第123毒 閑話 オーダー、出会って、別れる。
※ 途中まで季節は、夏秋冬春の順で場面変更 ※
「投票で上位?
そっかそっか、良かったじゃん」
「なんか挨拶しろって?
いやだよ面倒臭ぇ。
今、氷魔法の練習に忙しいんだ」
「自己紹介?
オーダーだよ、オーダー。
本名は秘密だ。
ほら、もうあっち行ってろよ。
五月蝿いのに見つかっちまうだろ」
『うふふふ……見つけたぞ、オーダーちゃん!』
「うわ。
マジで見つかった」
『何してるの?
氷魔法の練習?』
「うぜえ。
見りゃあ分かるだろ。
って言うか良く見つけられたな。
離れの奥だぞ」
『だってほら、私達似た者同士だし。
磁石の様に引き合う運命なのよ!』
「同じ極の磁石扱いかよ。
引き合わない運命だな」
『あーあ、それにしても涼しいわココ。
ほら、私の事は良いから、その涼しい氷魔法の練習を続けて!
早く!!』
「避暑だ!
絶対避暑に来ただけだろコイツ!」
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『うふふふ……見つけたぞ、オーダーちゃん!』
「うわ。
また現れやがった」
『どうしたの、落ち葉なんか集めて。
まるで真面目に庭掃除するメイドじゃない!』
「真面目に庭掃除するメイドなんだよ」
『そんな、殊勝な!!』
「何だ、ケンカ売ってんのかコイツ」
『そんな頑張っているオーダーちゃんに、じゃじゃーん、ご褒美!』
「……お……サツマイモじゃねえか。
それも、いくつも用意しちゃって、まあ」
『これを、ほら、この落ち葉で、焼くとぉぉ?』
「おお……良いね。
そういうの好きだぜ?」
「……ところで、火を起こす道具は、あるんだろうな?」
『……あっ』
「え……」
『……』
「……」
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『うふふふ……見つけたぞ、オーダーちゃん!』
「うわ。
寒いからドア閉めてくれ」
『ガラガラガラガラ……どーーーーん!!』
「いったん閉めるふりをして、扉を全開にするな!!」
『それにしても、炬燵被りなんて、オーダーちゃんらしくないよ』
「私らしいって、なんだ?
っていうか、おいおい、勝手に私の炬燵の中入って来るな。
待て、最後のミカンを食べるな!!」
『ほら、イメージして。
一面白銀の世界。
慎ましく照らす太陽。
そして、全裸で走り回る、オーダーちゃんを……!』
「途中までイメージしちゃったよ!」
『そしてオーダーちゃんの隣を走り回るのはモチロン……』
「モチロン?」
『イ・ヌーーー!』
「そこはお前じゃ無いのかよ!」
『私は炬燵の中!
そう。
2人は、引き合わない運命!!』
「ここで磁石!?」
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『うふふふ……見つけたぞ、オーダーちゃん!』
「ああ。
ようこそ、おいで下さい……ました」
『……え。
なに、その他人行儀』
「いや、なんか周りが敬語を使えって五月蝿いんだ……ですよ」
『お願い、やめて。
不愉快』
「え、お、おう」
『……』
「……」
『ねえ、オーダーちゃん。
オーダーちゃんには、何か、願いってある?』
「……願い?」
『うん。
頭が良くなりたいとか、魔力がもっと欲しいとか、長生きしたいとか!』
「願い、ねえ。
……あるにはあるが……笑うなよ?」
『うん?』
「私は、愛が、知りたい」
『……は?』
「……ほら、やっぱり変な顔してる」
『え、ううん。
理由が、知りたくて』
「……。
私には家族がいたんだ。
お父さんと、お母さんと、お兄ちゃん。
みんな私の目の前で殺された。
最期の言葉も、覚えている」
『……』
「お父さんの言葉は、『お前たちを守れなくて、すまない』だった。
私は、お父さんの無念を晴らすために、強くなった」
『……』
「お兄ちゃんの言葉は、『俺たちの分まで生きてくれ』だった。
私は、お兄ちゃんの無念を晴らすため、今も生きている」
『……』
「お母さんの言葉は、『みんな、愛してるわ』だった。
私は、お母さんの無念も晴らしたいけど。
家族が誰もいないこの状態で。
一体何をすればいいのか、全然分からなくて」
『……そか。
でも、その望みは叶えられないなあ。
だって愛は、与えられる物じゃなくて、見つける物だから』
「……なんだよ。
まるで、人の願いが叶えられるみたいな言い草だなあ」
『よし、じゃあこうしよう!
