第129毒 猛毒姫、矛盾に気づく
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前回までのあらすじ
オーダー「私は他者依存型です。
他者愛型のバトラーさんと一緒にしないでください。
同じヤンデレでも、全然違います」
ボツリヌス「一緒じゃ」
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「バトラーさん、ボツリヌス様とのお話は終わりましたか?」
ずい、と、オーダーが私の隣に並んだ。
「え、なんですか?
オーダーさんと話すことは、特に無いと思いますが……」
オーダーの奴……なんだか、怒っておる様に見えるが。
「特にない、ですか。
……ふざけるなよ。
私とボツリヌス様の大事な絆の1つを、よくも破壊してくれたな?
……今すぐ謝れ!!」
その剣幕に、バトラーはしばらくぽかんとしておったが。
徐々にその顔色を、青ざめさせた。
「あ、あ、あああああああああああ!!
お、オーダーさん、申し訳ありません!
公爵様を助けるのに必死だったんです!
わざとでは無いんです!
こ、この通りです!!」
何かに気が付いたのか、ひざを折って深く頭を下げた。
もはや、土下座に近い恰好である。
「な、な、なんじゃ、何を怒っておるのじゃオーダーよ。
話が見えないぞ」
オーダーは私を見ると、呆れた様に溜息を吐いた。
「まだ気づかないんですか、ボツリヌス様?
ご自身の前歯を触って見てください」
「前歯?」
前歯と言えば、この前ぽきぽき折ったばかり。
今の私は歯抜け状態じゃ。
まあ、乳歯だから別に良いのじゃが……て、あれ?
「……歯が、生えておる……?」
いつの間に。
何かの、魔法なのか?
思い当たる物と言えば……バトラーがさっきピッグテヰル公爵に掛けていた魔法。
腹に書かれた魔法陣の光が当たったせいじゃろう。
豚公爵の毒状態を回復させ。
私の乳歯を再び生えさせる魔法。
ふむ。
そんな事が出来る物なんて。
時魔法を除けば、私の知る限り1つしか……。
……え?
おい、まさか。
「ひ……光魔法の魔法陣、なのか……!?」
オーダーが頷きながら、自分の手につけていた手袋を外すと。
……そこには、5本の指があった。
オーダーの千切れた指が……元に、戻っておった。
な、なんと。
やったじゃあないか、オーダーよ!
正直、少し後ろめたいところがあったからのう。
治ってくれて、本当に良かった。
……あれ?
じゃあなんで、オーダーの奴は怒っておるのじゃ?
「千切れた私の指。
それは、ボツリヌス様を助けるために命を懸けたと言う絆と。
そして、それでも届かなかったと言う戒めと。
その両方が込められた物だったのです。
それを、この女ァ。
事もあろうか、勝手に治しやがって……!!」
「すみません、すみません!
お二人の大事な絆を壊してしまい、本当に申し訳ありません!!」
本気切れして怒鳴り散らすオーダーに、平謝りするバトラー。
や〇ざの理論かな?
「あ、阿呆かオーダーよ!
手の指、じゃぞ?
治してくれて有難う御座います、じゃろうが!!」
私の発言に、オーダーだけでなくバトラーまで、頭に『?』を浮かべておる。
……あれ?
私の言っている事、何かおかしかったかのう?
何だか自分の方が間違っておる気がしてきた。
「仕方ありません……ボツリヌス様に免じて、今回は『貸し』にしてあげましょう。
次はありませんからね」
「……肝に銘じておきます。
『借り』ですね」
治療を施した方が『借り』を作る謎の形態。
2人の不可思議な共通常識でこの場は事無きを得た。
こんなにも何を考えておるのか分からない会話は、長い人生の中でも初めてじゃ。
言葉を変えよう。
病んでおる。
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バトラーに案内されて、各々の部屋へと移動した。
部屋のべっどに横になると、私は今までの情報を整理していく。
ピッグテヰル公爵は、今分かっているだけでも。
特殊魔法2種類の魔法陣化に成功しておる。
雷魔法と、光魔法の2種類じゃ。
最強の矛とも例えられる雷魔法と。
無敵の楯と言っても過言では無い光魔法。
……そして、魔法陣化成功と言う事は。
魔力さえあれば誰でも使えると言う事じゃ。
……。
冗談ではない。
世界征服が、可能じゃあないか。
あんまり治すつもりありませんでしたが、ノリでオーダーの指が戻りました。
ちなみに光魔法ならバトラーの入れ墨魔法陣も消去出来ます。
豚公爵との絆なので彼女は絶対そんな事しませんが。