第5話:美容院のミス
美容院に着いたのは、予約の時間よりも10分はやかった。
「いらっしゃっませ」
「予約をした中原ですけど」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
案内をうけて連れて行かれたのは、個室だった。
「ここの美容院は全店個室となっております。
もう一度名前の確認をさせていただきます。
中原由香里様。次に中原由紀様、妹の中原優子様の三名様でございますね。
それではお待ち下さい」
優子たちが中に入りると、そこに誰か座っていた。
由香里は美容院の店員にいった。
「あの席に座っている女の子は誰です」
「少々お待ち下さい」
美容院の店員はどこかへいった。
由紀が部屋の中をのぞくと中の女の子が気が付いた。
「あら、由紀じゃない」
由紀に声をかけたのは菊地可奈だった。
「どうして可奈がここにいるの」
「ここはわたしがいつも利用する美容院よ。でも、由紀の下に妹がいたの初耳だったよ」
「本当の妹じゃないけどね」
可奈は、由紀の妹の顔を見て驚いた。それは可奈の知っている顔だった。
「勇樹くん。勇樹くんなの」
「そうよお兄ちゃんの勇樹よ。でも今はわたしの妹で名前は優子よ。優子アイサツはどうしたの」
そう言われて、優子は同じクラスの可奈にアイサツをした。
「こんにちは、由紀の妹で優子です」
優子の声はかすかに震えていた。女の子としてはじめて家の外へ出て、いきなり同じクラスの菊地可奈にあうとは思わなかった。
「なんて愛らしいの勇樹くん。でも今は女の子だから優子さんね」
その時、美容院の店員と店長が戻ってきた。
「どうもすみません中原様。こちらのミスであちらの菊地様と同じ部屋になりました。
中原様は後1時間ほど待ってもらっては」
「わたしは構わないわ」
「ですが菊地様が迷惑じゃないのでしょうか」
「由紀はサッカークラブの仲間で、優子はクラスが一緒だから構わないわ」
「そうでございますか。私どものミスで、そういっていただき助かります」
美容院の店長は、菊地可奈に平謝りをした。
「それでは、最初は菊地様と中原由紀様から先にしますので、優子様はあちらのお部屋でお待ちになればいかがでしょうか」
美容院の店長は、優子を部屋に案内した。
部屋の中では由香里が、少し怒った声で店長に問い詰めた。
「どう言うことなの。ここの美容院は人気があると聞いてここに来たのよ。
とくに優子ちゃんは、はじめての美容院なのよ」
「申し訳ありません。そのかわり優子様にはこういったサービスは如何でしょうか」
店長は、由香里にサービスの説明をした。
説明を聞いて由香里は納得の表情を見せた。
「では優子ちゃんには、このサービスを全部お願いしますわ」
「でも、それでは由紀様のサービスが」
「由紀の髪の長さは、サッカーの邪魔にならないぐらいの長さでいいわ。
そのかわり優子ちゃんを可愛い女の子にお願いね。
それから、優子ちゃんに合う長い髪のかつらをいただきたいのですが」
店長は由香里に言われて、部屋を後にした。