『貴女が愛する人を守りたいと強く願った時、貴女には無限の力が湧き出てくる』
って言うのは。
ねえ、どうかな?』
「ん、お、おう。
な、何を言ってるのか分からんが、良いんじゃないか」
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『うふふふ……見つけたぞ、オーダーちゃん!』
「奥様、お体に障りますよ。
今、椅子を用意しますね」
『うん、有難う。
……その敬語、止めてくれないかなあ』
「無理ですね。
これは、生まれつきなので」
『嘘だ! めっちゃタメ口だったくせに!』
「……お腹、大分大きくなりましたね。
そろそろ、ですか?」
『……うん。
多分、9月の頭くらいになるんじゃないかな』
「トキシン侯爵に、似ないと良いですね」
『……敬語になった分、毒舌になったんじゃない?』
「いえ、生まれつきです」
『生まれつき毒舌!?』
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『うふふふ……見つけたぞ、オーダーちゃん!』
「もう、動き回って大丈夫なんですか?」
『多少はね。
ほら、見て見て!』
『おんぎゃー』
「猿み……可愛いですね。
お人形さんみたいです」
『猿みたい!』
「お前が言うのかよ!」
『……あ』
「……あ」
『ふふふ……』
「……」
『おんぎゃー』
「あ、今『オーダー』っていったわ、この子!」
「言ってません。
オンギャーです」
『ほら、ボツリヌス―。
この人がママですよー?』
「謎の刷り込みをしないでください!
赤ん坊も信じてこっちを見てるじゃないですか!」
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『……』
「……あぁ。
やっと見つけました」
『……』
「あちこち探しましたよ。
こんなところにいたんですね」
『……』
「トキシン家から外されたと言うので、前の姓に戻ったと思っていたのに。
実家からも絶縁されていたんですね。
まさか、苗字が無くなっているなんて思いませんでしたよ」
『……』
「全く、勘弁してくださいよ。
こんな冬の真っ只中に」
「お墓参りに来る、こっちの身にもなって下さい、ガラクトース様」
『……』
「……無縁仏のお墓、ですか」
『……』
「今年の冬も、寒いですねえ」
『……』
「……」
「何も、殺す事、ないじゃねぇか」
『……』
「……」
『おんぎゃー』
「うお、ボツリヌス様、うんちですか!?
背中が、温かい!」
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『ぬふふふ……見つけたぞ、オーダーよ!』
「……。
ああ。
おや、見つかってしまいましたか」
『……む、何じゃ。
ぼーっと私を見て』
「え?
えーっと。
あ……、いやー。
ボツリヌス様は、猿み……、お人形さんみたいだなーって」
『今、猿みたいと言おうとしたな !? 』
「いえいえ、昔、サルミタイという偉人がいてですね。
彼女の様だ、と言いたかったんです」
『サルミタイみたい、と言いたかった、と?
それで、そのサルミタイはどんな偉業を成し遂げたんじゃ』
「いえ、顔が猿みたいなだけの人でした」
『もう、何が何だか !? 』
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『それでは、小屋の方も、いろいろ片づけをせんといかんからのう。
済まんが行ってくるぞ、オーダーよ』
「誕生会の時間には、 絶・対!
