第139毒 猛毒姫、魔法陣を科学する
魔法解説回。
NiOさんの自己満足回とも言う。
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前回のあらすじ
豚の株が上がった。
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翌日、キサイは何食わぬ顔で私を呼び出した。
「ご、ごめ、ご……ご……。
空魔法を教えろ」
謝れなかったようじゃ。
「……まあ、構いませんが」
龍族の皆様にも別に止められておらぬから、教えて良いのじゃが。
あんまり広まりすぎると私の魔法の希少度が無くなってしまうのう。
「他の者に教えたり、魔法陣を作ったりしないと約束出来るのであれば、お教えしましょう」
「誓おう。
例え使えるようになったとしても、他の誰かに空魔法を漏らすことは決してしない」
ふむ。
私なら『別に何に誓うとは言ってなかったぞ』とか言って皆に漏らしまくるじゃろうが。
キサイは信用できる相手じゃし、問題なかろう。
「分かりました。
それでは、良く見ていてくださいね」
私は、ふわりと浮き上がる。
「……分かりますか?」
「分かるわ」
分かったようじゃ。
お前はエ○スか。
キサイはぶつぶつと言葉を呟くと。
べっどからふよふよと浮き上がった。
浮いておる。
浮いておる。
浮いて……えええっ。
「ふーん。
キューッとやってバーンという感じだな。
なんだ、意外と簡単だな」
「」
う、嘘じゃろう。
ここまで天才じゃったのか……!!
「……あはは、冗談だ。
それを使ったんだよ」
キサイが足元を指差すと。
床の裏には例の魔法陣が仕込まれておった。
成程。
これで私の思考回路を読んで、魔法の発動方法を理解したと言う訳か。
「……またですか。
まあ、良いんですけどね……」
私がじと目でキサイを見つめると、キサイはここでやっと今までの事を謝ってくれた。
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キサイが空魔法を使って部屋の外に出られるようになってから、ピッグテヰル公爵の体調もすこぶる良くなった。
今日も二人で楽しそうに会話をしておる。
「お、おい、キサイよ。
最近のお前は、ま、まるで若い頃の様に、じ、自信に満ち溢れているな」
「ん?
ああ、そうかもな。
……なんだ、可愛げが無いか?」
「……ぶひょひょ。
お前のそう言う誇り高いところは、じ、実に良い。
そ、その鼻っ柱をへし折ってやるのが、わ、私の一番の娯楽だ」
「フフ……相変わらず、醜い思考回路をしているな、セルライトは」
笑顔が咲き乱れる。
……どう考えても喧嘩しておるようにしか聞こえないのじゃが。
2人の周りにはーとまーくが沢山浮かんでおる。
「全く……。
愛には色々な形があるんじゃのう、オーダーよ」
「えーっと……私がいない間に、話が進み過ぎていませんか。
実はピッグテヰル公爵には本妻がいて、ボツリヌス様は側室であると。
本妻が元気になったから、側室は蚊帳の外、と。
突然の事で良く分からないのですが、こう言う事ですか?
取り敢えずあの2人を殺しますね」
「や、やめろオーダーよ!」
オーダーのらん&がんが始まった。
私を腰に巻き付けたまま、らっせる車の様にずんずん進んでおる。
「わ、私が望んでやった事じゃ!
むしろ今くらいのぽじしょんが理想的じゃと思っておる!!」
オーダーは動きを止めると、むむむと眉間に皺を寄せておる。
可愛らしいじゃあないか。
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それからしばらくは、キサイの研究室に入り浸りになった。
「魔法の発動には、条件があることを知っているな?
発動させる者がそれを自身で行うことが出来るという『体の条件』と。
それをイメージする必要があるという『心の条件』だ」
今は、キサイの魔法陣講義を受けておる。
「ええ、知っています」
水魔法を使うには、自分の血流の流れをいめーじするし。
金魔法を使うには、自分の体内の微量金属をいめーじする。
自身の体でそれが行われていることを知り、いめーじ出来なければ、魔法は使えない。
私が見つけ出した考えだと思っておったのじゃが。
キサイにとってはこんな事、基礎も基礎だったようじゃ。
「じゃあ、魔法陣とは、なんだ?
