初めての朝、そして出撃
1日目のあらすじ。
魔狩になりました。
ユーリside
午前7時20分。俺はいつも、だいたいこの時間に起きる。体内時計はバッチリだ。
「・・・あー、そうか、ここ自宅じゃなかったんだった」
モルゲンロート(昨日の夕飯の時当夜さんに聞いたがドイツ語で朝日の意味らしい)の自室での初めての起床は、どうも慣れなかった。
「・・・ベッド、てこんな寝心地と起き心地なんだな」
ずっと布団で寝てたからな・・・
とりあえず朝食を取らねば。アガスティーアの食堂でとれることは昨日当夜さんから聞いている。当夜さん曰く、アガスティーアの食堂は魔狩なら格安で利用できるらしい。味もいいんだが、メニューがワンパターンなのがなー、とのことだ。繁華街での食事のことも考えると、バランスとってるのだろうか。
えーと、今日のメニューは・・・白米、赤味噌汁、鯵の開き、漬物か。和食の王道だな。
料金は・・・うん、ちゃんと足りてるな。
「すみませーん、朝食セット一つお願いします」
「はいはい、朝食セット一つ入りましたー!」
しかし、周りを見ても真由と当夜さんの姿が見えない。まだ寝てるのだろうか?
「御馳走様でしたー」
「はーい、明日もよろしくねー」
結局1人のまま朝食を終えた。まぁ、今までと変わらないから慣れてる。
「さて、10時まで何していようか・・・」
食堂を出てラウンジに出たのはいいが集合は10時だ。つまり余裕を持っても2時間くらいある。そんな時だ。
「ただいまー」
当夜さんがラウンジに入ってきた。・・・あれ、当夜さんが入ってきたところ、昨日聞いた出撃口、及び帰還口だよな・・・
「ん?おおユーリ、おはようさん」
「あ、おはようございます。あの、何処へ・・・」
「ああ、一狩り行ってきた」
「朝早くからご苦労様です・・・」
「朝方の魔物とかもいるからなー。あと、今日の環境の確認も兼ねてな」
「環境の確認?」
「そうだ。魔物も当然生き物だ。毎回同じ場所に出没するとは限らねぇ。予想外の場所に出てくることもあるしな。作戦行動にも影響が出るときもある。ターゲットとなる魔物が既にいなかったり、逆にターゲットじゃない魔物が乱入してきたりな」
成る程・・・これも覚えないといけない物事だな。
「で、さっきはお前らの初陣となる平原地帯の環境の確認と、それと並行して丁度出没してた処殺蟹ネームドリッパーの討伐と素材の回収をやってきた」
「名前からしてやばそうなやつですね・・・」
「おう、少なくともベテランでも苦戦する奴だ。処刑人の異名を持つくらいだしな。こいつがいなくなったことにより初陣に行く頃には平原地帯の安全は多少は保証されるから安心しろ。丁度ネームドリッパーの素材も欲しかったところだしな」
「えーと、武装の材料になるんでしたよね?」
「おう。といってもある意味魔狩とは別件の事で必要だったんだがな」
「別件?」
「ああ。お前さん、副業、て知ってるか?」
副業?えーと、つまり本業は別の職業・・・といったところか?
