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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
魔族侵攻編
123/205

第122毒 閑話 マー、猛毒姫に会う

今回こそ、ちゃんとシリアス回。

うう、超絶難産でした。

オーダーは、更に難産な予感。

 あわわわ!

 た、たくさんの、投票、有難うございました!


 な、なんだか、今回は、私が主人公みたいです。

 ごめんなさい!

 えっと、飛ばしても、良いですよ?



 あ、と、ところで、皆さんは、神様って信じますか?



 神様っていうと、アレです。

 天の高いところにいて、私たちを見守って下さり。

 辛い時には助けて下さると言う存在ですね。



 私は、最近まで、信じていました。


 ……そう言えば、自己紹介がまだでしたね。

 私はマーと言います。

 トキシン侯爵領で働く、どこにでもいる普通のメイドです。


 もともとはストリー王国の南端の、とっても貧乏な村で生まれました。

 家族構成はお父さんにお母さん、長女が私で、弟と妹が4人ずつ。

 大家族ですね。


 当然いつもお金が無くて、ご飯も1日1食あれば良い方です。

 弟妹達は育ち盛りなのに、ちゃんとご飯が食べられないのはいけません。

 私とお母さんは、自分たちの分も下の子たちにあげたりしてました。


 ……お陰で、私自身の身長は未だに小さいまんまですが。

 でも、この小ささは、私の誇りです!


 家族みんなで、神様にお祈りをしたのも、良い思い出です。

 私達の家では、多くのサーモン王国国民が信奉している、ヘンシュウと言う神様を祭っていました。

 ペンギン皇国が国教としている神様ですね。

 ヘンシュウ様は、実は数千年前にこの世界に顕現されたことがあります。

 その時は、魔族を撃退したり、龍を倒したり、王様に説教したり。

 ちょっとした、英雄譚ですね。

 日雇いでお金を稼ぐ私達とは、全然違います。


 そうそう、私も家計の手伝いにと、色々と頑張っていたんですよ!

 私には歌という特技があって、どこでも上手に物乞いが出来たので。

 畑仕事の合間に、ちょっとしたお金を作ってました。


 そうやって、家族みんなで助け合って生きていました。

 とても、幸せでした。





 ある日、私は売られました。





 何でも私には『歌姫』とか言う特殊なスキルがあるそうで。

 私を売れば、他の家族が飢えないだけのお金が手に入る、との事です。


 うん。


 だったら、我慢です。

 大丈夫。


 奴隷商の方も、とても優しい人でした。

 『スキル持ちの奴隷は、売られた先で酷い事をされない事もある』とおっしゃって下さいました。

 綺麗な服を着せられて、ちょっとお姫様気分です。

 ……首輪は付けられましたが。


 こうして売られた先が、トキシン侯爵領だったのです。


 来てすぐの時は大変でした。

 何故だか、私は、声が出なくなっていたのです。

 お医者様は「売られたことによるストレス」と言っていましたが、そうなんでしょうか。

 頭では我慢出来てても、体に出てしまったんですかね。

 私を買ってくれたトキシン侯爵様は、それはもう激怒されて、何度も私を殴ったり蹴ったり。

 でも、お叱りが終わる頃には、長女(セレン)様がいつもいらっしゃって、回復魔法を掛けて下さいました。


 #######################################


 ある日とうとうトキシン侯爵様が、私を捨てると言い出しました。

 このまま、着の身着のまま捨てられるのでしょうか?

 それとも、今度はスキルも無いただの奴隷として、また売りに出されるのでしょうか?

