第134毒 猛毒姫、謝る
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前回までのあらすじ
答え:せけんばなす。(東北なまり)
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ピッグテヰル公爵が寝て2日目。
私は今屋敷を出て、公爵領地内を回っておる。
「ほおお……栄えておるのう」
馬車の中からの観光ではあるが。
まるで真っ白い1枚の大理石で出来た様などこまでも広がる道路。
その両側に、たくさんの屋台が出ておった。
「なんだか、屋台が多いの。
普通の店は無いのか?」
私は馬車を運転するバトラーへ声を掛ける。
今日は、二人だけでお出かけじゃ。
「勿論ありますよ。
ここは屋台通りとしては一番大きな通りですが。
通常の店が出ているのは、もっと大きな通りですね」
「こ、ここより大きな通りがあるのか!!」
さ、栄え過ぎじゃ。
この通りだけでトキシン侯爵領の税収を半分くらい賄えるんじゃあないか?
出店屋台には以前確認した巨大な植物や、高速で育てたと思われる動物の肉が美味しそうな匂いを発して並んでおる。
「な、なにか食べて行きたいんじゃが」
「衛生面で心配ですから我慢してください」
「鼠とか食べさせたくせに今さら!?」
私が抗議の声を上げる。
「似た様な物をウチのコックに作らせますので」
「お。
これは楽しみじゃ」
私は呵呵大笑しながら、更に通りを見渡す。
「……全然、物乞いがおらぬのう」
いや、それらしき人々は見かける。
ぼろぼろの服を着た、働く術など無さそうな子供や老人たち。
しかし、全員が笑顔なのじゃ。
一体、何故……。
「ああ……食料が安くて大量にあるから……いくらでも余るのか」
「……これは驚きました、正解です」
バトラーが図星を当てられたためか、吃驚しておる。
衣食住の中でも、最も大事だと思われる、食。
魔法による栽培の影響で飢えないだけの量があるのじゃろう。
物乞いが、そして犯罪が少ないのは、そのせいか。
「後は貧民対策として、毎日夕方に食事の配給などもあります。
ほとんどはゴミ野菜とクズ肉のスープですが。
まあ、それを食べているだけでも、死ぬ事は無いですね」
いや、十分じゃろう。
治安の良さにも頷ける。
「更に、熱魔法魔法陣を設置した簡易無料宿泊施設もあります」
しかも、住まで揃えておるのか。
凍える事も無いとなると、底辺領民が死なない。
これは、人口爆発待ったなしじゃな。
しかも、まだまだ余裕がありそうじゃし。
……あ、でも定期的な魔族との戦いで減るからとんとんなのか。
「ピッグテヰル公爵……本気で凄い奴じゃな」
「ええ!
そうですよそうですよ!
そうなんですよ!
お嬢様も、やっと分かって頂けましたか!!
他にも、学び舎の導入や上下水道の完備……」
バトラーは嬉しくなったのか、饒舌に話し始めた。
よっぽど、好きなんじゃなあ。
ふむふむとバトラーの言葉を聞きいておると、馬車が大きな広場に出る。
「……広場の中央に、見慣れぬ機械があるが、あれはなんじゃ?」
「あれはある意味、この街の心臓ですね。
街のありとあらゆる公共施設……例えば夜陽灯であるとか、宿泊施設の熱魔法魔法陣なんかは、あそこから供給される魔力を転送して使われています」
「そうそう、魔力転送もあるんじゃったな。
これもまた、凄い技術じゃのう」
そんな事を言っておると、その辺を歩いていたと思われる魔法使い風の男が。
暇だから、とでも言うように、その機械に付属する丸い球に向かって手を差し伸べた。
青い光が立ち上る。
「あれは、何をしておるのじゃ?」
「みんなが使う物ですからね。
魔力が多くて、特に用事の無い人は、機械の中に自分の魔力を送り込むんです。
彼らが送り込む魔力は機械の中で一時的に貯められまして。
その魔力で、この街のシステムは動いているんですよ」
私は驚愕した。
理想的な共産主義じみたこの世界に、では無い。
「今……魔力を、貯める、と、言ったな」
そんな、馬鹿な。
魔力を溜める事など。
……不可能じゃ!
