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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
魔族侵攻編
120/205

第119毒 猛毒姫、6歳になる

2~3話くらいシリアスです。


あと、活動報告で人気投票を行っております。

よろしければ是非。

今のところ


1ダブルピース

2マー

3テーラー

です。


ミスリードを誘う文章。

 *******************


 前回までのあらすじ


 孔明「以豚制豚(豚を以って豚を制す)。

 これぞ三十六計の一つ、三豚の計よ!」


 ジャァーン! ジャァーン!


 ボツリヌス「げぇ! 孔明!」


 *******************


「うーん……朝か……」


 私はむにゃむにゃ呟きながら、もそもそとべっどから起き上がる。


 あれから季節は過ぎて、いつの間にか夏の暑さも落ち着いてきた。

 最近は急に冷え込む日もあったりと気温が安定せず、昨日は毛布を2枚被って寝たのじゃが。

 寝ぼけ眼を擦りながら起きると、体中汗に塗れておった。


「ふむ……流石に毛布2枚には時期が早かったか……。

 じゃが風邪をひくわけにもいかぬしのう」


 私は溜息を吐いて寝床から這い出る。

 窓を開けると何処からかつくつくぼーしの鳴き声が聞こえてきた。

 私にはこの鳴き声が、ドーデモイーヨ、ドーデモイーヨと聞こえるんじゃが。

 どうか。


 残暑も残る9月9日。

 天気は快晴、空は何処までも高い。

 夏と秋を合わせたような日じゃった。


 うむ。

 今日は私の、6歳の誕生日じゃ。


 私は自分の布団をくるくると巻く。

 海苔巻きの様に細長くなった其れの先っぽに赤い髪の鬘を被せる。

 まじっくペンで目と口を書く。


「最後に……ボツリヌス・トキシン、と」


 きゅ、きゅーっと胴体に名前を書いてボツリヌス・トキシン人形が完成した。


 いつか、オーダーに馬鹿にされた人形であるが。

 今回は、これで終わらぬ。

 このボツリヌス・トキシン人形をべっどの上に載せて。

 そしてその上から、布団を掛ける。


「完璧じゃ。

 何処をどう見ても、私にしか見えぬ」


 そこには、まるで眠っている私の様なボツリヌス・トキシン人形がおった。


「お、そうじゃそうじゃ」


 昨日書いた、各々に宛てた手紙の束を、布団の中に隠しておく。

 完成じゃ。






 ……これを一番最初に見つけるのは誰じゃろうか。





 まあ、大体予想は付いておるが。


 恐らくむせび泣くであろう彼女を想像すると、心が痛む……。




 私は一連の仕事に満足すると、服を着替えて廊下の外へと飛び出した。

 ……と、そこには。


「あ、ボツリヌス様。

 おはようございます」


 オーダーがおった。


「お早う、オーダーよ……ところで、発つのは今日の夜じゃが。

 準備はおっけーじゃろうな?」


「……はい、荷造りもばっちりです。

 ボツリヌス様も、オッケーですか?」


「勿論ばっちしじゃ」


 私とオーダーは周りに気付かれ無い様にひそひそと会話する。



 ピッグテヰル公爵には、誕生日から1週間後に嫁入りする事で調整しておったのじゃが。

 館のめいど達にも、その噂が回った様で。

 マー坊や、あまつさえハンドめいど長までが「自分も一緒に付いて行く」などと言い出した。


 ピッグテヰル公爵領に行っても、何の得も無いばかりか。

 大事な物を無くすだけ、と言う可能性の方が高い。

 分かっておる。

 貞操より、私の方が大事、という連中ばっかりなのは、分かっておるが。

 すまぬが、私が嫌なのじゃ。



 と言う訳で、出発の日にちを秘密裏にずらす事にした。

 マー坊達には誕生日から1週間後という事にしてあるが。

 実際にオーダーと相談している出発時刻は、誕生日の当日深夜。


 すなわち、今日の夜である。


「という訳で本日は、勘付かれ無い様に、屋敷の皆とお別れをする予定じゃ。

 一緒に、来てくれるか?」


「ええ、勿論!」


 私はオーダーを伴って、廊下を歩き始めた。


 ######################################


 離れの裏庭を見てみると、わーきゃー兄妹がわーきゃーしておった。


「あ、聖女様!

 新しい魔法が出来たよ、見て見て!」

「ずるい、(ちー)兄様!