 体中から血の気が引くのが分かります。

 ボロボロと涙を零しながら、侯爵様の足に、その慈悲に縋る事しか出来ません。

 そこに。

 ……セレン様が現れたのです。


「捨てるなら、貰います」


 侯爵様の了承を貰ったセレン様は、その場で奴隷の首輪を外してくださいました。


「うん。

 これからは、奴隷で無くて良いし、歌えなくて良いからね」


 優しく撫でて下さるセレン様の前で、久しぶりに声を出して(・・・・・)泣いたのを、恥ずかしながら覚えています。


 #######################################


 侯爵家には、いくつかのタブーが存在しました。


 例えば、侯爵様の領地経営に対する批判です。

 学の無い私でも、「これで良いのか」と思う事がありましたが、実際それを指摘すると、最悪、死ぬ事になります。

 当たり前ですね。


 例えば、奥様がいらっしゃらない事について、です。

 侯爵様は、3人の奥様に逃げられ、4人目の奥様に至っては処刑されております。

 こんな事、恐ろしくて話題にする気にはなれません。


 そして、例えば……。


 ふと、離れの廊下を元気にテテテと走る少女が目に移ります。

 真っ赤な髪に、金色の目、今日は赤地に白い水玉の毒々しいお洋服。

 小さいけど、存在感バツグンです。


「おー!

 マー坊よ!」


 少女は、私を見つけると嬉しそうにニパと笑って走り寄ってきます。

 とても可愛いらしいです。

 彼女もまた、トキシン家のタブー。



 ボツリヌス・トキシン。



 少女はニコニコしながら私に話しかけます。

 ……弟妹を思い出させるような慕いっぷり……自分で言うのもなんですが。

 私は慌てながら彼女を無視しようとしますが。


「今日は元気かのう?」

「マー坊は長くて美しい髪じゃのう」

「おや、声も可愛いじゃあないか」

「我は救世主(めしあ)、明日この世界を粛清する」


 今日もワケの分からない事をマシンガンの様に話し続けています。


「す、すみません、失礼します!」


 私はそういうと成るべく深くお辞儀をして、立ち去るのでした。


 うう、いつもの事ではありますが。

 あんなに懐いてくる子どもを無視するなんて。

 精神衛生上、良くないです……。

 とっても、キツい……。


 #######################################


 先輩のメイドさんに聞くと、彼女は侯爵家で忌み嫌われる存在ということでした。


 膨大な魔力量を遺伝させる侯爵家の家系において。

 魔力量が、たった10しかない少女。


 親しくなったら、侯爵様に何をされるか分からない。


「アレは、阿片みたいな物だと思いなさい」


「阿片……ですか?」


「確かに彼女はとても可愛らしいし、思わず助けてあげたくなりますが……。


 一度手を出すと(・・・・・・・)地獄に落ちるまで(・・・・・・・・)抜けられません(・・・・・・・)

 ……貴女は、彼女と共に、放逐されたいですか?」


 私は慌てて首を振ります。


 成程、つまりそう言う存在、だったんですね。


 魔力量が低すぎて、侯爵様に見限られた存在。

 ふむふむ、と考えます。


 ……そして。



「あ……それって、私と同じだ」



 ……誰もいないのに、思わず声に出ました。


 『歌姫』のスキルを期待されて買われた奴隷で、声が出なくなったから捨てられかけた自分。 莫大な魔力量を期待されて、魔力が無いから捨てられようとしている彼女。


 どちらも役立たずで、不要な存在。

 でも、セレン様は言ってくださいました。

 そんな物、無くたって、良いって。

 スキルも使えない私を、肯定してくれました。



 目にじわじわと、涙が集まってきました。

 いけません、いけません。

 私は自分の両頬をパシンと叩きます。


 

 阿片でも、構わないじゃないですか。


 セレン様が私にしてくれた様に。

 ボツリヌス様の話相手には、私がなりましょう!

