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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
豚公爵編
135/205

第135毒 猛毒姫、株の売買をする

NiOさんは ひさしぶりに いえに かえって きた!

 *******************


 前回までのあらすじ


 やっても やっても むげんに おわらないもの なあに?


 答え しごと


 *******************


 なんと公爵様、結婚なされていたとは。


 ……まあ、公爵じゃし、ある意味当然ともいえるが。

 なんで皆、教えてくれなかったんじゃ。


「ピッグテヰル公爵様が嫁を迎えた事は今までに何度もあります」


「何度もあるのか。


 ……あ、成程。

 普通は逃げ出すんじゃな」


「半分、正解です」


 常人であれば、奴と結婚生活を送るのは困難じゃろう。

 私もすぐに逃げ出すと思われておったのかもしれん。 

 実際、バトラーの奴は、ついさっきまで私を『お嬢様』扱いしておったし。

 

「ところで、半分正解、とは?」


「ピッグテヰル公爵家に来た嫁の数は奥様を入れて11人。

 うち5人が、1週間以内に逃亡しております」


 私を除けば、50%の逃亡率。

 貴族の面子や自身の進退もかなぐり捨てて逃げ出すとは、相当に嫌だったんじゃろう。


「それで、残りの者は?」


「普通に妻として生活しておりましたが。

 うち4人が、戦いに巻き込まれて結婚後5年以内に命を落としています」


 私を除くと、実に80%の死亡率。 

 妻って、そんな過酷な職業だったじゃろうか。

 ぶらっく過ぎるぞ。

 ぶらっく人妻。


「それで、生き残ったのが最後の大奥様、と言う訳か。

 滅茶苦茶、強いんじゃろうなあ」


 むきむきまっちょを想像し、わくわくする私。

 しかし、バトラーは首を横に振った。


「いえ、彼女は膨大な魔力を持ってはいるものの、誰よりも弱かった。

 大奥様は、魔法学に没頭する方。

 ……本人の言葉を借りるならば、『魔法学者』だったのです」


 おお。

 『魔法学者』を自称するものが、ガクシャ以外におるとは。

 仲良くなれそう。


「つまり、戦闘には参加せず、机の上で戦っておったのじゃな」


「ええ。

 彼女の生み出した魔法陣を始めとする武器の数々は。

 ピッグテヰル公爵軍を常勝無敗の防御壁へと進化させたのです」


「そんな有能な者が、何というか、ピッグテヰル公爵家に嫁いできたのか」


 話を聞き、実際に彼女の作り出した物を見る限り。

 自身の力で爵位を得ることが出来る程の人物じゃぞ。

 男尊女卑のこの世界ではあるが。

 国の中枢を担ってもおかしくない存在じゃ。


「ピッグテヰル公爵様が5歳くらいの頃からの付き合いだそうです。

 当時の公爵様は何度も大奥様にプロポーズをしたらしいですよ。


 彼女も最初は本気にせずソデにしていたらしいですけど。


 あんまりにしつこかったから『15歳になって同じことが言えたら結婚してあげる』と言ったらしいです」

 

