第113毒 猛毒姫、ついに参戦する
神回(自称)。
以下、「これはひどい」禁止。
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前回までのあらすじ
魔貴族 VS ボッさん
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「ねえ、チビ助ちゃん。
あんた、実は強いってコト、無いわよねえ?」
魔貴族がいらいらしながらも、不思議そうに私に尋ねる。
やはり、自身の殺気に耐えられる5歳児が信じられないのじゃろう。
私は、正直に答える。
「魔力量10の、体力100じゃ」
何かの弾みで、死ねるすてーたす。
「魔力量10の、体力100?
……そんな生き物が、実在するの……?」
逆に、驚かれた。
む、いかんいかん、話を戻さねば。
何か、良い挑発は……あ、そうじゃ。
「それにしても、婚活の為に戦争とは。
魔貴族でも年増は大変なんじゃのう」
「は、はああああああああ!?
私は、まだピチピチの1999歳ですううう!!」
思った以上に効いた。
魔貴族のぴちぴちが何歳かは分からんが。
むきになっている所を見ると、行き遅れておるのじゃろう。
年齢に右往左往しておる内は、幼い証拠でもあるのじゃがな。
ちなみに私個人の意見じゃが、人間族の女の盛りは100を過ぎてからと思っておる。
前世の私は、まだ蕾のままで死んでしまったのじゃ。
美人薄命。
「分かっておる、分かっておる。
誰も伴侶になってくれぬのであろう?
じゃから、格好良い男を集めて、洗脳して、見るも空しい“はーれむ”等を作っておるのじゃろう?
全く、仕方ないのう。
そんなお主に、私からの助言じゃ。
そもそも、はーれむとか作っておるから、男が寄ってこないんじゃよ」
元99歳毒女からのあどばいす。
「……チビ助ちゃん……?
貴女、なかなか面白い子ね。
じわじわと、嬲り殺しにしても、良いのよ?」
よしよし、大分怒っておるな。
魔貴族からしてみれば、ここで怒りに任せて私を殺せば、先程の台詞が全部図星だったことになろう。
彼女は両手を握り拳で固めながらも、なんとか笑顔で対応をしておる。
「じわじわと、嬲り殺しィ?
拷問を、舐めるなよォ?
がさつなお主に、そんな高等技術は無理じゃ。
力任せの一撃しか出来ぬ不器用な手先の癖に、面白い事を言うのう!」
「……糞餓鬼ッ! あんた、一体何なの!?
魔力10で体力100の出来損ないだから、恐怖の感覚とか無いの!?
とっとと、そこの氷魔法使いみたいにお漏らしの1つでもして、命乞いをしなさいよ!!」
くくく。
滅茶苦茶ぶちぎれておる。
ここまで出来れば大満足じゃ。
もう一押しで、私を殺しにくるじゃろう。
此奴は此れから生きていく中で、5歳児の言動にぶち切れて思わず殺したという大人げない自分を、恥辱と共に思い出すじゃろう。
そして同時に、私の言動が全部正しかったと、暗に認めたことにもなる。
さて、仕上げじゃ。
「お漏らし、じゃと?
うーむ、すまんのう。
私はもう、5歳じゃ。
お漏らしするのは、怖い悪夢を見た時だけと決めておる」
「なッ!?
私は……怖くない、悪夢だって言うコト?
『目の覚める悪夢』、13貴族の1柱、この北真倉猿夢様が、怖くないと……!?」
殺気が、限界まで強くなった。
もはや、極寒の地、そのど真ん中に裸でいるような感覚。
ふいと横を見てみると、兵士の皆さま方は、漏れなく漏らしておる。
「……ふむ。
お主が、怖い、じゃと?
笑かしよる」
私は耳まで口角を開くと呵呵大笑をした。
そしていつかの様に。
ゆっくりと言葉を溜めて。
そして、吐き出した。
「『目の覚める悪夢』とやら……。
……寝言は、寝て言え」
次の瞬間、飛び掛かる魔貴族の前に。
私の命は、潰えた……。
……かと、思ったのじゃが。
魔貴族は私の目の前で、突然、停止する。
口元には、何故か、恐ろしい笑みを浮かべておった。
「貴女……名前を聞いても、良いかしら」
「……ボツリヌス・トキシンというが」
「……ああ、成程。
例の、ボツリヌス教の、神様ってワケ?」
む?
その理解は、間違っておるぞ。
「フフフ……。
こんなにムカついたのは、初めてだわ。
ぶっ殺してあげようと思ったけど。
もっと嫌がるコト、してあげる。
貴女が洗脳されたら、きっと皆、悲しむでしょうねえ。
そして、皆が悲しんだら。
きっと貴女も、悲しむでしょうねえ」
……そう来たか。
流石は厭らしい年増。
人の嫌がる事を進んでするとは。
……まあ良い。
マーやハンドも抵抗できた洗脳じゃ。
彼奴らよりは精神力はあると自負しておる。
せいぜい、洗脳に抗って、魔貴族の自信を粉砕することにしようか。
そんな事を思っておると、魔貴族と目が合う。
そして、彼女の強い視線を受けて、私の意識は遠くなった。
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辺り一面、真っ白な空間。
他には自分以外、何もない。
此処はどうやら、私の精神の、とても深い部分の様じゃ。
ちょっと面白い所じゃな。
なんとなく自分の手を見てみると。
皺皺じゃった。
顔を触ると、頬も皺皺。
ふむ。
これは多分、私が99歳の時。
すなわち、最盛期の状態を表しておるのじゃろう。
さて。
これから、私の精神を塗りつぶす様な洗脳が始まるらしいが。
魔貴族は、どこかしらん。
少し身構えていると。
足元に蟻が、ちょこちょことやって来た。
「ん?」
目を凝らして蟻に近付くと。
どうやら其れは蟻では無く。
なんだかうねうね動くあめーばーの様な黒い生き物じゃった。
「……エ?
ナニ??
ナンナノ、コノセイシンタイ!?
キョダイスギル!!
バ……バケモノ!?」
非常に聞き取り難い小さな声で、その蟻は叫んでおった。
良く分からんが。
とりあえず踏み潰しておく。
「ギュ―――――!!」
手塚○虫が好きそうな断末魔を上げて、蟻が死んだ。
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「……はッ!」
何故か私は、意識を取り戻した。
あれ、洗脳は?
辺りを見回すと。
魔貴族が、倒れておった。
……まさか。
私は近づいて、一応、確認する。
「……し、死んでるッ……」
死んでおった。
ほら。ボツリヌス様、魔貴族に勝ったぞ。みんな泣けよ。