「魔狩は緊急時以外は仕事に行くか行かないかはある程度自由なんだ。その分給料はないから結局は仕事に行って報酬貰わなきゃいけないがな。で、その自由を使って別の仕事をやる奴もいる。例えばそうだな、俺の知り合いでは魔物の研究をしてたり、神社の神主をしてたり、モデルをしてたり、その他諸々」
「結構色々やってるんですね・・・」
「おう。で、俺の副業は国際警察だ」
「へぇ・・・え?」
今なんか、とても副業とは思えない言葉が聞こえたような・・・
「驚いたろ。ほれ、警察手帳といろんなライセンス」
「・・・本物の警察手帳とか初めて見た・・・うわ、これ銃火器のライセンスとアメリカ大統領公認のハッカーのライセンスじゃ・・・」
「まぁ国際警察、つっても父さんや親戚の叔父さんの手伝いみたいなもんだがな。それでも一応射殺しない程度の発砲や要請した際のハッキングは許可されてんだ」
「本当になんで副業なんだ・・・」
「まぁその分給料は無いに等しいけどなー。ある意味ボランティアよ」
「俺の知ってるボランティアと何か違う・・・」
「気のせいだ。で、これと他にもう一つ副業がある」
「当夜さんそのうち過労死しますよ・・・?」
「なに、その程度で過労死するなら・・・うん、多分とっくにあの世に行ってるぜ・・・」
そういって遠い目をする当夜さん。まぁ、国際警察といい魔狩といい色々あったんだろうな・・・
「で、話を戻すがそのもう一つの副業、てのが魔武装開発部なんだ。まぁ、名前の通りよ」
「えーと、つまり俺たちが使う魔武装を作っている、てことですか?」
「まぁ俺の役割は武器の設計図を書くこととそれの材料となる素材を集めること、んでもって完成品のテストだから、直接作ってるわけじゃないけどな」
「あ、じゃあさっきの素材は・・・」
「そういうこった。・・・と、言って思い出したわ。向こうの仕事もやらねぇとな。んじゃユーリ、後でな」
「はい、仕事頑張ってください」
「おーう」
当夜は右肩を一回回してから此方に手を振り、エレベーターに乗った。
「・・・副業、ね・・・」
俺も将来持つことになるだろうが・・・流石に国際警察みたいなのは無理だろうな・・・
そういや当夜さんの親父さんも国際警察なのか。
一瞬親父繋がりでスペツナズが頭をよぎったが絶対ないと直ぐ考えを捨てた。
で、暇な時間は結局繁華街を回った後部屋でゴロゴロしていた。まぁ、色々な店を見つけることができたし、今度行ってみよう。
で、約束の時間。
「おはよう真由」
「あ、ユーリおはよう」
今日初めて真由に会った。
「ユーリも今起きたのかしら?」
「いや、7時20分に起きて色々してたが・・・」
「・・・ユーリ結構早起きなのね」
「・・・お前は朝ご飯を食べたばかりなのか?」
「まぁ、ね・・・目覚まし時計、夢の中で止めてたらしくて・・・」
どんな夢見てたんだ、という疑問は聞かないことにした。
「うーす、待たせたか?」
「あ、当夜さんおはようございます」
「ども、さっき振りです」
「おう。んじゃ早速作戦会議するか」
「今回の任務はウルフ5体の討伐だ。俺が朝ネームドリッパーを倒したことによって群れが平原地帯に戻りつつあるらしい。で、この5体が所謂先発隊といったところだ。群れが戻り、拡大するのを防ぐためこいつらを討伐する」
「複数のウルフ・・・昨日の訓練の成果が早速出るわけですね?」
「そうだな。観測情報によれば、単体のウルフが広範囲に散らばってる感じだから最初の内は単体と戦うことになるだろうが・・・遠吠えを聞いたり血の臭いを嗅ぎ分けたりして直ぐ合流するだろうな」
「バラバラで行動している内に討伐する、てのは無理ですかね?」
「ユーリ、いい線いってるぜ。俺が複数でバラバラになっている小型を多人数で相手にするときはいつもその戦法を取っている。・・・が、今回は3人だ。仮に1人1体倒したとしても、残り2体がどういう動きをするか分からない以上、安易に動くことはできねぇ。2体がバラバラに動いて行き違いになったり、同時に行動して1人が襲われたり、とな。・・・だもんで、今回は一箇所に全部集めようと思う」