 成程、幼馴染か。

 それなら納得じゃ。


「そして、公爵様は15歳になったその日に、彼女にプロポーズしたそうです」


 バトラーは悔しそうな、羨ましそうな、楽しそうな。

 複雑な表情で話を続ける。


「なんと甘酸っぱい。

 その頃のピッグテヰル公爵は、まだ純粋だったんじゃろうなあ」


 在りし日の、恐らく太ってもいない、可愛らしいピッグテヰル公爵。

 少年と少女のきゃっきゃうふふを想像し、私は笑顔で目を閉じる。

 ぼーいみーつがーる。

 ぴゅあ・らぶじゃ。


「いえ、5歳の時点で性格は完全に形成されていたみたいです」


 嫌な子供じゃった。


「しかもその頃は、それを上手に誤魔化していたみたいですよ」


 今より大人じゃった。


「ちなみに15歳の時点で既に嫁が数人いました」


 はーれむ要員のぷろぽーずじゃった。


 私の中で一時的に上がった公爵株じゃったが。

 次の瞬間、脳内ボツリヌス達が公爵株を全部売り飛ばしたため。

 一瞬で本日のすとっぷ安を記録した。


「そ、そうか。

 まあとにかく、公爵にとって、とても大事な人なんじゃな。

 しかし、その割には食事の場にも顔を出していない様じゃが」  


 バトラーは顔を曇らせて答える。


「大奥様は、最近多くの時間を自室のベッドの中で過ごされております。

 もともと、体もお強くありませんし。


 いろいろ、お悩みの事もあるみたいです」


「悩み事、か」


 旦那様が6歳児を嫁に迎えた事じゃろうか。

 いや、そんなの今更じゃろうし。

 ううむ。


##############################################


 公爵の屋敷へと戻ってきた私たちは、地下の部屋に案内される。

 大奥様の部屋が、地下?とも思ったが。

 魔法陣作成や魔法の試し打ちなどを考えると、地下の方がいろいろと捗るし、そう言う事なんじゃろう。

 それにしても、療養にはあまり宜しい環境ではないと思うのじゃが。


 バトラーが部屋の扉をのっくする。


「大奥様。

 バトラーで御座います。


 この度、トキシン侯爵領より、ボツリヌス様が嫁入りされたとのことで、挨拶をしたいと参っております」


「……」


 ……。


 ……。


 ……あれ。


「……こうやって声掛けをしても、反応すらしてくれません。

 もう数年、館の者は誰も顔を合わせておりません」


「し、死んではおらんよな?」


 多分食事なんかは魔法で作ったりしておるのじゃろうが、流石に数年顔を合わせないと言うのはおかしい。

 病弱な若い女性が、部屋の中で孤独死している様子を思い浮かべて私は若干青くなる。

 念のため魔力流量感知で確認すると。

 ……部屋の中に巨大な魔力を持つ人間がおった。

 良かった。

 死んでおらんかった。

 ただ無視されておるだけじゃったか。



 それはそれで、むかつくのう。


「初めまして、キサイ・ピッグテヰル様。

 この度ピッグテヰル公爵へ嫁いでまいりました、ボツリヌス・ピッグテヰルと申します。

 以後、お見知りおきを」


 私は声を張り上げるが。


「……」


 あくまで無視か。

 ならば、食いついてくる様な話題でも振ってみるとしよう。


「それにしてもピッグテヰル公爵領の魔法陣は見事の一言でした。

 本日は成長補正魔法と促成魔法を見学させて貰ったのですが。


 あれは、光魔法魔法陣の副産物、なんですよね?」


「……五月蠅いぞ」


 扉の向こうから、声が返ってきた。

 反応があったぞ。


 バトラーが、驚いたような顔をしておる。

 返答すら珍しかったのじゃろう。


「魔法陣の隙間に魔力的な火打石を作ったり、風切となる排気陣を仕込んだりする仕組みは驚愕しました。

 あのような発想があるとは……」


「帰れ、魔法陣を齧った程度の人間の話を聞くと、虫唾が走る」


 む。

 確かに、私は魔法陣を齧った程度の人間じゃ。

 6歳じゃし。

 彼女程のぷろふぇっしょなるからしたら、通ぶった私の台詞が許せないのかもしれぬ。  


 ならば、仕方あるまい。


 奥の手と行こう。


「ところで大奥様。


 空魔法は(・・・・)見たくありませんか(・・・・・・・・・)?」


「……」



 またもキサイ夫人は無言で答える。


 しかし、私には確かな手応えがあった。

 夫人は空魔法を……少なくとも目の前で見たことはないはずじゃ。

 魔法陣化されていない事もそれを裏付ける物じゃし。

 そもそも、龍が独占しておる魔法なのじゃ。

 『目の前で空魔法を見た』と言うことは、ほとんど『龍に殺された』と同義。

 その空魔法を、目の前で見ることが出来る。


 魔法学者が(・・・・)この機会を(・・・・・)逃すわけがない(・・・・・・・)



「……嘘では、ないな」

 

勿論(・・)


「……」


 十分な時間をおいて。





 がちゃり。




 扉の鍵が解除される音が聞こえた。




「奥様……これは、快挙です」


 バトラーが、ひそひそ声で喜んでおる。


「それでは、失礼します」


 私は勝ち誇った笑顔で、部屋の中へと入って行った。


###############################################


 見たことも無い機械。

 魔法陣の書きかけの紙の束。

 (うずたか)く積まれた魔導書。


 そんな秘密基地の様な研究所の、部屋の中央に。


 そこに似つかわしくない、べっどがあった。


 べっどに横たわるのは、鼻にちゅーぶを通して栄養を送り込まれている老女。


 ……老女じゃ。


 私は混乱する。


「あれ、幼馴染じゃなかったのか」


 一瞬、『ピッグテヰルの奴、一体何歳なんじゃ』と思ったが。


 ……よくよくバトラーの言葉を反芻してみると。


 公爵が5歳の頃からの付き合いと言ってはいたが。

 その時に彼女が(・・・・・・・)何歳かは言っておらん(・・・・・・・・・・)かったのう(・・・・・)


 彼が5歳の頃、彼女は70歳とかだったのかもしれん。

 そりゃあ、5歳児にプロポーズをされても本気にしないじゃろう。


『15歳になって同じことが言えたら結婚してあげる』


 と言われて、本気で実行したピッグテヰル公爵。

 なかなか骨があるじゃあないか。

 脳内ボツリヌス達も、公爵株を買い戻す動きを見せておる。


「……お前が、ボツリヌスか?」


 私のそんな脳内状況を気に掛けることも無く、キサイ夫人が私に話しかけた。


「……はい、ボツリヌス・ピッグテヰルと申します」


 私は挨拶(かてーしー)をした後、改めて彼女を見る。


 ……いかんのう。


 目が(・・)死んでおる(・・・・・)

NiOさん「……」

ボツリヌス(此奴も死んだ目をしておる)

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