第13毒 猛毒姫、買う
オーダーはこの魔石を使って私が魔法の詠唱短縮を行うと勘違いしていた様で、「マホウガーマセキガー」と余りにもうるさかったので馬車に返した。
こんなもん、売るに限るじゃろう。
5000万ゴールド相当の魔石は、3000万ゴールドで売れた。
アコギの言い値で、値上げ交渉もせず即決である。
アコギは驚いておるが、まあ、これはこれからの本交渉のための心付けの様な物じゃしの。
「魔石の件、誠に有難う御座います。
さて、代金の受け渡し方法についてですが、大変申し訳御座いませんが、流石に我が商店でも3000万ゴールドの一括払いは困難です。
分割でのお渡しとなりますので、そちらに関して御相談させて頂きたく……」
「そんなどうでもいい話は置いといて、使用後の魔石の余りはどうしておるのじゃ?」
「え!?いや、大事な話なのですが……。
えーっと、使用後の魔石……ははあ、屑魔石のことですね。
そんな魔石があることをよく御存じですね。
我々の商店は規模こそ小さいですが、貴族様方が使用した後に当商店で回収した屑魔石はそれこそ大量にございます。」
やはり、あったか。
魔石は、魔力を使い切ると自然に消え去る。
さらに言うと、使い切らないと消えないのだ。
少量の魔力だけが残った魔石はそれを使い切るのも面倒。
捨てても土に還らないので捨てられない。
そんなこんなでどこかに大量に保存して放置しているのではないか、と踏んだんじゃが正解か。
「屑魔石は魔石を売る者達の抱える共通の問題ですね。
魔力量が100を切っていて、使い切って処分するのも面倒、売ったとしてもタダ同然の屑とはいえ魔石は魔石。
商人の私達としてはもったいなくて捨てるに捨てられず日々商会の倉庫を圧迫している状態ですよ。
屑魔石同士の魔力量を組み合わせて通常の魔石に出来れば良いのですが……もちろんそんな技術は無く、処理に困っていますよ」
商人は苦笑いで答えた。
魔石は意外と嵩張るし、本当に困っておるのじゃろう。
「倉庫にある屑魔石の全部を合わせた魔力量はいくらになる?」
「屑魔石の総量ですか?
そうですね……いっぱいになっている倉庫の数が
……屑魔石の平均魔力量を50として……」
アコギは単純化して暗算を始める。
「おそらく魔力量の合計は1億以上になると思います。それだけ聞くと凄いんですけどね」
「全て買い取ろう。1000万ゴールドでどうじゃ?」
「へ?」
アコギは一瞬ぽかんとした後、慌てて算盤を弾き始めた。
そんなに細かい計算をしなくても解るじゃろうに……。
売ることも出来ず、倉庫を陣取るだけでむしろ月々赤字を生み出す品物を、こちらで処分して金まで出そうと言うのである。
どう考えても黒字じゃあないか。
やがて、アコギは信じられないという顔でこちらを見返した。
私はさらに話を続ける。
「屑魔石の平均魔力量を50として計算して総魔力量が1億以上と言うことは、屑魔石の数は200万個以上と言ったところか。
月々2万個の屑魔石を、100か月くらいかの、倉庫が空っぽになるまで送っておくれ」
20000個×50と言うことは、一月に100万の魔力を消費する計算じゃ。
そんなに消費出来るのかと不安になり少し計算するも、おそらく大丈夫じゃろうという結論に達した。
「……本当にその条件で宜しいので?」
「他にも条件はある。
一つ、我が家の近くにある程度の広さのある小屋を設置し、そちらに魔石を運搬する事。
二つ、屑魔石の輸送の手間や送料はそちらが負担する事。
三つ、魔石を送る際は私の他の家族にばれないようにする事」
「ほ……他の家族と言いますと?」
「またまたあ、知っておるくせにい。
父が買い……そして私が売った魔石を仕入れた店はここじゃろう?」
私は呵呵大笑するとアコギの耳元で最後の条件を付け加える。
「四つ、ここでの魔石を売り買いは、テトロド・トキシン侯爵には内緒にする事」
アコギは一瞬悩んだ後、頷いた。
「ばれておりましたか……。
わかりました、アコギ商会の名誉に賭けまして必ず条件を守り抜くことを誓います」
ふむ、一本芯も通っておる様じゃのう。
「アコギよ、気に入ったぞ。
残りの金、2000万は貴様にやろう」
「……は?」
「存分に使い、アコギ商店の名をトキシン領に轟かすが良い」
「……いやいやいやいや!」
どうせ金の使い道もなく、アコギに全部やろうかと思ったが、それは出来ないとのことであった。
なんで謙虚なんじゃこいつ、名前は阿漕の癖に……と思っていたら、それだけの恩を一個人から買いたくないとのことであった。
それでは 無利子無期限無担保無催促で貸すと話をすると、大喜びで食いついてきおった。
無利子無期限無担保無催促って剛田主義の『永遠に借りる』と同義の言葉じゃ。
上げるのと違いがわからん。
やはり十分阿漕と言えよう。
小屋の建設は今月から、屑魔石の配送は来月からとして、とりあえず店の裏の物置にあると言う100個の屑魔石と、それを担ぐ3人の屈強な男を馬車に乗せて帰ることにした。
オーダーが訳が分からず肩身狭そうにしながら涙目になっていたのが可愛かった。