンフロイデの指を圧し折った。
「ギニャ――――――!!??」
「お、おい、オーダーよ。
や、やりすぎじゃぞ!」
「ジャスティスです」
「じゃすてぃすか」
じゃすてぃすならば、仕方が無い。
「それでは、他に何か案はないか」
「ええええ!?
じゃ、ジャスティスって、そんなにも全てを解決できる言葉なのかにゃ!?」
いや、だって自業自得じゃろう。
シャーデンフロイデの泣き言を背景に、第一回BOB団会議は幕を下ろした。
ちなみにシャーデンフロイデの骨折は、回復魔法を使わずに本人が自力で治しておった。
凄いのう。
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今私とオーダーがいるのは、公爵の部屋の窓から見える中庭じゃ。
「という訳で、私の考えた、新しい魔法理論を見てくれ。
まずはこれじゃ」
ちらりと横目でセルライトが見ていることを確認した後。
私は一本の木に魔法陣を刻む。
「これは……風魔法の魔法陣、ですね」
オーダーは刻まれた魔法陣をなぞりながら呟く。
「以前考えた仮説なのじゃが。
紙でなく、木に直接魔法陣を描きこんだら。
少しの魔力で魔法が使えるのではないか、という実験じゃ。
あ、ちょっと待っておくれ。
今魔力を注ぎ込んだら私に直撃こーすじゃから、絶対魔力を注ぎ込むなよ」
「分かりました!」
オーダーは魔法陣に魔力を注ぎ込む。
何が分かったんじゃ。
勿論魔法陣からは大量の風が吹き出し、私はごむぼーるの様に空を飛んだ。
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「いててて。
魔石を持っていたおかげで空魔法を使えて助かったが……。
オーダーよ、話を聞いておったか?」
「聞いてましたよ。
『押すなよ、絶対押すなよ』ですよね」
「全然違うぞ!」
「それにしても、注ぎ込んだ魔力はほとんど無かったんですが。
凄い量の風が吹きましたね。
確かに紙より木に書いたほうが、少ない魔力で魔法が発動するみたいです」
「ふむ。
これは、新しい魔法の可能性の発見といってもよかろう!」
私はセルライトの部屋へ視線を移す。
セルライトは、ぼーっとこちらを見ておるが、相変わらず嗤い声は無い。
「うーむ。
せっかく凄い魔法を見つけた上に、空高く吹き飛ばされたのに。
一笑も無いとは残念じゃ。
よし。
ならば更に凄い魔法を見せてやろう」
私は再度、木に魔方陣を刻み込む。
「……見たこともない魔法陣ですね」
「うむ、私が開発した新魔法じゃ。
光魔法の様に人間には使えない魔法を考えてみて、思いついたんじゃ」
私は描いた魔法陣に魔力を注ぎ込む。
すると。
「え、え、え!
な、なんですか、これは!!」
魔方陣から、黄金色の液体が零れ落ちてきた。
私はそれをぺろりと舐めとり、Vさいんをした。
「大成功!
蜜魔法、じゃ!!」
「み、みつまほう?」
うむ。
ある意味、促成魔法なんかと似た魔法ではあるが。
植物が蜜を作る能力を底上げする魔法じゃ。
これがあれば、砂糖が無限に湧き上がるぞ!
自信満々にセルライトの方へ振り返ると。
むふふ。
目を見開いて、笑顔を浮かべておる。
勝ったぞ!
私は勝ったのじゃ!!
何に勝ったかは、よく分からぬが。
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因みに翌日、再び蜜魔法魔法陣を使用しようとして木に向かったら。
大量の虫たちがびっしりこびりついていたため、使用不能になっておった。
まあ、セルライトがそれを見て久しぶりに大爆笑してくれたので、よしとしよう。




