第136毒 猛毒姫、茶番劇を行う
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前回までのあらすじ
元BBA VS 現BBA。
ファイッ!
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「ボツリヌス、とやら」
「はい」
「何故近くに来ない。
私の目が悪い事くらい、分かるだろう」
え、分からんに決まっておろう。
と、突っ込んだら負けじゃ。
お婆ちゃんが、ちょいちょいと人差し指で近づくように指示するので。
私はべっどの横に移動した。
何だか色々と面倒臭そうなお婆ちゃんじゃ。
「……それで、何をしに来た?」
「大奥様にご挨拶をさせて頂こうかと」
まあ、嘘じゃけど。
夜陽灯の魔法陣を見るついでに来た。
「……ふん。
その大奥様が、こんな年寄りで驚いたか?」
「そんな、まさか」
大分驚かされたぞ。
最初は公爵の幼馴染みという触れ込みだったからのう。
あめいじんぐ・お婆ちゃん。
しかもどうやら、性格も悪そう。
あめいじんぐ・意地悪お婆ちゃん。
「……まあ良いさ。
ほら、さっさと空魔法を見せてみろ」
「はい……あ」
そう言えば私、魔石持ってなかった。
「すみません、実は私の魔力、10しか無いので。
魔石をお貸し頂いても良いでしょうか?」
「魔力が10!?
あ、ああ。
……そこらに転がっている物から、好きに使え」
お婆ちゃんは一瞬驚いたものの、すぐに元の無表情な顔に戻る。
ふむ。
私はあたりを見渡して、一番魔力量が多そうな魔石を拾い上げた。
さてと。
普通に魔法を使って見せても良いんじゃが。
何だかお婆ちゃん、目が死んでおるからのう。
せっかくじゃし、面白おかしく見せて、笑わせてやろう。
「それでは使ってみましょう。
よいしょっと」
私は魔法でその辺に放り投げられている帽子を持ち上げると。
同じくその辺に転がっている、ばすけっとぼーる大の水晶玉にすぽりと被せた。
可愛らしいじゃあないか。
「ふふ……」
「……ふむ、成程。
確かに、風魔法ではないようだな……」
バトラーは少し笑ってくれたが、お婆ちゃんは全くの無表情。
空魔法を興味深げに眺めるものの、相変わらずその目に生気は宿っておらぬ。
知的好奇心はあるのじゃろうが。
空魔法を理解し、応用するには。
残された時間が少なすぎると考えておるのかも知れぬ。
気持ちは分かるが、そんな目をされてはこっちが滅入ってしまうのう。
……よし、ならばもっと面白可笑しく動かしてやろう。
、私は帽子をかぶった水晶玉を、バトラーの目線程度までふよふよ浮かび上がらせる。
同時に、その辺にある手袋と靴を空魔法で動かすと。
まるで、水晶玉を頭に持つ、手袋と靴を履いた透明人間の様になった。
調子に乗ってまんとを体に纏わせる。
おお。
ちょっとした魔術師に見えるな。
よし、魔導書なんかも持たせてみよう。
あら、可愛らしい。
『水晶玉まん』と名付けよう。
「凄い……」
生き物の様に動く『水晶玉まん』に、バトラーが感嘆の声を上げた。
「……」
お婆ちゃんは相変わらず無表情。
くそ、流石は『魔法学者』、この程度では驚かぬか。
ならば、これならどうじゃ!
部屋の扉の方から、どすん、どすんと音を立てて敵きゃらがやって来る。
「ななな」
「……」
土のごーれむじゃ。
と言っても、正確には私が微に入り細に入り動かしておる、
ごーれむ風の操り人形じゃがの。
という訳で、正義の味方、水晶玉まんと悪のごーれむの一騎討ちが始まる。
土塊と手袋の殴り合いじゃ。
激戦の背景にこっそり雷魔法を添えると、なかなか格好良く見えるのう。
ああ、水晶玉まんが、地面に倒された。
ぴんちじゃ!
余裕綽々でゆっくりと近づくごーれむ。
……完全に油断しておる。
そして、その一瞬の隙をついて。
水晶玉まんは、弩派手な火魔法を展開した!
部屋の中を焼き尽くさんばかりの、巨大な熱量が出現する。
轟炎をまともに喰らった土のごーれむ。
これは立っていられないじゃろう。
勝負は決したかに思われた。
しかし……。
「そ、そんな!?」
「……」
土のごーれむの中から、ま、まさかまさかの、金属ごーれむが登場したのじゃった!
呆然とする水晶玉まん。
金属ごーれむはその隙を逃さず、彼の胴体部分に強烈な蹴りを食らわせた。
さあ、胴体が空気の水晶玉まん。
空魔法を駆使して、まるで質量を持っているかのように吹き飛ばしてやらなくてはのう。
ここをこうして、よよいの、よい……よし、上手く行った。
地面を数回ばうんどする水晶玉まん。
だめーじは相当のはずじゃ。
「が、頑張れ!」
「……」
バトラーが思わず水晶玉まんに応援を送る。
よしよし、大分感情移入しておるな。
お婆ちゃんは、未だに一言も発しておらん。
ただの屍の様じゃ。
さあ、そろそろふぃなーれと行こう。
地面に突っ伏す水晶玉まんを、静かに見下ろす金属ごーれむ。
最後の一撃を加えようと金属の手を振り上げて……そこで、何かに気付いたかのように手を止めた。
「……あ、あああ!
水晶玉の、手が……無い!?」
「……」
気付いた時には、もう遅い。
背後から忍び寄った水晶玉まんの手が、ごーれむの顔を掴む。
使用するのは、零距離最強のあの技。
「絶対零度!」
オーダー印の瞬間凍結魔法。
金属ごーれむは、一瞬のうちで氷漬けとなり……そのまま砕け散った。
水晶玉まんの大勝利じゃ!
「……!!」パチパチパチ!!
バトラーは手を叩いて涙を流しておる。
感動したらしい。
さあさあ、お婆ちゃんの反応や如何に!
「……ボツリヌスよ」
「はい!
大奥様!!」
「……室内で、火魔法や雷魔法を使う奴があるか。
しかも、貴重な魔石を使って。
そもそも私は、『空魔法を見せろ』と言ったんだ。
なんだ、今の茶番は?
馬鹿にしているのか?」
めっちゃ怒られた。