例えば、水魔法を使った事が無い者でも、水魔法魔法陣に魔力を注ぎ込めば水魔法が使える。
これは、どういう仕組みでなんだ?」
「むむむ……確かに……」
「『魔法陣』と言う物は、イメージの代替。
……つまり、『心の条件』を満たす物ではないか、と私は考えている」
「ほほう」
これは興味深い。
水魔法を使った事が無い者でも、体内には血液が流れている。
彼が魔法陣に魔力を注ぎ込めば、いめーじの方は魔法陣がやってくれるため、魔法を発動する事が出来る、と言うことなんじゃろう。
「……あれ?
では、魔石を使っても魔法陣が発動する理由は……?」
魔石を使っての魔法の発動では、『心の条件』は満たす物の、『体の条件』は満たしていない。
ふむ……。
「……あ、解りました、『紙』、ですね!」
「驚いたな……正解だ」
魔法陣の書かれている紙。
これは、もともと木から出来ている。
材料が木であれば、水、熱、土、風魔法の『体の条件』を満たしている、と言っても過言ではない。
逆に、氷、火、金、嵐魔法の『体の条件』を満たしているとは言い難いじゃろう。
これが、現在魔法陣研究が基礎4源魔法で止まっている理由、と言う事なのか?
「そして、発展魔法などの魔法陣を作るには……魔法陣の書かれている紙の材質を選べばいいんですね!」
例えば、炎を生み出す木があったとして、それで紙を作って炎の魔法陣を記載すれば。
『体の条件』『心の条件』どちらも満たすことが出来ると言う訳じゃ。
「ああ。
だいたい正解だ」
「む、満点じゃあないんですか?」
少し不満を口にする私。
「フフ……選ぶのは、別に紙で無くても良いんだよ。
例えば、バトラーには、特殊な入れ墨で魔法陣を作成した」
「な、成程……」
紙で無くて、いんくでも良いと言う事か。
「更に、この理論を使えば、人間に使えない魔法だって魔法陣化出来ることになる。
……それが、陽魔法だ。
ヒカリゴケを使って下地を作り、それに魔法陣を描くことで完成させた」
ああ、何という魔法陣理論。
本当に面白い。
これらは全て、ピッグテヰル公爵との侃々諤々とした討論から生まれた物なんじゃろう。
天才が2人いると、まさに世界を動かす発明が出来るのじゃなあ。
……む、待てよ?
「……もしかして、魔法陣に大量の魔力が必要なのって、紙が元の材質を保っていないから、なのではないですか?」
「……は?」
如何に材料が木だと言っても、紙が『体の条件』を完全に満たしているとは言えないじゃろう。
そんな『体の条件』を無理矢理克服するために大量の魔力が必要なのだとしたら、と言う仮説じゃ。
「……仮にそうだとして、どうすれば少量の魔力で魔法陣を発動出来るというんだ」
「その辺の木に、直接魔法陣を書き込んではいかがでしょう」
「……!!」
お、その考えはなかったらしい。
キサイは驚愕の表情のまま、紙にかりかりとぺんを走らせ始めた。
「……まあ、それはそれとして、お話の続きを……」
「今日はもう終わりだ。
帰れ」
キサイは先生もーどから学者もーどに移行したらしい。
私のことなど無視して目をきらきらさせておる。
……まあ、良い。
私も、思っていた事をやってみるとしよう。
陽魔法。
人間には使えない魔法で、光苔を基盤にして魔法陣を作ったとのことであるが。
本当に人間には使えないのじゃろうか?
例えば、月が光っておると言う事に、議論を挟む余地はない。
しかし実際は、太陽の光を反射して、『光っておるように見えるだけ』、じゃ。
そして、光を反射して光っている、と言う点では、私も同じじゃ。
……普通に考えれば、自分が光っているとは、いめーじし辛いじゃろうがのう。
私は手をかざすと。
掌から、ぱあ、と、光が溢れだした。
「ふむ。
しゅーっとやってどどーんという感じじゃな。
なんじゃ、意外と簡単じゃのう」
「」
苦も無く出来た事に驚く私と。
陽魔法を使える人間の存在に驚愕するキサイ。
ふむ。
……なんか、陽魔法、出来ちゃった。




