第119毒 猛毒姫、6歳になる
2~3話くらいシリアスです。
あと、活動報告で人気投票を行っております。
よろしければ是非。
今のところ
1ダブルピース
2マー
3テーラー
です。
ミスリードを誘う文章。
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前回までのあらすじ
孔明「以豚制豚(豚を以って豚を制す)。
これぞ三十六計の一つ、三豚の計よ!」
ジャァーン! ジャァーン!
ボツリヌス「げぇ! 孔明!」
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「うーん……朝か……」
私はむにゃむにゃ呟きながら、もそもそとべっどから起き上がる。
あれから季節は過ぎて、いつの間にか夏の暑さも落ち着いてきた。
最近は急に冷え込む日もあったりと気温が安定せず、昨日は毛布を2枚被って寝たのじゃが。
寝ぼけ眼を擦りながら起きると、体中汗に塗れておった。
「ふむ……流石に毛布2枚には時期が早かったか……。
じゃが風邪をひくわけにもいかぬしのう」
私は溜息を吐いて寝床から這い出る。
窓を開けると何処からかつくつくぼーしの鳴き声が聞こえてきた。
私にはこの鳴き声が、ドーデモイーヨ、ドーデモイーヨと聞こえるんじゃが。
どうか。
残暑も残る9月9日。
天気は快晴、空は何処までも高い。
夏と秋を合わせたような日じゃった。
うむ。
今日は私の、6歳の誕生日じゃ。
私は自分の布団をくるくると巻く。
海苔巻きの様に細長くなった其れの先っぽに赤い髪の鬘を被せる。
まじっくペンで目と口を書く。
「最後に……ボツリヌス・トキシン、と」
きゅ、きゅーっと胴体に名前を書いてボツリヌス・トキシン人形が完成した。
いつか、オーダーに馬鹿にされた人形であるが。
今回は、これで終わらぬ。
このボツリヌス・トキシン人形をべっどの上に載せて。
そしてその上から、布団を掛ける。
「完璧じゃ。
何処をどう見ても、私にしか見えぬ」
そこには、まるで眠っている私の様なボツリヌス・トキシン人形がおった。
「お、そうじゃそうじゃ」
昨日書いた、各々に宛てた手紙の束を、布団の中に隠しておく。
完成じゃ。
……これを一番最初に見つけるのは誰じゃろうか。
まあ、大体予想は付いておるが。
恐らくむせび泣くであろう彼女を想像すると、心が痛む……。
私は一連の仕事に満足すると、服を着替えて廊下の外へと飛び出した。
……と、そこには。
「あ、ボツリヌス様。
おはようございます」
オーダーがおった。
「お早う、オーダーよ……ところで、発つのは今日の夜じゃが。
準備はおっけーじゃろうな?」
「……はい、荷造りもばっちりです。
ボツリヌス様も、オッケーですか?」
「勿論ばっちしじゃ」
私とオーダーは周りに気付かれ無い様にひそひそと会話する。
ピッグテヰル公爵には、誕生日から1週間後に嫁入りする事で調整しておったのじゃが。
館のめいど達にも、その噂が回った様で。
マー坊や、あまつさえハンドめいど長までが「自分も一緒に付いて行く」などと言い出した。
ピッグテヰル公爵領に行っても、何の得も無いばかりか。
大事な物を無くすだけ、と言う可能性の方が高い。
分かっておる。
貞操より、私の方が大事、という連中ばっかりなのは、分かっておるが。
すまぬが、私が嫌なのじゃ。
と言う訳で、出発の日にちを秘密裏にずらす事にした。
マー坊達には誕生日から1週間後という事にしてあるが。
実際にオーダーと相談している出発時刻は、誕生日の当日深夜。
すなわち、今日の夜である。
「という訳で本日は、勘付かれ無い様に、屋敷の皆とお別れをする予定じゃ。
一緒に、来てくれるか?」
「ええ、勿論!」
私はオーダーを伴って、廊下を歩き始めた。
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離れの裏庭を見てみると、わーきゃー兄妹がわーきゃーしておった。
「あ、聖女様!
新しい魔法が出来たよ、見て見て!」
「ずるい、小兄様!