「……ピッグテヰル公爵は、長年の研究で編み出したのです。
……魔石に、魔力を改めて貯める方法を」
「ひ、ひええええ!?」
私は、腰を抜かしてしまった。
当たり前じゃ。
それは、控えめに言って、世界がひっくり返る発明。
下手したら、人類が初めて火を見つけた事に匹敵するほどの超技術じゃぞ。
ピッグテヰル公爵は……紛う事無く、天才じゃった。
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更に農地へ行って、各種魔法陣を調べさせてもらった。
「それにしても、成長補正魔法と促成魔法の魔法陣はなんだか似通っておるのう。
それに、どこかで見たことがあるような……」
何じゃったっけ、と思いながら自分の帳面をぱらぱらめくると。
「……あ、これじゃ。
光魔法の魔法陣と似ておる」
さては、光魔法魔法陣を作成している間にできた、副産物じゃな。
これは面白い発見じゃ。
「お、そうじゃ。
バトラーよ。
自分の胸が気になるのなら、成長補正魔法をかけてみたらどうかの」
ふと気づいたので、バトラーに声を掛けてみる。
「もう試しました」
既に試しておった。
どうやら魔法すら意味を成さぬ絶壁。
なちゅらる・ぼーん・俎板じゃった。
「べ、別に良いじゃないか。
公爵に文句を言われておる訳では無いんじゃろ?」
「……『お前は女でありながら男の様でもあり、一粒で2度美味しいな』と言われました」
これはひどい。
「そ、そうか。
よ、良かったじゃないか、褒められて」
「当然、女として褒められたい!」
泣きながらへたり込み、地面を叩き続けるバトラー。
「すまぬ」
そりゃあ、そうじゃよな。
私は素直に謝った。
「さ、さて。
それじゃあ、夜陽灯を見に行こうかのう」
「……お嬢様」
「?
なんじゃ」
「お嬢様は、ピッグテヰル公爵様のことを、どう思いますか?
具体的に言いますと。
離婚するおつもりですか?」
ふむ。
バトラーにしてみれば、気になるところであろう。
まあでも、私は自分の思っている事を口にする。
「離婚するつもりは無い」
「何故ですか?
あんな酷い扱いを受けたのに?
お嬢様は、ピッグテヰル公爵様のどこを気に入られたのですか?」
「顔と体形以外は、大体気に入ったぞ」
「……!!」
バトラーが絶句しておる。
そんなに変な答えかのう。
「……大変失礼しました、奥様」
呼び名が、変わった。
今までは、『お嬢様』じゃったからのう。
……もしかしたらバトラーは、私が逃げ出すと踏んでおったのかもしれぬ。
「それであれば。
ある場所へ連れて行かせて頂きます。
夜陽灯の魔法陣も、そこで見せて頂きましょう」
バトラーが馬車に乗るようにと私を促す。
「ある場所、とな」
「ええ。
これらの魔法陣の実用化を、ピッグテヰル公爵と共に成し遂げた方の所です」
「え、ピッグテヰル公爵だけじゃないのか」
なんと。
天才はピッグテヰル公爵だけではなかったのか。
まあ確かに。
独りで成し遂げるなど、土台無理な話じゃしのう。
「一体、何者じゃ?」
「その名を、キサイ・ピッグテヰル」
「む、ピッグテヰル公爵の関係者か。
叔父か? 従兄弟か?」
私の当て推量に、バトラーは首を振ると。
真面目な顔をして、静かに答えた。
「彼女は。
ピッグテヰル公爵様の大奥様。
……第一夫人様です」
……。
……。
……。
えっ。
彼奴、結婚しておったのか。
……。
……。
……。
えっ。
私って、側室?
……いや、まあ、良いけれども。
次回、豚公爵の愛を賭けて、女たちの熱き戦いが始まる!(嘘)
どうでも良い小説書きました。
ハートマン軍曹が好きです。
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