第111毒 猛毒姫、引き続き観戦する
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前回までのあらすじ
魔貴族 VS ニコチンお兄ちゃん
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ニコチンが魔貴族の元へ歩み寄る。
「『私の命で勘弁してくれ』……?
それは、この戦争を終わらせてくれってコトかしら?」
「そうだ」
「無理ね」
魔貴族はぴしゃりと断った。
「そもそも、貴方達、私がなんでこの戦争を起こしたか、分かってないでしょう?」
うむ。
分からん。
魔貴族は訳の分からない理由で動くと言うが。
此奴は比較的言葉も通じるておるし、知能も非常に高いように思える。
納得行く理由が、ありそうなんじゃが。
「理由……それはね。
素敵な異性を見つける為よ!」
前言撤回。
ぶっ飛んでおった。
完全に気狂いじゃ。
「簡単に言うと、ハーレムの人数も減って来たし、補充目的ね。
私は人間の顔とか骨格とか好きなの!
でも、最低限の戦闘力は欲しいし……。
あと、尊敬できる人じゃないとね!」
「……お前は、それだけの為に……この戦争を、起こしたって言うのか……?」
「それだけの為?
とんでもないわ、自分の伴侶を見つけるのは戦争と同義、なんて良く言った物でしょう?
だからこのくらいは普通よ、普通。
人間の性格が出るときって、死ぬ間際じゃない?
だから、戦争を起こしたの。
女は全員死んで貰って。
男は死ぬ寸前までなって貰って。
そして、好みじゃない奴は死んで貰って」
価値観が違い過ぎてくらくらしそうじゃ。
此奴にとっては、この戦争は婚活の一種。
合同こんぱ、だったのじゃ。
各々の人間性を見る為。
そのために戦争を起こした。
そして、そのためだから、人族側を洗脳しなかったのじゃろう。
これで、魔貴族が人間族をどう思っているのか、少し垣間見る事が出来た。
……本当に、どうでも良い存在なんじゃろう。
「でも、前の都市は失敗したな~。
なんか、結婚式のお祝いとかしているから、ムカついて皆殺しにしちゃった~」
ぶちん。
隣で、ニコチン袋の緒が切れる音が聞こえた。
顔を上げて見ると、本気で米噛みの血管が切れて、血が吹き出しておる。
……だ、大丈夫、じゃよな?
「……焼き尽くせ……」
ニコチンの目の前に、ばれーぼーる大の火球が現れた。
おお。
ニコチンは火魔法が使えたのか。
火球は大きさを変えることなく、密度と温度を急速に上昇させながら、その色を赤から青へ、青から白へと変化させていく。
素人が見ただけでも分かる。
いくらニコチンとは言え、この火球は明らかに人間の限界を超えた物じゃった。
現に、ニコチンは目から、耳から、鼻から、口から、夥しい出血をし始めた。
「あら、貴方もやれば出来るじゃない。
限界を超えてるのは、大事なものを馬鹿にされたせい?
領民を守る義務のせい?
……そこの、チビ助ちゃんを守りたいせい?」
「『煉獄』!」
質問に答えず、ニコチンは火球を放つ。
ぷらずまと化した火球は、魔貴族にぶつかって……。
……掻き消えた。
「ま……魔法を、掻き消した……!?」
「ち、違うぞ、ニコチン!」
……そして、私にも、やっと見えた。
「こ……此奴……使ってるのは……風魔法、だけじゃ……!!」
「……あら、チビ助ちゃん。
なかなか良い目をしてるみたいね。
そうよ。
さっきの氷魔法も、今の火魔法も。
全部、風魔法で相殺したの」
魔法を、跡形も無く相殺する。
例えて言うならば。
滅茶苦茶に乱射された鉄砲の弾を。
優しくお箸で受け止めて、全部お茶碗に回収するくらいの芸当じゃ。
それも、発展4源を、基礎4源である。
どれだけの力量差があれば、それが可能なのじゃろうか。
「うん、ニコチンさん、かな?
貴方も合格よ。
そこで、横になってて良いわ」
そういうと、いつの間にか目の前に現れた魔貴族の一撃によって。
ニコチンは意識を失った。
「お……お主、先程から、合格とか、連れて行くとか。
こんな滅茶苦茶やって、此奴らが付いて来ると思っておるのか?」
「んー?
思ってるわよ。
例えば、そこのコックさん。
周りの皆への優しい気持ちであるとか。
戦闘に対する激しい気持ちであるとか。
料理に対する真摯な気持ちであるとか。
それらぜーんぶ、私が好きであると言う気持ちに上書きすればいいのよ。
そうすれば、私無しでは生きる事も出来ない、素敵な男性が完成するわ」
「……はあ?
そんな事をすれば、奴の精神は、早々に磨り減って死んでしまうぞ?」
「……はあ?
そうなったら。
また別の男に取り換えれば良いじゃない?」
駄目じゃ。
此奴は、言葉が通じるだけの、獣じゃ。
そして私は、その獣に、此処で殺される。
「それじゃあ、チビ助ちゃんも……」
どごおおおおおおおおおおお!
突然の轟音に、魔貴族が振り向く。
どごおおおおおおおおおおお!
どごおおおおおおおおおおお!
どごおおおおおおおおおおお!
轟音と共に。
魔族側後陣の者達が。
……空高く舞っておるのが、此処からでも確認できた。
「なな、なんだあああ!?」
「ばば、馬鹿な、我ら魔族が、タイマンで負けるなんてえええ!?」
「しし、しかも、素手喧嘩だとおおお!?」
そんな声と共に魔族達を撒き散らせながら、そいつは此方にずんずんと近づいておる様じゃった。
……って言うか、大体、分かったわ。
「……あれ、何か分かるの?
チビ助ちゃん?」
「……いけめんの仕業、じゃよ」
「あら……ふうん、そうなの?」
魔貴族は嬉しそうにして吹き飛ばされる魔族を見ておる。
私は、嘘は言っておらんよ、うん。
やがて、人垣を掻き分けて現れた男に。
魔貴族は、嫌そうな顔をする。
「ガハハハ、儂、参上!!」
確かに、奴はいけめんの部類に入るじゃろう。
……爺じゃがの!
私は現れた爺……タクミと共に、心の中で呵呵大笑するのであった。




