第124毒 猛毒姫、豚公爵領へ着く
師走は忙しすぎるのですよ。
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前回までのあらすじ
意味怖。
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私を乗せた馬車は、ピッグテヰル公爵領へ向かって順調に飛ばしていた。
周りの景色を見てみると、馬車とは思えない速度が出ておるようじゃ。
以前予想した通り、何かしらの魔法を使っておるのかもしれんのう。
「今日の夜には、お屋敷に着く予定ですからね」
「なんと、たった半日で着くのか!」
「公爵様の作られた、特別仕様の馬車ですから!」
公爵を褒められたのが嬉しいのか。
バトラーは手綱を握りながら、可愛らしく胸を張っておる。
「清々しい程の俎板じゃのう」
「……有難う御座います?
……清々しい程の……ナニ板と読むんですか?」
「俎板じゃ」
しまった、思わずぽろりと漏らしてしまった。
「にゃはははははは!
やーいやーい俎板女!」
猫耳娘が大喜びで爆笑しておる。
この猫、人の不幸が嬉しいらしい。
それにしても、手綱を握って手を出せないのを良い事に、シャーデンフロイデはバトラーを煽り続ける。
「『有難う御座います』キリッ
だってにゃwww
ワケが分からないにゃwww」
「……こンの、腐れ駄猫が!!」
バトラーは手綱を投げ捨てると、シャーデンフロイデに向かって飛び掛かった。
ちょ。
「ちょ、ちょっと待つにゃ!
手綱を、手綱を放っておいちゃだめにゃ!」
まうんとぽじしょんでぼこられながら、猫娘は悲鳴を上げる。
御者の役目を放棄したバトラー。
それは即ち、どらいばーのいない暴走とらっくと似たような物じゃ。
「ば、バトラーよ!
怒りは最もじゃが、どうか落ち着いて、再度手綱を握っておくれ!」
「大丈夫です、お嬢様。
既に、頼んでおきましたから」
「た、頼んでおいた!?
ど、どういう意味じゃ?
この馬車の中には、私たち3人以外には誰もおらぬのだぞ!?」
ぴしり!
手綱を打つ音が聞こえた。
前へ目をやると。
良く見慣れた、黒髪の少女が、馬車を運転しておった。
お。
う。
あ。
え?
「ぶ、ぶ、ぶぶぶぶ、ぶぶっぶぶぶぶぶぶぶっぶぶbっぶぶぶb、ブギーマンだにゃーーーーーー!!」
シャーデンフロイデが泡を吹いておる。
「あ、有難う御座います。
代わりますよ」
バトラーが笑顔で再度、運転を交代する。
「ええ、後はお願いします……さて、ボツリヌス様、お久しぶりですね」
笑顔のぶぎーまんが、手をわきわきとさせて、近づいてくる。
「公爵領にたどり着くまで待っているつもりでしたが。
もう、先にやっておきますね」
「な、何を『先にやっておく』つもりじゃ!?」
予想はついておるが、一縷の望みを託して聞いてみた。
「4回転の、5セットです」
こ、此奴、世界を狙うつもりか!
「話せば分かる!」
「問答無用」
次の瞬間、私は人間走馬灯になった。
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オーダーの『OSHIOKI』を目の当たりにして、シャーデンフロイデはがたがた震えながら失神した。
「いててて……ひどい目にあった。
上手く行ったから良かったものの。
失敗したら、どうするつもりだったんじゃ……」
「失敗から学んで、次に生かす予定でした」
「失敗って、私の死じゃぞ!?」
まあ、オーダーの怒りも分かるには分かるので、それ以上は何も言わない事にする。
「それにしても、いつの間に馬車に乗ったんじゃ……」
「『馬車全体が、ごとんと揺れた』時です。
『馬車がぎぎぎと軋』んだのは、『重たい空気のせい』じゃなくて、私のせいです。
ちなみに雷魔法の御者さんには、その時点でバレてました」
「成程、後で『第120毒 猛毒姫、センチメンタる』を確認しておくことにしよう」
『意味が解ると怖い話』じゃあないか。
「……しかし、オーダーよ……。
お主が屋敷についてくるとなると。
ピッグテヰル公爵に食われかねんぞ……のくたーん的な意味で」
「もう既に指も何本かありませんしね。
今さら●の1枚や2枚、なんでもありませんよ」
オーダーよ。
あんまり過激な発言はしないでおくれ。
ゆにこーんさんとかに怒られるぞ。
「まあでも、ボツリヌス様が私を連れて行きたくない理由は多分それだと分かっていましたからね。
一応、対策は練ってきましたよ」
「ふむ、対策?」
どんな対策なんじゃ、と聞こうとする私であったが。
「ん、え、あれ?
今の、なんじゃ?」
馬車の窓から一瞬見えた景色に、その意識を全て奪われた。
「あ、お嬢様方は初めて見られるかもしれませんね。
あれは、偉大なるセルライト・ピッグテヰル公爵様の発明品。
夜陽灯です!」
恐らくトキシン公爵領へと入ったのじゃろう。
今、走っておるのは、美しく整えられた、こんくりーとの道路を思わせる1本道。
そして、既に夕方に差し掛かった薄暗がりを照らす、道路の両脇を等間隔に備え付けられた明かり。
バトラーの語る夜陽灯は。
どうみても。
……道路の照明灯、であった。
イズマエル様、感想欄のネタ、有り難うございました!
……あ、短編書きました。
チビで泣き虫のサンタさんが頑張るお話(祝・初の童話!)
http://ncode.syosetu.com/n9135cz/
本当は『サンタ無双~クリスマス中止のお知らせ~』を書く予定だったのですが、『冬童話』の企画という甘い言葉にやられました。