幼馴染み
???
「・・・やっと到着したか」
この艦を離れていたのは一週間も経ってはいないのだが、向こうの作業が割と急ピッチだった為か着いた時には既にヘロヘロだった。
『お前さんが年老いた証なんじゃねぇか?』
『・・・いや一応まだ22なんだがな』
『まぁあたしらに比べたらまだ若いわよねぇ・・・』
『姉御達と一緒にするな・・・』
※二重鉤括弧は念話です。
俺の中にいる輩が茶々を入れてくる。・・・何を言ってんだお前と思った人は正しい。まぁ俺、というか俺たちが少々特殊なだけだ。
『しかしまぁなんだ、随分といい時代になったもんだな』
『なんだい、あんたもジジくさいこと言って』
『何がジジくさいだ!俺様はまだピチピチの『・・・姉御、GO』『あいあいさー』であってだギャァァァァア!?』
随分と騒がしい我が精神である。
「・・・あれ、冬樹?一緒の便に乗ってたんだ」
「ん?ああ、里依紗か。それと・・・浩二か?」
「お?あらまぁ偶然」
そんなこんなで精神でガヤガヤしていると現実世界で見慣れた輩を見つけた。二人とも俺が魔狩になった頃からの同期、そして幼馴染みだ。
方や名を櫻井 里依紗、方や名を山中 浩二。里依紗はモデルの仕事から帰ってきたところだろうが・・・浩二は確か魔狩兼魔物の研究者をしていて暫くは帰ってこない筈だが・・・
「少し気になることができてね。早々に論文を仕上げようと思って。色々書類がごった返した研究室より慣れ親しんだ部屋の方が集中できるかと思ってね」
「成る程な・・・」
・・・お前の自室も大概なようなゲフンゲフン。
まぁ、嘘は言ってないだろうがな。
「とりあえず俺は荷物を自室に置いてかないとな」
「あ、私もー」
「俺はこれから当夜と会談だ」
「そうか、それじゃまた後で」
俺たち幼馴染みたちはそれぞれバラバラに動き出した。
里依紗side
「よい、と・・・」
ボフッ
私は荷物を簡単に置いた後、部屋のベッドにダイブした。
どもも、里依紗です。魔狩とモデルをやってます。
やっぱり自室のベッドは最高です。仕事先の宿泊施設でも高級なベッドがあったりしますが、慣れ親しんだベッドが一番です。
まぁ、私の夫の場合は布団なんですがね・・・
「・・・ふぅ」
ランプの側に置いてある写真立てを手に取り、溜息ついてまた戻す。もうここに戻ってくるたび毎回やっている気がする。
「・・・アッキーも大変だよね・・・」
私の夫は今とても遠い所に行っている。発展途上国を魔物の脅威から「護る」青年団に参加している。期間は・・・2年。
「・・・あと、半年・・・」
最初の頃は夫の居ない生活も平気だった。だけど今・・・特に今年に入ってから、とてつもない寂しさに襲われた。
きっと欲求不満になっているんだと思う。
彼と抱き合いたい
彼と愛称を言い合いたい
彼と静かな時間を過ごしたい
彼とキスをしたい
彼と同じ布団で寝たい
彼と・・・
「・・・ダメダメ」
我ながら結構夫に依存していると思う。周りからみたらヤンデレみたいに思われるだろうか・・・
「ちょっとお茶でもいれよ・・・」
沈んだ自分を少しでも誤魔化すためにリラックスすることにした。
冬樹side
『冬樹も好きだねぇキャプテンのコーヒー』
『まぁ当たり外れがあるがな』
荷物を置いた自分は近くの自販機でコーヒーを買って飲んでいた。
ここのキャプテンは昔カフェのマスターをしていたらしく余裕があるときは豆を仕入れて自分で配合し、こうして自販機で格安で販売することもある。
まぁ、凄く美味いものから微妙なもの、なんか矢鱈苦いものまでピンキリなんだがな。余程やばかったものは販売されてないが。因みに苦いものは殆ど売れなかった模様。俺は割と好きだったんだが。
『そういや姉御、兄貴はどうした』
『ネロなら頭ん中で般若心経再生されてうずくまってるとこ』
『・・・また般若心経か』
兄貴はどうも般若心経・・・というかお経全般が苦手らしい。まぁ気持ちは分からないでもないが・・・
「・・・ん?」
『どうした冬樹?』
『いや、見慣れない顔を・・・ひょっとしたら当夜が言ってた新人だろうか』
ユーリside
午後の任務が終わって部屋に戻る途中、自販機にもたれている男の人を見つけた。見たことない人だけど・・・
「・・・ん?」
あ、此方に気づいたみたい。
「どうも、任務帰りか?」
「あ、はい。えーと・・・初めまして、ですよね?」
「ああ、そうだ。・・・やっぱりお前さんが当夜が言ってた新人か」
当夜さんが・・・?ひょっとしてこの人が昨日当夜さんと真朝が言ってた冬樹さん・・・若しくは浩二さんだろうか。
しかし・・・
「あの、その目は・・・」
「ああ、これか。まぁ流石に気になるよな」
彼の顔を見て真っ先に目についたのは顔の左半分を覆うような眼帯だった。しかもそこから僅かに傷がはみ出ている・・・
「昔ある魔物と対峙したときにズバッとやられてな・・・傷跡を怖がる人もいるだろうからこうやって隠している」
・・・やっぱりそういうことだったのか。大きな眼帯で覆ってなおはみ出すほどの大きな傷・・・知ってはいたけどやはり魔狩は危険な職業なんだな・・・
「・・・まぁ、そのズバッとやった張本人は今現在うずくまっているんだがな」
「・・・え?」
「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったな」
今現在うずくまっている?どういうこと・・・?
「俺の名前は後藤 冬樹。当夜たちの同期で・・・
ある意味多重人格者だ、よろしくな」
「あ、狩谷ユーリです。よろしくお願いしま・・・え?」
・・・うん?ある意味多重人格?え、どういうこと?
「やっぱりポカンとするよな。まぁ・・・」
僕が呆気にとられていると、冬樹さんは目を瞑って・・・ん?何をしてるんだ?
「・・・こういうことよ、ユーリ君」
「・・・うん!?」
・・・見た目こそ全く変わっていないのに、明らかに口調だけでなく声色も女性になっていた。