「い、一箇所に集める、て・・・」
「ウルフの群れ、て危険なんですよね、私達でいけるんですか?」
「無論ただ集めるわけじゃねぇ。まず囮を用意しないといけねぇな。平原地帯には少し小高い丘があってな。まず俺がそこからウルフ1体を狙撃する」
「あれ、当夜さんの武器、て拳銃とナイフじゃ・・・」
「狙撃銃持ってくよ。あと、カテゴリ的にはプライマリが双拳銃でセカンダリが片手剣だからな」
「ククリナイフとレイピアが同じカテゴリなのか・・・確かにあのククリ、そこそこ刃渡大きめだったけど・・・」
「あ、プライマリとセカンダリで思い出した。二人はもうセカンダリを決めたのか?」
あー、昨日の夕飯の時言われてたな。
「俺は鋼拳にしました。格闘は親父からそこそこ教えてもらってましたし」
「私は・・・とりあえず小銃にしました。射撃なんて初めてなので使えるかどうかは分かりませんが・・・」
「プライマリにしてもセカンダリにしても変えれるしな。色々試して自分に合うやつを決めればいいさ。しかしユーリは鋼拳か・・・いいの選んだじゃねぇか」
「え、どうしてです?」
「いやな、お前が昨日気にしてた上級スタイルのリベンジャー、それのプライマリの一つに鋼拳があるんだよ。今のうちに慣れとくといいぜ」
そうか・・・鋼拳のマニュアルを見て知ったがこの武器もカウンターができるんだった。成る程、リベンジャーのプライマリになるわけだ。
「さて、話を戻そう。まず囮となるウルフを見つけ、そいつの脚を撃ち抜く。この段階ではやつは死なねぇ。動けなくなるだろうがな。で、撃たれたウルフは雄叫びを上げて仲間を呼ぶ。雄叫びが終わった後、急所を撃ち抜いて仕留める。魔物が息絶えて暫くすると殆どの細胞が拡散するのは知っての通りだが、その前に血の臭いが充満する。これで他のウルフを確実にそこに向かわせることができる。あとはまぁ、コッソリ近づいて集まったウルフを纏めて奇襲する」
「上手くいきますかね・・・?」
「昨日あんな大記録出してりゃ基本大丈夫だ。無論俺も手はぬかねぇ。流石に全部俺がやっちゃ実地実戦にならないから最低2体は残すがな。・・・と、そろそろ時間だ。質問はあるか?」
俺も真由も特に質問はなく、首を振った。
「よし、そんじゃ行くか!あ、そうそう。任務の際はコードネームをつけるんだが、二人は仮としてユーリはアルファ1、真由はアルファ2と名乗ってもらう。基本自分の好きなように名乗っていいから、時間がある時でいいから申請しとけな」
「コードネームなんてつけるんですか・・・」
「ぶっちゃけ俺とキャプテンの趣味だ」
「ええー・・・」
真由、苦笑する気持ちはなんとなくわかる。
「因みに当夜さんは?」
「俺のコードネームか?bloodforkだ」
「なんかオンラインネームにありそうな名前ですね・・・」
「そんなもんよ。これも元々はサバゲで名乗ってたやつだしな。俺らは基本二つ名みたいな感じでつけてる。miragedragonとか、giantogreとかな」
「案外なんでもありなんですね・・・」
「おう。アガスティーアは基本なんでもありだぜ。・・・んじゃ、そろそろ行きますか」
俺と真由は静かに頷いた。そして朝見た出撃口に移動した。
「こいつが転送装置だ。魔物が多数目撃されている地域に繋がっている。今回は・・・緑の転送装置だな。任務に行くときに間違えるなよ。かく言う俺も何度も間違えてたしな」
「それ大丈夫なんですか・・・」
「なに、すぐ戻ってこれる。・・・使用のログは残るがな・・・」
なにそれこわい。間違えたら公開処刑にされそうな・・・
「おし、んじゃ行くぞ。転送装置起動!」
さて、ようやく俺たちの初仕事だ。死なないようにせねばな。