第115毒 猛毒姫、目覚めさせる
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前回までのあらすじ
オーダー「コック総受け! 取り敢えずタク×コク! 夜は料理される方!」
ボツリヌス(腐っておる)
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と言う訳で、宴が執り行われておる中を、オーダーと当てもなくぶらぶらしておる。
「……お、あっちにおるのはハンドじゃあないか」
「……なんだか、大勢に向かって熱弁を振るっていますね。
……マーも何だか熱心に聞いていますよ」
今回の戦闘について、語っておるのじゃろうか。
実際彼女は相当の負荷を強いられておった。
皆に言いたいことも多いじゃろう。
どれどれ、少し話を聞いてみることにしようか。
「……私は三跪九叩頭をして、洗脳から抜け出したのです」
……うむ、やはり一番の語りどころはそこじゃろう。
魔貴族の恐るべき洗脳に抵抗したという強い意志。
流石はめいど長じゃ。
「その時の私には、唯只管、神様を崇める事しか考えられませんでした。
一心不乱に、地面に頭を叩き付けたのです」
……ちょっと、話が変な方向に行っておる気がするが。
「もはや私の頭が地球にぶつかっているのか。
それとも地球が私の頭にぶつかっているのか。
それすらも分からない。
まるで三昧の境地の中。
突然両頬に、張られた様な強烈な衝撃を感じたのです」
……それは多分、私が両頬を張ったせいじゃな。
精神的な物ではなく、物理的な物じゃよ?
「そして、確かに、神様の声が、聞こえたのです。
『 ハ ン ド …… 目 覚 め よ ……』……と」
……ふむ。
言ったな。
確かに言ったが。
私は別に、倫理的・霊的に目覚めて欲しかった訳ではないぞ。
「あわわわー。
成程、成程ぉ。
そう言う事なんですねー」
そう言う事って、どう言う事なんじゃ。
マー坊も謎の納得をしておるし。
「神である神様を敬う。
たったそれだけで。
どんな願いでも、叶うのです」
「あわわわー!」
うむ。
新興宗教の誕生じゃ。
しかも教祖が私。
「おいおい、流石に嘘臭えなあ」
屋敷のめいど達は、結構本気でハンドの話を聞いておるが。
流石にぎるどめんばー達は、酒のつまみ程度に話半分の様じゃ。
「なんだぁ?
あのお嬢ちゃんに祈ったら、俺の願いも叶うってのかよー」
酒飲みの一人が私の方を指差して、笑っておる。
「勿論です。
どんな願いですか?
世界平和?」
ハンドは何故か自身満々に答える。
出来る訳無かろう。
願いの規模が巨大すぎる。
「じゃあ、ボツリヌス様よー。
……あの3人を、どうにかしてくれや」
おっちゃんが指さした先には。
……未だに真剣な顔をして、今後について話し合いをしている、ニコチンとぎるど長、そして村長がおった。
今後の事を考えたら、酔ってなどいられないと言うのが正直なところなのじゃろうが。
そんな事をしておったら、こちらまで飲みにくくなってしまう。
……いや、違うな。
彼ら3人はこの戦争を勝利へ導いた立役者達。
めいど達も、ぎるどめんばーも、村人達も。
皆が、彼らと一緒に飲みたいのじゃろう。
「ふむ、分かった。
ではまず、ハンドとマー坊。
此奴らを、胴上げしておくれ」
私は、そうするのが当たり前の様に指示を出す。
「……うん?
なんだなんだぁ?」
皆は不思議な顔をしながらも、ハンドとマーを取り囲む。
「え、え、えー!?」
「あわわわわわ!?」
「よっしゃ、そんじゃあ二人を胴上げしてやろうぜー!」
わっしょーい、わっしょーい。
掛け声とともに、訳も分からずハンドとマーが宙を舞う。
周囲を見てみると、胴上げが目立ったのじゃろう、皆面白そうに此方を見ておる。
お、例の3人も話を止めて注目しておるな。
一通り、胴上げをした後、私は声を張り上げた。
「この戦で最も要所となる役目を担ったハンドとマー。
2人に盛大な拍手をお願いする!」
後半は魔貴族に良いように操られては居たものの、彼女たちの戦果は大きかった。
その事に異論を挟む者はいないようで、皆が力いっぱい2人に向かって拍手をしておる。
ハンドとマーは若干照れながら、頭を掻いておった。
「さて、続いては。
我らの頭脳となり、この戦を勝利に導いた、偉大なる3人!
彼らに、宙を舞って頂こう!!」
私が声を上げると。
まだ、誰も紹介していないのに、3人の周りに人だかりが出来た。
そして、誰からともなく胴上げが始まる。
「恰好良いぜ、ニコチン侯爵!」
「流石はギルド代表だ!」
「有難う、村長~!」
私はどや顔で振り返ると。
先ほど私に頼みごとをした者が、ぽかんと口を開けておった。
「よし、お主よ。
指令じゃ。
あの3人をばらばらに離して皆に連れて行って貰うのじゃ。
そうすれば彼らも、飲んで騒いで大いに楽しまざるを得まい」
私が呵々大笑しながら男に伝えると。
「お……おお、そうだな、分かった!」
と、若干戸惑い気味に、未だに胴上げされ続ける3人の元へ駆けて行った。
しばらくすると、とっぷ3人はそれぞれ別のぐるーぷのめんばーに引っ張られて、酒を飲み始めた。
よしよし、此方の思った通りに行ったのう。
満足気に頷いておると。
何故だか周りが、私に注目しておった。
……うん?
もう、終わりじゃよ?
「盛り上げ上手だなあ、ボツリヌス様!」
「次は誰を胴上げしようか、ボツリヌス様!」
あれ。
私がなんか盛り上げなくちゃいけない雰囲気。
やばい。
面倒臭いことになったぞ。
メイドのスカートは鉄壁仕様。