第133毒 猛毒姫、悪役令嬢する
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前回までのあらすじ
なぞなぞです。
東北地方出身のボツリヌス様。
ある夜、旦那様のピッグテヰル公爵の寝所へ向かいます。
全裸になった二人は、『せ』で始まって『す』で終わる事を始めました。
さて」一体なあに?
答えはまたどこかで。
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「お、お前、もう、か、帰れ」
翌朝、豚公爵から驚くべき提案が出た。
「そ、それはつまり……」
「離婚だ」
絶縁宣言じゃった。
「き、貴様もその方が有難いだろう、ボツリヌス・トキシン」
すでに苗字がトキシン呼びに戻っておる。
周囲を見渡してみたが、みんながみんな笑顔である。
バトラーもシャーデンフロイデも、勿論オーダーも。
誰からも祝福されない結婚じゃったのか。
しかしのう。
私はピッグテヰル公爵の事を、気に入り始めておる。
それに、これを逃したら、もう結婚など無理じゃろう。
ピッグテヰル公爵に愛想を着かされた少女。
完全に事故物件じゃ。
別に絶対結婚をしなくてはならないと思っている訳ではないが。
せっかく2度目の人生でもあるし、一回くらいはちゃんとした結婚生活を送ってみたいしのう。
「……私と結婚したと言う経歴は、な、何が何でも消してやろう。
じ、実際、何もやっていないしな。
1週間やる。
ゆ、ゆっくり考えておけ」
ピッグテヰル公爵が、私の考えを読んだように、そんな条件を付け加えた。
成程、これを逃しても後々結婚できるように便宜を図ってくれるという事か。
これは魅力的な提案かも知れん。
それにしても。
ピッグテヰル公爵は、精彩を欠いておる。
まあ、死んで翌日じゃ。
私が同じ条件なら、爆睡真っ只中。
起きてきて意思を伝えただけでも、良くやった方じゃろう。
1週間やる、と言ったのも、自身の精神力の回復を待ったのかもしれん。
「わ、私はしばらく、ね、寝るぞ。
ボツリヌス・トキシンは、て、適当に、どうとでも過ごすが良い」
放任。
まあ、その方が良いか。
折角なので、例の夜陽灯であるとか、成長補正魔法であるとか、促成魔法であるとか。
夢の様な魔法陣の数々、これらをいろいろと見て回りたい。
「じゃ、じゃあ、バトラーの体中の入れ墨を見てても良いのか!?」
ピッグテヰル公爵は、しばらくの空白の後。
「か、勝手にするが良い」
了承を頂いた。
流石に私が魔法陣を読めるとは思わなかったらしい。
うかつじゃぞ、ピッグテヰル公爵!
……まあ、現在のこんでぃしょんでは、そこまで要求するのは酷ではあろうが。
今から考えてみると、元を辿ればテーラーから貰った『猛毒姫』のお陰じゃな。
有難い誕生日ぷれぜんとであった。
まあ、それはそれで置いておいて。
立ち去ろうとするピッグテヰル公爵に、私は声を掛けた。
「これってつまり、いわゆる『婚約破棄』じゃよな」
「?……まあ、そうなるな?」
悪役令嬢が、公爵様より、婚約破棄を頂戴するか。
これは、なんとも。
浪漫じゃあないか。
私は突然、悲鳴にも似た泣き声を上げて床に崩れ落ちる。
「そ、そんな、ピッグテヰル公爵!
一体私が何をしたと言うのですか!」
やって見たかったんじゃよ、婚約破棄。
しばらく私がすんすんと泣く声が響いた後。
「なんと厚かましい!
ボツリヌス・トキシン様、この期に及んで白を切るおつもりですか?」
流石オーダー。
私の心のうちを読んだ、見事な台詞が返ってくる。
「いやあ、そういうイケシャアシャアとしたところは、見習いたいですにゃー」
シャーデンフロイデも、理解してくれたような台詞を返してくる。
「わ……私の言い分は、聞いてもらえないのでしょうか!?」
「ピッグテヰル公爵のお言葉は神のお言葉です!
即ち、貴女の言い分を聞くつもりはありません!」
バトラーが演技か本気か分かりにくい言葉を発して私を詰った。
「こ……こんなのはあんまりです!
ピッグテヰル公爵、どうか御慈悲を!
……あれ、ピッグテヰル公爵?」
公爵様は早々に茶番を見抜いたようで、既に自室へ帰っていた。
流石じゃ。
……せっかくじゃから、もうちょっと付き合って欲しかったのう、悪役令嬢物。
しょんぼり。
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さっそくバトラーをひん剥いて、魔法陣の観察を行う。
「これは、何の魔法陣なんじゃ?」
「は、恥ずかしい……」
今さらながら、恥ずかしがるバトラーを無視して、私は魔法陣の描き写しに入る。
恐るべきことに、バトラーの体には種族4源の4種と特殊4源の『闇』と『時』魔法を除く、全ての魔法陣が存在したのじゃ。
全くバトラーめ、馬鹿げた戦闘力である。
彼女は完全にピッグテヰル公爵に全てを捧げておる様じゃが。
もし気持ちに変化があれば、公爵をぶっ殺すなんて簡単じゃろう。
絶対に飼いならせないツキノワグマと、一応懐いておるライオン。
無差別愛にも程がある。
公爵は馬鹿なのか、死ぬのか。
そして勿論、魔法陣を作成する知力も異常じゃ。
実際バトラーに発動して貰い、どうやって働くのか見てみたが。
「な、成程。
着火ぷろせすを、魔力回路の高速回転で補っておるのか!」
魔法陣は精密な機械だと思っていた私。
しかしピッグテヰル公爵は、その隙間に魔力的な火打石を作ったり、風切となる排気陣を仕込んだりしておる。
魔法陣を魔法陣と思っていないような、斬新な発想の数々。
私から言わせれば、奴こそが化け物じゃ。
多分ではあるが、種族魔法や特殊魔法の『闇』『時』の魔法陣が無いのは、単にその魔法を見る機会が無かっただけじゃろう。
そして、複雑すぎてどうしても『光魔法』魔法陣の理屈が理解出来なかった。
魔力流量感知を全力で使っておるのに、である。
く、悔しい!
因みにシャーデンフロイデは、私が魔法陣を移している横で、バトラーの裸婦像すけっちを行っておった。
別に、絵が趣味と言う訳ではなさそうじゃ。
「メシウマだにゃー」
人の嫌がる事を進んで行うことの出来る猫じゃった。