第106毒 猛毒姫、炸裂させる
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前回までのあらすじ
バッカルコーンの元ネタを知らない人は、画像でググってみよう。
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土と水の混合魔法、天使の触手。
この浪漫魔法がお目見えする道のりは、実は非常に困難極まる。
まず、こんな阿呆な魔法を考え付く者が必要じゃ。
そんな阿呆な魔法を使おうとする、阿呆な天才魔法使いが2人必要じゃ。
そして、阿呆な天才魔法使い達が、数か月から数年以上の調整をして得られる、阿吽の呼吸が必要じゃ。
ここまでやって、やっと手に入る魔法じゃが。
実戦で使うとなると、更に課題が残る。
魔法が実際に見えていないと、こんびねーしょんが取れない。
圧倒的な魔力を使うため縄張り圏内でしか使えない。
つまり、魔法の近くにいないと使えないという課題。
魔法使用中は完全に無防備状態になる。
自身が魔法に巻き込まれる可能性がある。
つまり、魔法の遠くにいないと使えないという課題。
そう。
実はこの魔法。
死ぬほど使えない。
課題を克服するとすれば。
例えば、空魔法を使う人間がいると仮定して。
その人間が魔法使い2人と共に空の上から。
2人の縄張りを見極めながら。
敵の攻撃を回避しながら、使うくらいしか方法はない。
以上の事実から分かる事がある。
この魔法が実戦で炸裂して殺される確率なぞ。
1等の宝くじに10回連続で当選する確率よりも低い。
と言う訳で、長くなったが、結論じゃ。
4000名の魔族の皆さま、お愛で度う御座い申す。
今日は、1等宝くじの、大盤振る舞いじゃ。
「「「バ ッ カ ル コ ー ン!! 」」」
魔族軍の隊列の真ん中から半径400mに。
……6翼の触手を持つ天使が登場した。
「へええええええええええええ?」
「ぎゃあああああああああああ!」
「ひいいいいいいいいいいいい?」
体力が強いも。
魔力が強いも。
技術が強いも。
魔族も。
獣族も。
妖精族も。
それら、等しく、関係なく。
飲み込んで、磨り潰して、貪食する天使。
辺り一面、一瞬にして鮮血絨毯になる。
「目を逸らすなシガテラ、ダイオキシン。
大丈夫じゃ、この惨劇は、私がお前たちに頼んだ事。
責任は、全て私にあるのじゃから」
普段と比べると動きの鈍い天使の触手を見て、私は2人に檄を飛ばした。
敵とは言え、知能のある生き物を殺すと言うのは、きっと誰にでも抵抗がある。
もしかしたら2人は、これから先の人生、今日の日を思い出して眠れない夜が続くかも知れぬ。
じゃから、私に全てを擦り付けた方が精神衛生上良いかと思ったのじゃが。
「違うよ、聖女様。
……だってこれは、3人の魔法だもの」
「うん。
聖女様が考えて、小兄様と私で使うもの」
「……そか。
じゃあ、3人の責任じゃな」
魔族が何とか届かせてきた攻撃を撃ち落としながら答えると。
お子様2名は、恐怖に引き攣りながらも、笑顔を見せた。
これは可愛らしい。
強気で。
張りぼてで。
潔い。
幼いながらに、貴族の笑みじゃ。
(ニコチンよ……お主が保護対象と思っていたお子様2名は。
貴族の青き血と、黄金の精神を持ち合わせた、素晴らしい紳士淑女に育っておるぞ……)
『貴様の心の声が聞こえてくる様だ、ボツリヌス・トキシン』
ぎく。
『さて。
言い訳を聞こうか。
貴様を、どの程度、高く吊るすかの、参考にしたい』
「つ、吊るすことは確定なのか!?」
私は、持っていた“とらんしーばー”に向かって声を上げる。
奴の……ニコチンの声は、とても落ち着いておった。
……まるで、怒り過ぎて、感情が一周した様な声じゃった。