私だって!」
2人はいつもの様に、私に魔法を見せたがっておる。
数か月前、セレンの葬儀を行った時と比べると、大分元気になった様じゃ。
サヨナラー公爵の世継ぎに関しては、秘中の秘。
セレンはダブルピース公爵家で暮らしながら、世間では死んだことになっておる。
当然、2人には彼女が生きている事を知らされていない。
「今日の誕生日会も、楽しみにしててねー!」
「私たちの魔法が、凄いんだから―!」
「おお、何か催してくれるのか、楽しみにしておるぞ!!」
私は呵呵大笑しながら、2人に手を振った。
……2人には、私がいなくなることを、まだ知らせていない。
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離れから母家への途中に、突貫で作られた私の銅像と簡単な鳥居があった。
ハンドが中心になって、本気でボツリヌス教が出来上がりつつある。
どうせ一過性の物だと高を括っておったが、今やめいどの8割近くが信仰しておる一大宗教となりつつある。
やめれ。
「あわわわ、神様!」
「神様、お誕生日、おめでとうございます」
「おお、マー坊にハンドよ、有難うのう」
もう振り仮名に突っ込む気も起こらぬ。
「今日の誕生日会は、私達信徒の、一糸乱れぬパフォーマンスがありますから、楽しみにしていてくださいね」
「むふー!
私も頑張りますよ、神様!
むふー!」
2人は直前にトキシン領のめいどを辞めて、私と共にピッグテヰル領に向かうつもりであるとオーダーから話を聞いておる。
彼女らを裏切る形になり、後ろめたくはあるが。
それでも、これだけ慕われるのは、やはりうれしい物じゃ。
「そ、そうか、楽しみにしておるぞ!」
私は2人へ、にこやかに手を振った。
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母屋の扉をくぐると、青い髪、青い目をした、すらっと細い美青年に声を掛けられた。
青年は人好きのするような笑顔で私に笑いかける。
「やあ、ボツリヌス。
……誕生日、おめでとう」
「おお……有難う。
……アルコール・トキシンよ」
アルコールは、例の事件から、変わった。
部屋にこもりがちになり、食事も取らなくなった。
けれどニコチンが半ば無理矢理に内政を手伝わせたお陰で。
最近、やっと部屋から出始めておる。
いつかの様な豚の体格では無く、今にも折れそうな果敢無い雰囲気。
ぶっちゃけ、ニコチンよりいけめんじゃ。
流石の私も、未だに慣れん。
あの日、あの部屋で、一体、何があったのか。
ちなみにテトロド・トキシンは、あの惨劇の1週間後に館から姿を消した。
果たしてどこへ行ったのか、一体何を考えておるのか。
それは分からぬが、まあ、侯爵でもない彼奴は、何も出来ぬであろう。
「……今日、なんだよね、行くの。
僕からは、何も言えないけど……頑張って、ね。
あ、ニコチンが待ってるよ」
「うむ、有難う、アルコールよ」
ニコチンとアルコールには、屋敷を出て行く正確な日時を伝えておる。
私とオーダーは、ニコチンの待つ侯爵の仕事部屋へと足を向けた。
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侯爵の仕事部屋をのっくすると。
「入れ」
と、非常に短い言葉がかけられた。
扉を開けると、大量にある書類の山に埋もれるニコチンが確認できる。
「座れ」
此方を見ずに、書類仕事をしながらであるが、彼はそう言った。
「今日、か」
「はい、いってきます」
「メイド達には、気付かれずに済みそうか」
「はい、大丈夫そうです」
「……なんで敬語なんだ?」
「最後ですし……」
ニコチンは、ぴたりと書類を進める手を止めて、初めて此方を見る。
『最後』という言葉に反応した様じゃ。
「……侯爵命令だ。
たまには、帰ってこい」
「……はい、必ず」
時期を示さなかったのは、ニコチンの優しさじゃろう。
「敬語は止せ。
……それと、嫁入り道具に関しては、先にあちらへ送っておいた」
「……むう?
あちらさんも、いらぬと言っておったろうに」
「……それで良しとならないのが貴族なんだよ。
まあ、通常の嫁入り道具と比べると、大分グレードが下がって申し訳ないんだが勘弁してくれ」
いくら貴族と言えど、これだけの大損害の後じゃ。
本当に嫁入り道具無しでも、誰からも文句は来そうにないんじゃが……。
多分、これもニコチンのせめてもの気持ちなんじゃろう。
有難く、頂いて行くことにしよう。
「あ、それと、これ。
例の、手紙じゃ。
読み上げるの、頼んだぞ」
「ああ、分かった」
ニコチンは私から手紙を受け取ると。
それをそこらへんに放って。
また仕事の書類に目を落とした。
「今まで有難う、ニコチンよ。
じゃあの」
「ああ、じゃあな」
まるで、何でもないように別れの言葉を口にするトキシン。
たかだか3女の結婚などにかかずらっておる時間は無い、という体なのじゃろう。
……先ほど私と顔を合わせて会話している最中に。
目の端に涙がじわじわ溜まってきておったが。
きっと気のせい、と言うことにしよう。
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