遅れないでくださいよ」
『わ、分かっておる』
『……今考えると、屋敷の皆に世話になったのう』
「……そうですねえ」
『皆、良い奴じゃったのう』
「……うーん……そうです……ねえ……?」
『まあでも、こんなに楽しく日々を過ごせたのは、オーダーのお陰じゃ』
「……」
『オーダーが掛けてくれた回復魔法の温かさも。
私を守らんとする大きな背中も。
たまにお痛が過ぎた時に行う首の捻じ切り加減ですら』
「……」
『すべてが私にとってかけがえの無い物じゃったよ。
オーダーがいてくれて、本当に良かったと思っておる』
「……」
『むむ、いかんな。
まるで、別れの挨拶じゃあないか。
こ、これからも、よろしく頼むぞ……!』
「なんだかセンチメンタルになっちゃいますねぇ。
……それじゃあ、行ってらっしゃい、猛毒姫」
『行ってくるぞ、オーダーよ』
「#######################################
……結局、誕生会の時間になっても、ボツリヌス様は帰ってきませんでした。
帰ってきたらOSIOKIが必要ですね、なんて。
その時の私は、そんな事を考えていました。
美味しそうな御馳走を前に、トキシン家の面々やメイド達がソワソワしていると。
……何故か壇上に、ニコチン侯爵が現れました。
『……皆には、大変申し訳ないが。
ボツリヌスから、手紙を預かっている』
……は?
『読みあげるぞ。
……私の誕生日を祝ってくれて、大変有難う。
残念ながら、私はその場にいる事が出来ぬ。
私がピッグテヰル家に嫁ぐとの情報が回って。
私に付いて行きたいと仄めかしているめいどが数人いるらしいからのう。
済まんが、先に旅立たせて貰った』
頭が、殴られるような、衝撃。
え、だって、だって。
さっきまで、一緒に、ピッグテヰル公爵家に行こうって言ってましたよね?
これからも、よろしく頼むって。
……ボツリヌス様は、そう、おっしゃっていたじゃないですか。
辺りからはすすり泣く声が聞こえます。
マーなどは周りも憚らず、大泣きしていました。
ニコチン侯爵が手紙を読み終わるより先に、私はボツリヌス様の部屋へ走り出しました。
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部屋の扉を開けると。
いつか作った人形が、ドヤ顔でベッドに横になっています。
『な、なあんだ、ボツリヌス様、いらっしゃるじゃないですか』
返事が返ってくるはずもないのに、私は一縷の希望を込めて、彼女に声を掛けました。
『ほら、あんなドッキリ手紙までニコチン侯爵様に読ませちゃうなんて。
誕生日、始まってますよ』
返事は、ありません。
『ほら、行きましょう。
皆怒ると思いますけど、大丈夫。
私も一緒に謝ってあげますから』
後半は、声にもならない涙声。
布団を取ると。
そこにあるのは。
やっぱり只の、人形で。
隣には、私宛の手紙が置いてありました。
『……なんで?
……なんでなんでなんで……』
手紙の封を開けようとしても、涙で滲んで開けられません。
無理矢理引き千切って、中身を見ても。
やっぱり滲んで、何も読めません。
『ぐ、ぐ、ぐううううう……ッ!!』
私はそのまま、読めそうもない手紙を見つめながら、いつまでも涙を零していました。
……なぁんて結末がお望みでしょう?
バカ姫様。
残念ですが、私は、御免です」
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オーダーは、声も出さずに呵々大笑すると。
ボツリヌス様を乗せた馬車の天井に、ゴトン、と飛び乗った。
気が付いたのは、バトラーだけ。
豚公爵領へたどり着くまで、後1日。
そして。
ボツリヌス様の首が大回転するまで、後1日。
『行ってくるぞ、オーダーよ』
以下からはオーダーちゃんの独り言。
『###』は『シャープシャープシャープ!』と発音しています。
今回の副主人公、ガラクトース・グロテスク様のお話は以下にありますよ。
『トキ様のパーフェクト悪役令嬢教室』
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