第128毒 猛毒姫、直される
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前回までのあらすじ
豚毒。(豚を毒殺)
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バトラーは左手袋を外すと、手の甲を豚公爵へ向ける。
そこにも魔法陣---恐らく解毒魔法の魔法陣---が記されておるみたいじゃ。
解毒魔法も魔法陣化出来ているなど初耳じゃが、今更もう驚かぬ。
バトラーは魔法陣を光らせる……が。
「……なにこの毒……解毒魔法が……効かない!?」
……あれ?
テーラーのやつ、結構まじでやばい物を入れておったのか?
洒落になっておらぬのか?
……その割には、後ろでシャーデンフロイデは未だ爆笑をし続けておる。
バトラーは豚公爵に人工呼吸をしながら……服を脱いだ。
「「……!!」」
私とオーダーは息を飲む。
バトラーは。
……全身にびっしりと、魔法陣の入れ墨がしてあったのじゃ。
まるで耳無し芳一。
見たことの無い種類の物も、多数。
間違いなく、ピッグテヰル公爵に入れさせられた物じゃろう。
乙女の肌を、何だと思っておるのじゃ。
この豚、まじで屑野郎じゃの。
「……ああ、やっと分かりました。
私がバトラーさんを嫌いな理由が」
オーダーが何か言っておる。
「ん?
オーダーがバトラーを嫌っておるのは何となく知っておるが……。
以前ぼこぼこにされたからじゃあ無かったのか?」
「私もそう思っていましたが……どうやら違ったみたいです。
同族嫌悪、でした」
「ふむ?」
意味が分からぬが、まあ良い。
何故だか締まらない空気の中。
1人だけ本気版なバトラーは、腹にある一際大きい魔法陣を光らせる。
光は豚公爵は勿論の事、力の調整が付かないのか部屋全体に溢れ出した。
「ぶ……ぶひゅうう……」
おぉ。
豚公爵が、息を吹き返した。
解毒魔法でも対処出来なかった毒を、どうやって治したのかは不明じゃが。
とりあえず私は公爵毒殺の汚名を与えられる事は免れた。
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無事、豚公爵を現世に留まらせる事に成功したバトラーじゃが。
その後もきびきびと他のめいど達に指示を出して、ピッグテヰル公爵を寝室へと移動させる。
「さて、お嬢様。
これを」
一段落ついたのか、バトラーは私の元にやって来て、何かしらを手渡す。
「……こ、これは……先程のぺんだんと、ではないか!!」
何故じゃ。
猛毒姫……毒入りぺんだんとが無傷で帰ってきた。
完全に壊れたはずじゃぞ!?
いや、それよりも。
「私を責めぬのか?」
「ええ。
いろいろ突っ込みたい所はありますが……。
今回の件については、明らかに公爵様が悪いですからね……。
そのペンダントはお詫びです」
そう言うとバトラーは90度のお辞儀をする。
豚公爵の蘇生から尻拭いまで。
八面六臂の娘っ子じゃ。
きっと豚公爵の滅茶苦茶を、彼女が毎回ふぉろーしておるのじゃろう。
良い娘じゃ。
「バトラーよ……お主は本当に、ピッグテヰル公爵が好きなんじゃなあ」
「……ええ。
公爵様が、私の全てですし。
私の全ては、公爵様の物です。
公爵様がお亡くなりになれば、盛大にお葬式を開いた後、私も後を追います」
「そうか」
すぐに後を追わない所が彼女らしい。
……これが洗脳なのか、彼女の本心なのかは知らんが。
幸せならば、それで良いのかもしれん。
「……ところで、私が妻になって、良かったのか?」
「……正直、身が引き裂かれるほど辛いですが、仕方ありません。
私の身分では公爵様の妻になる事は出来ませんからね」
バトラーは苦笑いをして、正直に本音を吐露した。
成程。
妾でも、良いという事か。
いじらしい。
「私は、公爵様の苗床にして頂ければ、それで満足です」
バトラーは恋する少女の様に頬を赤らめ、笑いながら呟いた。
……なんか『めかけ』と“るび”の振られている漢字が、明らかにおかしいんじゃが。
……き、気のせいじゃろう。
「……やはり、同族……」
オーダーが厳しい目をして歯軋りしておる。
……なんの同族なんじゃ、なんの。
「……さて……シャーデンフロイデ。
大変いい笑顔でしたね」
「にゃっ!? 」
「覚悟は、良いですか?
良いですよね?
良くなくても関係ないですが」
「ま、待つにゃ、これには、悲しい擦れ違いが」
「死ね、駄猫」
次の瞬間、バトラーによる投げ技が炸裂した。
「ぎにゃ―――!!」
それは、頸椎破壊を目的とした、一本背負いもどき。
猫の首は、ぎゃぐ漫画も斯く哉、という絵面で地面に減り込んだ。
……完全に沈黙したシャーデンフロイデを一瞥した後。
「……さて。 それではお嬢様方。
もうしばらくしたら、夕食の準備が出来ますので。
その前に、お部屋に案内させて頂きましょう」
バトラーは再度、慇懃に礼をした。
彼女の後ろには、猫耳娘が犬神家を思わせる前衛的な格好をしておる。
……死んでおらんよな、シャーデンフロイデよ……。
バトラーは下ネタ要員。
しかし豚が入ると下ネタが増えていけないね(嬉々と)