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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
日常編
12/205

第12毒 猛毒姫、売る

 父が、魔石をくれた。

 オーダー曰く、内在する魔力量は5000は下らないらしい。お金にすると大体5000万ゴールド、日本円で5000万円相当じゃ。

 まさかここまで凄いのを貰えるとはのう……。

 おそらく父としても私が魔力を得てくれる事を願ってのものじゃろう。

 しかし以前の話は出鱈目(でたらめ)であり、私は魔力を得ることもなく、この魔石は恐らく彼が私を娘として見て贈呈(ぷれぜんと)してくれた最後の物になるじゃろう。

 父に悪いことをした、などとは全く思っておらず、そもそも魔力が低いだけで娘として見ない父の私に対する無駄な期待に暗い笑みが浮かぶくらいじゃがの。



「考えましたねボツリヌス様、成程、これなら詠唱短縮にかなり近づくことが出来ますよ!」



 オーダーも理解したようじゃ。

 彼女の様に高魔力量……例えば1万程度の魔力量を持つ人間が魔力消費500程度の魔法の詠唱短縮をするため詠唱回数を稼ごうとするとしよう。

 彼女は自分の魔力を用いて1日20回程度の詠唱が出来る。

 魔力量5000の魔石を使用したところで10回だけ多く詠唱が増えるだけに過ぎず、魔石の無駄と言える。

 しかし魔力量10の人間が魔力消費1の魔法の詠唱回数を稼ごうとするとしよう。

 本人は1日10回しか詠唱できないが、先ほどと同じ魔石を使用するなら、なんと5000回も詠唱回数を稼げるのである。

 文詠唱が可能な回数の、約半分も稼ぐことが出来るのじゃ。

 ただし、魔力量10の人間は普通、詠唱短縮どころかそもそも魔法を習おうとすら思わない。

 総括すると、詠唱短縮目的に魔石を使用するものなど誰もおらんのじゃ……そう、私以外は。



「どうしますかボツリヌス様!

 これを使って8つ全部均等に回数を上げますか?

 私としてはまずは水玉(ウォーターボール)一種類のみを上げることをお勧めしますが……!」



 オーダーは若干興奮気味に私に話しかけるが、私はオーダーを落ち着く様に宥めた。



「いろいろ思うところはあると思うが、とりあえずオーダーよ、街へ行こう!」


「……はい?」



 ということで、オーダーと相談し馬車で観光する事となった。

 オーダーはせっかく魔石を手に入れたのに、早く魔法を使えばいいのにとぶつぶつと言っておったが、残念ながら私は魔石が手に入ったら次は街へ行くと決めておったので我慢してほしい。



 初めて見る街は思ったより貧しかった。

 以前見た本には、準戦争地帯となっておったが、魔族と戦争した事は無いはずである……はずであるのに、この荒れ様……。



「荒れて……おるのう」


「はい、ボツリヌス様」



 私が話しかけると、オーダーは興味無さ気に答えた。

 てっきりオーダーはこの街の出身だと思っていたが、違うのかもしれんのう。

 街は見える範囲でまともな建物や施設はなく、千年も昔の日本の田舎のようじゃ。

 侯爵家である自分の家を見ると、この世界の文明の進歩は産業革命より少し前くらいじゃろう、そうであればこの惨状は街の上層部、と言うか父が悪いのか。

 この街の税収はどうなっておるのじゃろうか。



「ううむ。思ったより酷いな。どんな治政をしておるのじゃ……。

 これは、(くず)の治政じゃ……」


「はい。控えめに言えばそうですね」



 (くず)で控えめとは、父を甘く見ていた。

 と言うか、(くず)より酷い言葉なんてそうそうないのであるが。



「では控えめに言わなければ……、()(たわ)けの聖なるくそ野郎の治政じゃな」


「妥当ですね。んん……聖なるくそ野郎?……聖なる……くそ……。

 ああ、ホーリーシット!ホーリーシットですね!!」



 オーダーはなぞなぞを解いた子供の様に『聖なるくそ野郎(ホーリーシット)聖なるくそ野郎(ホーリーシット)』と大喜びで繰り返しておる。

 連呼する類の言葉では無いのじゃがなあ、と考えオーダーに別の話を持ちかける。



「ところでオーダーよ、この街で最も大きく、良心的な商店はどこかの」


「なにか品物でも見たいのですか?最も大きく良心的ですか。

 であればこのすぐ近くにありますよ」



 馬車の行く先を見てみると、みすぼらしい街の中では他より少しだけ大きく立派な建物があり、オーダーがその店の前で馬車を止めるように指示を出した。

 馬車から降りると店の中から大急ぎで割腹の良い商人と思われる男が飛び出して来た。

 店の前に馬車が止まったので、素早く出てくるとは、商人としての嗅覚を持っておるようじゃのう。



「ようこそ、アコギ商店へ。

 私がこの店のオーナーをやっております、アコギと申します。

 ご用件は何でございましょうか」



 さらに私達の服装などから大事な客だと判断したのじゃろう、店主である商人のアコギは4歳児である私に対しても笑顔と低姿勢で店の中へ招き入れた。

 私はずかずかと店の中に入ると、椅子の一つにどかりと腰かける。



「貴様らのところで魔石は取り扱っておるか」


「ええ、もちろんですとも。

 アコギ商店はトキシン領唯一の魔石取扱い店でございます。

 魔石に関しましても多くの貴族様よりご愛顧頂いておりますし、特殊な魔石に関しても様々な商人のルートを持っております。

 具体的には自宅での防御結界魔法陣への魔石の取り付けや取り替え、使用後の魔石の回収に……」


「あい解った。では、単刀直入に言おう。この魔石であるが」


 私が懐から5000万ゴールド相当の魔石を取り出し店の机の上にごとりと置くと、その価値を一瞬で理解したのじゃろうアコギは顔色を青くした。



「この魔石、いらないので買ってくれ」



 私がそう話すと、今度はオーダーが顔色を青くした。

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[一言] 固有名詞の命名基準がナニワ金融道を思い出し大笑いです。
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