第14毒 猛毒姫、毒女になる
なんとか家族にばれることなく袋詰めの屑魔石100個を自分の部屋に運ぶことができた。
よしよし、これで詠唱短縮への一歩を踏み出せたぞ。
……む?なんじゃ?オーダーの様子が変じゃの。
「バカ姫様、そちらへお座りください」
「じゃからそれは不敬じゃと言っておろう!」
「勝手に魔力を使って魔力量0にしたり、勝手に手に入れた技術を捨てたり、父親であるトキシン侯爵様を言葉巧みに騙したり……」
……む、これは本当に怒っている声じゃの。
オーダーは虫の死骸でも見るような目で私を見ながら部屋の床を指さしていたため、素直にそこに正座することにした。
「……それでも私は耐えに耐えてきました。
なぜなら、それらは魔術師の家系と名高いトキシン家の令嬢として、何とか魔法を物にしたいという一心から来たものだと思っていたからです」
……技術を捨てた理由は少し違うが、何とか魔法を物にしたいということは合っていたので特に口を挟まずに頷く。
「高価な魔石を手に入れたのも、短縮詠唱を手に入れたいからだと思い込んでおりました。
その心意気に報いるためにも、何とかボツリヌス様を下の下の魔術師にしてみせると誓いを立てていましたのに……」
下の下か。
下の下て。
まあ、魔力量10であるからな、魔術師と呼ばれるだけでも奇跡じゃがの。
……というか、オーダーがなんで怒っているのじゃ?
よくわからんぞ。
「それなのにまさか魔石を即日で売り払うとは思いもよりませんでした!
魔術師になるために魔石を手に入れたのでなければ、そうと言って下されば良かったのに。
なんだか、一人で張り切って、落ち込んで。
私だけ空回りしているみたいで滑稽ですね……」
……ああ、そうか。
オーダーの奴、私が何を買ったのかまだわかっていなかったんじゃった。
オーダーは一頻怒って叫んで落ち込むと、無理やり明るい声で言葉を続けた。
「すみません、取り乱しましたね。
それで、魔石を売ったお金で何を買ったんですか?」
「うむ、(屑)魔石じゃ!」
私はオーダーの誤解を解くべく元気良く立ち上がると、袋を縛る紐を解く。
中から屑魔石100個が、勢い良くごろごろと音を立てて床に散らばった。
大量の屑魔石の落下する動きに合わせてオーダーは激しく目を泳がせた後、泡を吹いて床に散らばった。
しまった……魔石も屑魔石も込められている魔力量は違うものの見た目は変わらぬからのう、説明無しで見せたらこうなってしまうか。
驚かせすぎたな……死んでないよな、オーダーよ……。
目を覚ましたオーダーに屑魔石について改めて説明した。
オーダーはしきりに感心しておる。
「成程ぉ。そんな抜け道があったんですねえ」
「まあ、普通の人がやっても効果は低いがの。
①魔術師になろうと思わないほど魔力が低い者が
②通常は使おうと思わない程の低れべるの魔法を習熟したくて
③屑魔石の存在を知っていて
④それなりの大金を持っていることが条件であるからのう。」
「流石、毒女様です!」
「ど、どくじょ?」
「ボツリヌス様があまりにもトキシン侯爵様に陰口を叩くものですから、使用人はみんなそう呼んでいますよ。
毒舌娘とか、毒女とか」
「き、貴様ら全員不敬じゃぞ!」
「はいはい、労しい労しい」
「吃驚するほど心が込められてない!」
それにしても、毒女とは。
前世でも毒女じゃったが、まさか今世で早くもその名がつくとは。
切っても切れぬは前世の業と言うやつなのかしらん。
「ふむ。
まあ良い、オーダーよ、それでは早速!」
「それでは早速?」
「引き篭るぞ!」
「……もう帰りたい」
オーダーは肩を落として項垂れた。
初ブックマーク頂きましたので記念書き込。
どなたか存じませんが温かい目で見てやってください。