現代版リアル『かぐや姫』!
現代版とかリアル系がお嫌いな方はご注意くださいまし。
他にもリアルシリーズ公開中です。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんの稼業は竹取りですが、実は最近ゴルフにはまってしまいました。
会社を60で定年退職して暇になるとハマりがちです。
よく老人会のゲートボール大会に参加して仕事をサボっては、おばあさんから雷を落とされる日々です。
そんなある日。
おばあさんの寝静まった後、近くの竹林に向かって、竹で作ったゴルフクラブでショットの練習をしていたときのことです。
スパコーンッ
「しまった、強く打ちすぎてしまった」
ゴルフを禁じるおばあさんとのストレスを晴らすため、つい強く打ってしまいました。
ボールは1個しかないので、毎回打っては取りに行く面倒なショットです。
(えっと、確かこの辺に落ち―――)
ボールを拾いに竹林に入った時、根元がピカピカ光る不思議で派手な竹を見つけました。
それはもう眩しいくらいで、年中点けていると沢山電気代がかかりそうなほどです。
省エネ・節電と叫ばれるこのご時世に無駄遣いもいいところです。
「許せぬ。 切ってやるか」
省エネ好きなおじいさんは、クリスマスツリー顔負けの電飾竹に怒り、迷わず竹を切ろうとしました。
しかし重大なことに気付いてしまったのです。
昨日竹を切る斧を池ポチャしてしまい、池の女神さまに奪われてしまっていたのです。
あの時、『あなたが落としたのはこのクソ汚い斧ですか? それとも、この金の斧ですか?』と訊かれ、「金の斧で間違いあらへん」などと調子こいて関西弁なんか使わなかったらよかったと反省です。
さて、斧が無いのでは竹は切れません。
斧を買いに行こうにも、深夜0時現在ではネオン街くらいしか開いていません。
かと言っておばあさんに斧を買うお金をせがんでも、「今月のお小遣いはあげたでしょ!」と、断られるのは目に見えています。
大の大人が一か月3000円のお小遣いとは、中学生に笑われてしまいます。
「おっ、そうだ」
おじいさんは思い出しました。
かつて学生時代に自分が空手家だったことを。
あれから半世紀以上経ったとはいえ、もしかしたら空手チョップで竹を切れるかもしれません。
「アチョォ!!!」
お決まりの掛け声で竹をチョップです。
しかし竹はビクともしません。
「ぐふぉぁ!!」
『骨粗しょう症』だったおじいさんはムリをしたせいか、骨折してしまいました。
とはいってもここで引き下がってしまえば、男のプライドがなんちゃらです!
おじいさんはすぐにおばあさんを叩き起こし、助力を乞いました。
おばあさんは空手をやっていたわけではありませんが、普段から空手チョップで野菜を斬っているからです。
「包丁は買うと高いから、この方が安上がりでいいのよ」という彼女の私生活がワイルドに思えてくるこの頃です。
おばあさんは「ふああ」と欠伸をしながらソニックブームで竹をあっさり切断しました。
するとどうでしょう。
竹の中にはそれは小さな可愛らしい女の子―――いえ、男の娘が入っていたのです。
しかもヘッドホンを付け、パソコンと睨めっこしながらシャカシャカと音楽を聴いているではありませんか。
竹から漏れていた光はパソコンの光だったのです。
「これこれ、そんな暗いところでは目を悪くするぞ」
「そんなところに引き籠ってないで、出てきて仕事なさい」
竹の中から人が出てきたのに、ことごとく論点を外すおじいさんとおばあさんが手を差し伸べます。
二人は竹から生まれたこの子を育ててあげようと決意しました。
しかし名前を聞いても、自称ニートの彼は教えてくれません。
『ニート君』と呼ぶのはちょっと不憫です。
なので彼にぴったりの名前を考えてあげることにしました。
おばあさんは、竹から生まれたので「竹次郎」か「竹太郎」が良いと主張しましたが、現代っ子のおじいさんは流行の「レン」か「ハルト」が良いと断言します。
そこで間を取って、『かぐや姫』と名付けられました。
