プロローグ
数々の作品の中からこの作品に行き着いていただけたことを感謝します。
天気予報で、曇りのち雨で日中は冷え込むでしょう。という予報を聞いた日だった。
朝の学校へいく準備をしている最中だった。
朝からなることは皆無といっていい、マンションの呼び鈴がなった。
ドアをあけると、そこには数度会ったことのある隣人がいた。
「…おはようございます。」
少し気まずそうに彼女が挨拶をするから、こちらの返す挨拶は疑問系になってしまった。
「これ、落とされましたよね?」
そう言って唐突に出された学生証は紛れもなく自分のもので。
「昨日、4棟の階段で落としてましたよ?」
どこで落としたのだろう?という顔をしていたのだろう。こちらから聞き出す前に彼女は答える。
「…ありがとうございます。」
隣人が、同じ大学で同じキャンパスなのは知っていたが、声をかけられたことはないし、初めてといってもいい絡みだった。
彼女はとても緊張した顔をしていて、こっちは状況を把握するのに一生懸命だ。
とりあえず、学生証を受け取ろうと手を伸ばし学生証を受け取った。
そのとき、ほんの少しだった。
ほんの少し彼女の手とこちらの手が接触した。
その瞬間、ぴくっと少しだけ彼女の手が動き緊張した顔つきだったのがさらに固い表情になった。
「…悪い。」
後から思い返せば、謝るほど悪い事をした訳ではないのに彼女の表情が、そうはさせてくれなかった。
「……いえ。」
彼女は頭を下げると逃げるように去っていった。
その後ろ姿から、目が離せなかった。
彼女の後ろ姿はよく知った後ろ姿とぴったり重なって見えた。
マンションの隣の部屋の住人で、同じ大学に通う学生。
それが早坂涼乃だった。