 心の中で、強く決心します。


 ……メイドの先輩も怖いので、こっそりと、ですが。



 ######################################


 ある日。

 ボツリヌス様がメイドの失敗を庇うために、牢屋に入れられる、という事件が起こりました。


 その頃にはボツリヌス様とちょっとした会話をする位になっていた私ですが。

 それでも、こんなことを思っていました。


「絶食なんて、3日もてば、良い方だろう」


 ……と。



 実際、多くのメイドも思っていたでしょう。


 ボツリヌス様は、非を犯したメイドを庇ってくれはしたけれど。

 それは、捨てられた小犬にご飯を上げたりする憐憫の情に近い感覚だろうと。

 流石に自分自身に危険が及んだら、一も二も無く撤回するであろうと。


 そして、いずれ一族郎党皆殺しにされるとして、誰も彼もがテーラーさんに同情的でした。



 1週間が経ちました。


 2週間が経ちました。



 誰からともなく。

 まるでボツリヌス様の気持ちを知りたいかのように。

 メイド達は食事を取らなくなり。

 そして。

 我慢できなくなって、涙を流してご飯を食べていました。


 私も絶食をしましたが、5日も持ちませんでした。


 多分この期間に、館のメイド達は、ほとんど全員、絶食を経験したのではないでしょうか。

 そして、皆、1週間も持たずにギブアップしたのではないでしょうか。



 ボツリヌス様は。

 たった、5歳児の、ボツリヌス様は。

 結局、それから20日間。

 ご飯を食べなかったのです。



 メイドの誰かが言いました。


「彼女はきっと、我らが神、ヘンシュウ様の御使いに違いない」


 ……と。


 確かに、たかが光魔法が使えるだけで御使い呼ばわりされる皇国の『聖女様』よりも。

 彼女はずっと、『聖女様』でした。

 誰からともなく始まった『大聖女』の呼び名は。

 まるで阿片が街中で大量にばらまかれるかの様に、トキシン侯爵家のメイド達にあっという間に広まったのです。



 ########################################


 ある日、大聖女(ボツリヌス)様が攫われて。

 そして、帰ってきました。


 彼女のお土産話は、とても面白い物で。

 相変わらず、あっちこっちで命を懸けて人を救って。

 あっちこっちで命を懸けてプライドを守って。

 あっちこっちで命を懸けてたくさんの笑顔を産んでいたそうです。


 どこまでが嘘で、どこまでが本当なのか分からなかったけれども。

 話を聞いたメイドは皆、大聖女(ボツリヌス)様ならやるだろうと爆笑していました。


 神の御使いらしからぬ、彼女の冒険譚。


 私は大聖女(ボツリヌス)様の話をワクワク聞きながら。

 少しだけ、心に引っかかっていたのを覚えています。



 ########################################


 トキシン侯爵領が、魔族に侵攻されました。

 そして、セレン様は……恐らく、亡くなられた、と……。

 青い顔をしていた私ですが、驚くほどスッと気持ちを切り替える事が出来ました。

 私は、こう言った時の為に侯爵様に買われたといっても過言ではありません。

 『歌姫』のスキルを十全に生かしなさい。

 きっとセレン様なら、そうおっしゃっていたと思います。


 通常、回復や強化を行うため、最後陣には一定数の魔法使いを置くはずですが。

 圧倒的な人材不足で、私は1人でその役目を担う事になりました。

 責任の重さに、身が震える思いですが。

 私が、頑張らないと、皆が死ぬんです。




 ……ヘンシュウ様、どうか、ご加護を。





 突然私は、訳の分からない世界に移動させられました。

 見渡す限りの白い世界。



「あらぁ、大きな精神体じゃない。

 見た目では、精神力が強そうには見えないのにね」



 声のする方を振り返ると、私の身の丈5倍はある真っ黒い巨大な壁が、うねっていました。

 黒い壁はところどころに金粉をまぶした様に光っており。

 それはまるで、夜空に浮かぶ星屑。



 ああ。

 これ(・・)悪夢みたい(・・・・・)



「それじゃあ、いっただきまーす♪」



 その悪夢は、私をあっと言う間に包み込みます。

 声を上げる暇もありません。

 意識ごと完全に奪われて……。




 ――……ボツリヌス様に(・・・・・・・)三跪九叩頭(・・・・・)!――




 どこからか聞こえてきたその声に、私は反応しました。



 ああ、そうでした。

 そうです。

 私はこんな所で意識を手放してはいけません!




 悪夢に飲み込まれた自分の体を改めて見てみると。


 ……全身があらぬ方向に曲がっていました。



「あ、あ、あああああああああああ!」



 痛い痛い痛い痛い!



