第146毒 猛毒姫、子供を欲しがる
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前回のあらすじ
(893キックは)賛否両論でした。
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ふむ。
おはようございます。
……ちょっと予想しておったが。
目が覚めたら、鼻にちゅーぶが入っておった。
横には、椅子でうとうとするオーダーがおる。
「オーダーよ、おはよう」
声をかけると、彼女ははっと目を覚ました。
「おはようございます。
やっと起きましたねボツリヌス様。
今回は、1週間寝ていましたよ」
「そうか。
心配をかけたのう……というか、なんだかオーダーも慣れてきたのう」
「ボツリヌス様の限界は、今回よりもまだ先にあることは分かってますからね」
うむ。
確かに、今回は眠らなかっただけじゃからな。
オーダーとしても、命の危険とまでは考えていなかったと思われる。
「それにしても、1週間、か。
当然、その……いろいろ、終わってしまったのか?」
「ピッグテヰル公爵とキサイ様が二人で出て行った直後にボツリヌス様は倒れた訳ですが。
その翌日、キサイ様の死が確認されました。
ご葬儀は3日前に全て終了してます」
オーダーは私に回復魔法を掛けながら、今までの経緯を話し始める。
「キサイの願いを叶えるためとはいえ、無茶をして葬儀に出られなかったか……。
悔やんでも悔やみきれぬのう」
「いえ、ボツリヌス様も参加しましたよ?」
「む?」
「十字架に磔にして私が運びました」
なにそれ怖い。
それは葬儀というより、処刑とか宗教儀式とかに見えたんじゃなかろうか、周りからは。
「……というか、オーダーよ、お主、真面に寝ておらぬのじゃあないか?」
今気づいたが、目の下の隈が物凄いことになっておる。
そういえば、私の不眠不休魔法陣書きの時にも、ほとんど一緒におったし。
私が倒れて1週間、此奴は間違いなく椅子の上でちょっとしか寝ておらん。
「オーダーよ、寝ておくれ」
「大丈夫ですよ、ボツリヌス様。
全然寝ていないんですが、逆に調子がいいんです。
体が軽い。
こんな気持ち初めて!」
「寝ろ、オーダー。
命令じゃ」
死亡ふらぐを立たせてきたのでとりあえず圧し折っておいた。
「ほら、このべっどで寝るがいい。
私が膝枕をしようじゃあないか」
「……!!」
オーダーが、感極まった様に涙を浮かべる。
「ボツリヌス様……大きくなられて……!!」
なんだか私の成長を感じておるようじゃ。
ふむ。
昔は102歳程度の精神年齢しかなかったからのう。
今は、105歳。
私も、大人になったものじゃ。
「じゃあ、ちょっとだけ、横にならせて頂きますね」
「うむ、遠慮することはない」
「まあ、そうは言っても余り眠くはないんですが……」
「……ただの勘違いじゃよ、横になればすぐに眠くなるさ」
「( ˘ω˘ )スヤァ……」
「早」
私は、自分の為に色々と無茶をしてくれたオーダーの髪の毛を、感謝するかのように撫でるのであった。
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「……」
「……」
静かに食器がかちゃかちゃ言う音だけが響いておる。
公爵と久しぶりの食事であるが。
一言も会話がない。
もともとあまり会話は無かったが、明らかに空気が重くて困るのう。
「公爵よ、今日のご飯は美味しいのう」
「……まあまあ、だな」
……ふむ。
私でも分かるくらいに落ち込んでおる。
普段の何を考えておるかわからぬピッグテヰルの基地外笑顔からは、想像もつかぬ程、どんよりとしておるのう。
なんとか元気づけてやりたいが。
此奴が喜びそうなことなど、あんまり思いつかん。
……よし。
「公爵よ、私、子供が欲しいんじゃが!」
あぴーるしてみた。
「そ、そうか。
その辺から、の、野良犬を用意しておこう。
す、好きに盛るが良い」
駄目じゃった。
何故じゃ。
妻なのに。
「シャーデンフロイデ、調達は、ま、任せたぞ」
「はいにゃ!」
「はいにゃ!じゃないが」
むむむ。
「……セルライトよ。
良ければじゃが。
キサイとお主との馴れ初めを聞きたいのじゃが」
これならどうじゃろうか。
いつまでも故人を思っても仕様が無いが。
さっさと忘れるというのも正しいことではない。
悲しむべき時に悲しまねば、のう。
「……き、気になるか?」
お、意外と食いついてきた。
……公爵も、語ることで乗り越えようとしておるのじゃろう。
「勿論じゃ、教えておくれ」
「キサイとピッグテヰル家との出会いは。
ピッグテヰル公爵領が、ふ、復興した、90年程前頃まで遡る」
ピッグテヰル家、か。
「『メタボル・ピッグテヰル』……それが、こ、公爵領を復興した当時の頭首の名だ」
ふむ。
セルライトの、お父さんとかお爺さんとかに当たるのかのう。
「勇者ストリーとともに、ま、魔物達を駆逐し、お、王国建国の立役者であった彼は。
『眉目秀麗の魔導師』などと呼ばれていた」
……本気でか。
いや、セルライトはこういう事で嘘はつかぬじゃろう。
その血が混じっておると言う事は。
此奴も、痩せたらいけめんになるんじゃあないか?
「……キサイは当初、メタボルの事が好きであったらしいが。
め、メタボルがハーレムを作っているのが、き、気に入らなかったようだ」
まあ、普通の感覚ならばそうじゃな。
……というか、セルライトもはーれむ作っておるのじゃが。
「ただ、その後もピッグテヰル公爵家とキサイとの交流は続いた。
メタボルがいなくなり、次の代の公爵になった後も、そ、その次の公爵になった後も」
おお。
やっと話が進んできたぞ。
だんだん面白くなってきた。
そして、正太郎公爵が登場するというわけじゃな。
「そして。
なんだかんだで私とキサイは結婚することになった」
「「「「え、えええええ!?」」」」
一番大事なところを端折っていくすたいる。
部屋の中で聞き耳を立てていた従者たちも、思わず声を上げておった。
ちなみに一番声が大きかったのは、勿論バトラーじゃった。
「ふん……今日は、は、話しすぎたな。
わ、吾輩は、もう寝るぞ」
な、何も話していない、何も話していないぞ、公爵……。
……相変わらず笑顔はないが、多少は吐き出す事が、出来たじゃろうか。