かぐや姫は育つにつれ、おばあさんのプロデュースで美しくなりました。
逆におじいさんが一目惚れして、おばあさんが焼き餅を焼くほどです。
そんなある日、かぐや姫の美貌を知って数名の若者がやってきました。
政治家の孫、銀行の頭取の子、有名ハ○ウッド俳優の子など、皆素晴らしいお坊ちゃまです。
「姫! お金持ちの僕と結婚してくだ―――」
「チェンジ」
即答です。
「姫! 俺には掃いて捨てるほどの金があるから――」
「チェーンジっ」
プロポーズなんて聞く耳も持ちません。
鼻くそほじくってダラダラです。
「姫! オレ様なら君を必ず幸せにして差し上げ――」
「チェンジ言うとるやろワレ!!」
あんまりしつこいとキレます。
しかし男らは諦めません。
「では、これからわたくしの言う問いの答えを持ってこれたら、その家の『お婿』にいきましょう」
男なので嫁には行けません。婿で我慢していただくつもりです。
「人生とは何か、についての答えを」
無理難題もいいところです。
さらに他の人には「正義とは何か」や「戦争は正か悪か」といった、鬼畜な奇問をバシバシぶつけます。
ついに男らは観念して去って行きました。
おじいさんとおばあさんは困りました。
どれだけ身分の高い男でも、どれほどイケメンなジャ○ーズ系歌手を引っ張って来ても、かぐや姫は全く興味を示さないからです。
そりゃそうです。
だって根が男ですもの。
男を持ってこられても、所詮は野郎です。
どうせ連れてくるならラノベに登場するヒロインが欲しいところでありますが、おじいさんとおばあさんはかぐや姫を女として育てている内に、彼が男であるということを忘れていたのです。
それ以来、かぐや姫は毎晩月を見て涙を流していました。
ある日、おじいさんとおばあさんは心配して理由を尋ねました。
すると彼女――いえ、彼は泣きながら言いました。
「月を見ると、食べ損ねた期間限定の月見バ○ガーを思い出すのです」
それは無念です。
おじいさんもファーストフードは大好きです。
しかし理由がどうでもいいことだったので、二人はかぐや姫を放置プレイにしました。
時は過ぎて十五夜の日、昼間っから果たし状らしき文が届きました。
差出人は『月』に在住のK.Yさんからでした。
今夜11時に御宅の姫を頂戴する、という旨の手紙であったので、おじいさんとおばあさんはすぐに武士を雇い入れ、かぐや姫の警護に当たらせました。
なんとかしてかぐや姫を護ろうとしたのです。
しかし相手は月の人。宇宙人です。
宇宙人はどんな兵器を持っているのか分からないので、弓矢と言わず、地対空ミサイルも配備完了です。
さあ、バッチコイ!と意気込んでいたおじいさん。
しかし11時になっても0時をまわっても、一向に敵は現れません。
諦めかけたその時、おじいさんの握る無線が鳴りました。
『こちら屋根上部隊A班! 応答願います』
「こちら地上のじいさん。 どうした」
『敵が現れました!!』
「なにっ!!?」
ふと上を見上げると、月の方から古代中国っぽい民族衣装に身を包んだ人々が下りてくるではありませんか。
彼らは地上を護る武士に気付くと、持っていた睡眠薬を上空から散布しました。
油断していた武士は薬のせいで眠ってしまいました。
月の使者のくせに奇襲攻撃とは卑劣です。
『リメンバー・パー○ハーバー』さながらです。
おじいさんはどうすることもできず、ただ月に昇って行く可愛い可愛いかぐや姫を見つめていました。
……しかしあきらめきれません。
このまま月の使者に、手塩にかけて育て上げたかぐや姫を持って行かれるのは癪です。
せめて養育費くらい払って帰ってもらいたいくらいです。
なので、おじいさんは手元の発射ボタンを『ぽちっとな』しました。
すると竹林の中に隠してあった地対空ミサイルが発射され、見事月の使者に命中し、撃墜に成功しました。
これで安心かと思いきや、威力が強すぎてかぐや姫の乗った車ごと塵にしてしまいました。
おじいさんはどうすることもできず、かぐや姫が月ではなく天に昇って行く様を、呆然と眺めていましたとさ。
感想等頂けたら幸いです。((〃∇〃o))