「あーあ、意識を手放していれば、楽だったのにねぇ。

 ほら、また落ちちゃいなさい!」



 真っ黒い壁が、寝ると楽になると誘惑します。

 私の頭が、激しい痛みで負けそうになります。

 でも、こんなもの……大聖女(ボツリヌス)様が受けてきた苦しみに比べたら、屁でもありません……!



「それそれそれ~♪」



 黒い壁が、体に圧力をかけてきます。

 全身から、ボキボキと音が聞こえます。



「ぎぎぎぎい……ま、ま、負けない、もん……!」



 痛みで涙がいくらでもボロボロ零れてきました。

 でも。

 負けません。

 こんな所で負けていたら。


 大聖女(ボツリヌス)様に、顔向けできません!



 #####################################


 気が付いた時には、戦いは終わっていました。


 後から聞いた話から想像すると。

 私がやられた黒い壁の正体は、魔貴族による精神体への攻撃だったようです。

 洗脳を受けた私は、最初こそ自陣へ妨害攻撃を行ったみたいですが。

 後半は、延々と三跪九叩頭をしていたそうです。


 そして。

 魔貴族は、大聖女(ボツリヌス)様が、倒したとのことでした。



「なんだか、小さな蟻がやってきての」



 踏み潰してやったわ、と彼女は呵呵大笑してました。


 精神体の大きさは精神力の大きさと、真っ黒い壁は言ってましたが。

 ……大聖女(ボツリヌス)様の精神力は、どうなってるんでしょうか。



 ふと、周りを見渡すと、メイド長が熱弁を振るっています。



「ボツリヌス様は、神様だったんだよ!!」


「「「な、なんだってー!?」」」



 ……なに言ってるんだろう、この人達。

 何となく、メイド長の話を聞き流していますと。

 ふと、気づいた事がありました。


 私は大聖女(ボツリヌス)様を、ヘンシュウ様が使わせて下さった方だと思っていました。

 でも、それは多分、違います。

 ヘンシュウ様の御使いは、皆、特別な力を授かって降臨されます。

 でも、大聖女(ボツリヌス)様は、何も特別な力を持っていないんです。




 そして、唐突に思い付きました。


 ヘンシュウ様は。


 もしかして、ただの人間だったの(・・・・・・・・・)ではないか(・・・・・)、と。



 その昔。

 とても強くて、とても魅力的な人がいて。

 その人を特別だと感じるたくさんの人たちが、宗教にしてしまったのではないか、と。


 とても罪深い考えだと、大いに反省をしながらも。

 その考えは、私の深いところに、ストンと収まったのです。


 ふと、ボツリヌス様へと視線を移します。



 きっと彼女は、これからも。

 相変わらず、あっちこっちで命を懸けて人を救って。

 あっちこっちで命を懸けてプライドを守って。

 あっちこっちで命を懸けてたくさんの笑顔を産んで。


 そして、いつの日か、あっけなく命を落とすのでしょうか。

 ボツリヌス様は、何も特別じゃない。

 むしろ、ステータス的には、誰よりも弱い存在なのですから。



 そして、私は。

 力を持ったヘンシュウ様よりも。

 力を持たずに人々を救うボツリヌス様の方が魅力的だと、思いました。

 思って、しまいました。


 私を助けてくれる強い神様よりも。

 私が助けたくなる弱い神様。


 それにしても。


「うう……まさか、改宗するハメになるとは……」



 いつか、メイドの先輩の言っていた事を思い出します。


 彼女は、阿片みたいな物であると。



 一度手を出すと(・・・・・・・)地獄に落ちるまで(・・・・・・・・)抜けられない(・・・・・・)、と。



 いつの間にか、すっかり阿片中毒者になってしまっていた様です。

 でも、私は悪くありません。

 阿片が(・・・)魅力的なのがいけない(・・・・・・・・・・)のです(・・・)


 私は自分の考えを再確認した後。

 ……(ボツリヌス)様をモフるために、ゆっくりと立ち上がりました。

マソソソ・マソソソも言ってました。

「俺はドラッグが嫌いだけど、ドラッグは俺が好きなんだ」って。


はい。

ドラッグ、ダメ、絶対!

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