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B級監督

作者: 舛田 久

 また来やがった。こういうファンレターのふりをした手紙だ。

「監督の最新作・モササウルスの逆襲を見ました。いつものぬるい設定と脈絡のない展開、華のないヒロインと中途半端なユーモアに安心感を抱きます」

 なめとんのか、こいつは。

 こいつが俺を馬鹿にして嫌がらせの手紙を送ってきてるのかどうかは分からんが、中には本気で勘違いしてる奴がいる。俺がわざと、確信犯的にチャチな映画を作ってる、全ては狙いだと思ってる奴らだ。

 まあ、そういう奴らがいるお蔭で、こうして映画監督として仕事が回ってくるんだから、足はむけられんのだが、はっきりと小声で言うぞ。

「お前らは何も分かっていない」

 どこの世界に、自分の作品をわざとチャチくして喜ぶ監督がいるのだ?まあ、おかしな、ヒネた奴らも多いから、中にはいるかもしれんが、俺は断じてそんな変人・変態監督じゃあない。

 あのな、言っておくぞ。大事なことだ。

「映画というのは監督が作るもんじゃない」

 どうだ。驚いたか素人たちよ。映画が終わってスタッフロールというやつが流れるだろう?誰が何を担当したか書いた文字だ。自慢じゃないが俺はプロデューサーになって全体を仕切る力も金もないし、脚本家と話し合って脚本づくりから関わった事もない。俺の名前は最後に「監督」としてのみ出てくるのだ。

 映画が面白いと、監督が良いと思う奴が多いが、それは間違いというのものだ。あのね、監督というのは、与えられた予定期間、金、役者、環境の中で、用意された脚本を使って「映画」という種類の作品に変換するのが仕事なのだ。いくら面白い脚本だってそれをカメラで撮影して映画館のスクリーンに文字を映しても仕方ないだろう?同じように、どんなにいい女の役者がいても、ただ姿を撮ってるだけじゃ商品にはならんのだ。

 繰り返すが、監督は、与えられた脚本と役者を使って映画の形にする。面白いかどうかは脚本の出来によるし、役者に華があるかどうかは、キャスティングプロデューサーの人選によるものだ。

 良くも悪くも俺の作品に対する評価はほとんど全てそのせいだろう?話のつじつまが合ってないだとか、展開が都合良すぎるだとか、そんなことは俺が文句を言いたいよ!仕方ないだろう。そういう脚本で映画を撮れっていうんだから。

 若い頃は不満のある脚本を勝手に直して、ひどい目にあったよ。脚本家が訴えてくるし、映画もオクラ入り。その作家が生きてるうちは、そっちの方面からは仕事が来なかった。幸い、数年後に死んだけどね。

 あとは、駆け出しのアイドルを脇役で使った時にさ、ちょっと芝居ができる子だったから、悪役の要素をちょっと強くしたのよ。ちょっとだよ?そしたらアイドルにしてはいい芝居になって、明らかに本人もスタッフも喜んだのにさ、また訴えられちゃった。事務所から。アイドルの売り方を勝手にいじるなってさ。で、ただのぶりっ子風に撮り直して事は納めたけど、その子は鳴かず飛ばずですぐ消えちゃった。

 それからはもう、余計な事はしないの。これが台本です。そうですか。これがヒロインです。ハイハイ、ってな感じでね。

 はっきり言うけどね、あの本と役者を一流の監督に任せたら、絶対断るよ。一流はさ、85点の台本を使って、95点の映画を作る事は出来ても、俺みたいに40点の台本を与えられて、何とか65点の映画にしてくれって頼んだって、できゃしないよ。

 コツ?まあね、あるよそれは。ファーストフード法と、俺は名付けてるけどね。そりゃ知らないはずだよ。人に言うのは今初めてだもん。

 聞きたいって?さすがインタビュアーだね。話したくなるもん。

 あのね、ファーストフードのハンバーガーってさ、うまいと思う?とりあえず、うまいと思おうよ。あんまり食べない?俺もなんだけどさ、まあ、人気はあるし、若い連中がうまいうまい言うからさ、うまい事にしようよ。うまいの。これが前提。じゃあ、材料がいいのか。違うよね。クズみたいな肉を使って、安いパンにはさむ。あれね、クズ肉と安物パンという組み合わせが重要なんだって。ちょっと贅沢にいいパンを使うと、まずい肉が引き立っちゃうし、肉を少し高いものにすると、パンのまずさが目立つ。もちろん、パンも肉も良くすればうまいんだけど、コストが高くつきすぎる。売る側の満足度はグンと落ちちゃうの。

 俺の映画も、言ってみればハンバーガーでさ、ああいう脚本で、仮に現役の一流スターが出ちゃったら、何かも台無しになっちゃうの。草野球やってんのに、片方のピッチャーだけ現役のプロ選手じゃ、つまんない試合でしょ?

 演出だってやたら金かけてすごい画面を作ろうとすると、役者の演技力の無さが目立つし、そもそも金をかけられないんだから、一場面を派手にすると、バランスがめちゃくちゃよ。芝居が下手な役者がいれば、撮り方工夫して滑らかに演技してる様に仕上げなきゃいけないし、なにしろ時間ね。巨匠みたいに「ダメだ!もう一度!」なんて事で、一日3カットしか撮れない、なんてやり方してたら、1シーン撮って予算オーバーになって、間違い無くオクラ入り。何せ、形にしなきゃいけないの。完成第一。そう思って急いで撮るとね、不思議な事が起きてくるの。自分の芝居に納得できなくても、やり直しさせてもらえないのが嫌で、すごく集中して演技する役者が出てくるかと思えば、「どうせロクな映画にならん」と言って、ちゃらんぽらんに演技する役者も出てくる。普通なら言語道断って事になって、役者をクビにしたりするんだけど、俺はむしろ喜ぶ。ちゃらんぽらんな芝居が活きる様にキャラクターの設定を少しずつ変えるんだな。長いセリフが憶えられない時は、途中で投げ出しちゃう奴にして、そういう芝居をしている様に作り変える。そういう工夫してると、変にメリハリあるキャラだけ出来たりする。その中途半端なリアルさと、中途半端なストーリーが妙に合うんだな。時に。まあね、ひどい脚本と低予算をあてがわれてさ、大失敗でもすれば、ちょっとはその辺、見直されるのかもしれないけどさ。でも、自分に次から仕事が来なくなるのが恐いからね。何とかしちゃうのよ。そうすると、成功とまでは行かないまでも、ちょっとは儲かるらしいんだよ。上の方は。

 ヒネた観客様様だよ。そうすると、同じ条件でまた、仕事が依頼される訳。がんばって節約していいもの作っちゃうと、「さすが先生!次は更に低予算ですが、ひとつ先生のマジックでもって」ってとんでもない事になってく。それが俺の監督作品よ。

 もし、大作を任されたら?

 うーん、どうしていいか分かんないね。とりあえず雨とか降らせちゃうんじゃない?あと、爆発させたりとか、ワイヤーで飛んだりとか。七変化なんかもね。何の映画なんだってな。

 これ、記事になるの?大丈夫?

 観客をバカにしてるところ、カットしといてくれよ?表現を変えます?ああ、表現をね。頼むよ、そんな感じで。

「プレシオサウルスの逆襲」のビデオ持っていきな。ん?ああ、モササウルスだっけ。宣伝用にって、いっぱいくれたんだよ。実は余っちゃったんじゃないの?

 いい、いい、遠慮しなくて。感想送ります?律義だなあ、プロだよ。さすが。

 見習いたいよ、ホントに。


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