第101毒 猛毒姫、三味線を弾く
不定期投稿(今日投稿しないとは言っていない)
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前回までのあらすじ
ウチの豚公爵は、日間1位様の豚公爵様と違って、人間の屑です。
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と言う訳で、恐らくモブ・サヨナラー公爵の席と思われる椅子に座った。
座りながら、一応トキシン侯爵代行の紙を周囲に見せておく。
5歳児だけど、本物じゃよ〜。
それにしても、目の前が机で、視界の半分が机の下じゃ。
座高が足りぬ。
「ああ、ちょっと失礼」
私は机の上にある花瓶を指さす。
「これ、邪魔じゃ。
どかしてくれ」
どこへともなくそう声を掛けると。
「無礼者ッ! それは!
サヨナラー公爵を悼むための物だ!!」
「そうだ、ふざけるな!」
女騎士が立ち上がって抗議の声を上げ、40代の男性もそれに便乗した。
「じゃって、私、サヨナラー公爵とか、知らんもん。
顔も知らん何処かの貴族が死のうが生きようが、関係なかろう?」
「関係無い事あるか!」
勢い込んで叫んだのは40代の公爵。
オンヲアダ・デカエース公爵じゃろう。
仲良くしたくない名前じゃ。
「……。
そうだ、関係ない事など無い!」
1度私の言葉を反芻して、そう返したのが20代の女騎士。
恐らくはバイタビッチ・ダブルピース公爵。
名前の意味は、5歳児の私には良く分からぬ。
「へえ、成程、成程ぉ」
感心した様ににこにこ笑っているのが30代の中肉中背の男。
サイコパス・コロスキー公爵じゃ。
関わりたくも無い名前じゃ。
「ぶひょひょひょ、そ、そうだ。
顔も知らん何処かの貴族が死のうが生きようが、関係ない」
同じくにやにやぶひょぶひょしておるのが豚……じゃなかった。
セルライト・ピッグテヰル公爵。
名前はともかく、お近づきになりたくない相手じゃ。
4人中3人がお近づきになりたくない相手。
ピッグテヰル公爵が私の言葉を繰り返したことで、デカエース公爵は目を見開いた。
どうやら、今更気が付いたようじゃ。
顔も知らん何処かの貴族が死のうが生きようが関係ない、と言う発言。
名前も知らん侯爵領を今から見殺しにする算段を立てておったと思われる4人が、一体どんな反応をするのか確かめたかったのじゃ。
4人のそれぞれの反応から、どの程度の連中なのかが分かった。
デカエース公爵は「関係無い事あるか!」と発言しておるが。
その後ピッグテヰル公爵の言葉で我に返って青くなっておる所を見ると。
自分の主義主張の一貫性に気付けなかった阿呆じゃろう。
勿論、これで言質を取った事にはならないが、頭の回転は大したことはない。
まあでも、一応、私の敵じゃ。
ダブルピース公爵は、少し考えた後に「そうだ、関係ない事など無い!」と言った。
彼女は私の言葉の意味を理解した上で、そう発言したと思われる。
恐らく侯爵領を見捨てる事に反対なのじゃろう。
私の味方じゃ。
コロスキー公爵は、瞬時に私の発言を読み切って、「成程、成程ぉ」と感心する事で明言を避けた。
侯爵家を見捨てる事に賛成している、切れ者じゃろう。
私の敵じゃ。
そして、ピッグテヰル公爵は、私の発言を読んだ上で、嫌味までぶっ込んできた。
こいつも敵じゃ。
つまり。
今のまま4公会議を始めれば、1対3でトキシン侯爵領見殺しが決定する。
「大変申し訳ありません。
顔も知らない貴族の方ではありますが。
だからと言って平然と酷い行動を取っていい道理はありませんよね。
私が間違っておりました」
突然敬語になり謝罪する私。
5歳児の舌勢に皆驚いておる。
「……公爵家への侮辱とも取れる発言でしたが……面白いのでスルーして差し上げましょう」
するーしてもらえた。
5歳児ってお得じゃ。
「お、おい、歯抜け。
そ、そんな事より貴様が座っている席は、5公会議に参加する者だけが座れる席だ。
か、勝手に座るなど烏滸がましい、覚悟は出来ておるのか?」
豚がまた笑っておる。
陥れたつもりなんじゃろうか。
此処からは交渉の番。
引き続き敬語を使わせてもらおう。
「はい、勿論。
私にも5公会議に参加する資格があると思って座っております」
「「「「……はあ??」」」」
これには、流石に全員が疑問の声を上げた。
私は心の中で呵呵大笑する。
……まだまだ、私の三味線こんさーとは、始まったばかりじゃぞ?