 私だって!」


 2人はいつもの様に、私に魔法を見せたがっておる。

 数か月前、セレンの葬儀を行った時と比べると、大分元気になった様じゃ。


 サヨナラー公爵の世継ぎに関しては、秘中の秘。

 セレンはダブルピース公爵家で暮らしながら、世間では死んだことになっておる。

 当然、2人には彼女が生きている事を知らされていない。


「今日の誕生日会も、楽しみにしててねー!」

「私たちの魔法が、凄いんだから―!」


「おお、何か催してくれるのか、楽しみにしておるぞ!!」


 私は呵呵大笑しながら、2人に手を振った。

 ……2人には、私がいなくなることを、まだ知らせていない。



 ######################################



 離れから母家への途中に、突貫で作られた私の銅像と簡単な鳥居があった。

 ハンドが中心になって、本気(まじ)でボツリヌス教が出来上がりつつある。

 どうせ一過性の物だと高を括っておったが、今やめいどの8割近くが信仰しておる一大宗教となりつつある。

 やめれ。


「あわわわ、(ボツリヌス)様!」


(ボツリヌス)様、お誕生日、おめでとうございます」


「おお、マー坊にハンドよ、有難うのう」


 もう振り仮名に突っ込む気も起こらぬ。


「今日の誕生日会は、私達信徒の、一糸乱れぬパフォーマンスがありますから、楽しみにしていてくださいね」


「むふー!

 私も頑張りますよ、(ボツリヌス)様!

 むふー!」


 2人は直前にトキシン領のめいどを辞めて、私と共にピッグテヰル領に向かうつもりであるとオーダーから話を聞いておる。

 彼女らを裏切る形になり、後ろめたくはあるが。

 それでも、これだけ慕われるのは、やはりうれしい物じゃ。


「そ、そうか、楽しみにしておるぞ!」


 私は2人へ、にこやかに手を振った。


 #######################################


 母屋の扉をくぐると、青い髪、青い目をした、すらっと細い美青年に声を掛けられた。

 青年は人好きのするような笑顔で私に笑いかける。


「やあ、ボツリヌス。

 ……誕生日、おめでとう」


「おお……有難う。




 ……アルコール・トキシンよ」



 アルコールは、例の事件から、変わった。


 部屋にこもりがちになり、食事も取らなくなった。

 けれどニコチンが半ば無理矢理に内政を手伝わせたお陰で。

 最近、やっと部屋から出始めておる。

 いつかの様な豚の体格では無く、今にも折れそうな果敢無い雰囲気。

 ぶっちゃけ、ニコチンよりいけめんじゃ。

 流石の私も、未だに慣れん。

 あの日、あの部屋で、一体、何があったのか。


 ちなみにテトロド・トキシンは、あの惨劇の1週間後に館から姿を消した。

 果たしてどこへ行ったのか、一体何を考えておるのか。

 それは分からぬが、まあ、侯爵でもない彼奴は、何も出来ぬであろう。


「……今日、なんだよね、行くの。

 僕からは、何も言えないけど……頑張って、ね。

 あ、ニコチンが待ってるよ」


「うむ、有難う、アルコールよ」


 ニコチンとアルコールには、屋敷を出て行く正確な日時を伝えておる。

 私とオーダーは、ニコチンの待つ侯爵の仕事部屋へと足を向けた。


 ###################################


 侯爵の仕事部屋をのっくすると。


「入れ」


 と、非常に短い言葉がかけられた。


 扉を開けると、大量にある書類の山に埋もれるニコチンが確認できる。


「座れ」


 此方を見ずに、書類仕事をしながらであるが、彼はそう言った。


「今日、か」


「はい、いってきます」


「メイド達には、気付かれずに済みそうか」


「はい、大丈夫そうです(・・・・・・・)


「……なんで敬語なんだ?」


「最後ですし……」



 ニコチンは、ぴたりと書類を進める手を止めて、初めて此方を見る。

 『最後』という言葉に反応した様じゃ。


「……侯爵命令だ。

 たまには、帰ってこい」


「……はい、必ず」


 時期を示さなかったのは、ニコチンの優しさじゃろう。


「敬語は止せ。

 ……それと、嫁入り道具に関しては、先にあちらへ送っておいた」


「……むう?

 あちらさんも、いらぬと言っておったろうに」


「……それで良しとならないのが貴族なんだよ。

 まあ、通常の嫁入り道具と比べると、大分グレードが下がって申し訳ないんだが勘弁してくれ」


 いくら貴族と言えど、これだけの大損害の後じゃ。

 本当に嫁入り道具無しでも、誰からも文句は来そうにないんじゃが……。


 多分、これもニコチンのせめてもの気持ちなんじゃろう。

 有難く、頂いて行くことにしよう。


「あ、それと、これ。

 例の(・・)手紙じゃ(・・・・)


 読み上げるの、頼んだぞ」


「ああ、分かった」


 ニコチンは私から手紙を受け取ると。

 それをそこらへんに放って。

 また仕事の書類に目を落とした。


「今まで有難う、ニコチンよ。

 じゃあの」


「ああ、じゃあな」


 まるで、何でもないように別れの言葉を口にするトキシン。

 たかだか3女の結婚などにかかずらっておる時間は無い、という体なのじゃろう。


 ……先ほど私と顔を合わせて会話している最中に。

 目の端に涙がじわじわ(・・・・・・・・・・)溜まってきておったが(・・・・・・・・・・)

 きっと気のせい、と言うことにしよう。

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