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第七話 ピンチの時は心臓を刺す

「生き物の感情を構成するものは何だと思う?」


 魔人は言った。


 コイツいきなり何の話を?


 だがまぁいいか、時間稼ぎ出来るならこっちも好都合だ。


「経験?」


「うーん、それも良い答えだけど、俺は“記憶”だと思うんだよね。結局は、覚えてなくては心に残らない訳だし」


 魔人はそう言いながら、機械の欠片を蹴る。


 そして続けた。


「記憶は、生まれた環境、育った環境により形成される。そうして、様々な感情が構築されていくんだ。だから俺は、記憶が人を作ると思っているんだよね」


 コイツなんだ?さっきからペラペラと哲学的なことを喋って。


 それなら、記憶が一切ない俺は何なんだよ。


「何が言いたい?」


「ハンデをあげるんだよ、俺のユニークスキルを開示する。俺は、手で相手の頭を触ると記憶操作が可能になるんだ。だから、触れた奴の形を変える事も出来るんだよ」


 記憶が人を作ると言ってたから、記憶を操作する事で好きなように作り変えることができるユニークスキルか。


 レベル5級の強さにもなると、こんなイかれたスキルを所有しているのか。

 

「ハハ、趣味の悪いスキルだな」


 俺は嘲笑すると、魔人はギロっと俺を睨み、笑みを溢した。


「魔人に何求めてんだよ」


「それもそうだな」


 魔人は静かに床へと体を下ろした。



 アレンは携えている剣を抜き、魔人に向ける。


 剣を握りしめた手は、震えているが確かに強く握り締められ離さない。


 アレンは、何処から湧き出てくるのか分からない信念がある。


 それは皆を救えるヒーローだ。


 どれだけ怖くて、辛くて、逃げたくても、その感情は信念が打ち砕く。

 

 アレンは、軽く呼吸を整えると、魔人へと切りかかる。


 魔人は、アレンの事を甘く見積もり手のひらで剣を受け止めようとした。


 だが見誤っていた。


 アレンの体の奥から溢れ出す魔力が、手を二つに切り裂き肩に軽く刺さる。


 魔人はへぇ、と怪訝な顔をすると、己の頭を触り羽を生やし後ろへと後退する。


 手と肩をニュルりと再生させ、服に着いた埃を払う。


 傷ついた体を治癒する為には、行動な回復魔法を要する。


 怪我が重度な程、高度な治癒が必要となる。


 アレンは、折角付けれた会心の一撃をあっさりと治された事に落胆をする。


「驚いた?魔人はね、体を治癒する際に人間ほど難しくないんだよね。そんなちょっとの攻撃じゃ俺を殺せないよ」


 そう言うと足に重心をかけ片一方でアレンを蹴り上げる。


 アレンは咄嗟に剣で蹴りを受け止ようとするが、遥かに重く後ろへと蹌踉めき倒れる。


 魔人は、アレンに出来た隙を逃さずアレンの頭に自分の手を当てる。


「はい、残念」


 魔人は嘲笑するように言うと、頭へと魔力を流し込みユニークスキルを発動した。


 だが、アレンは何の変哲もなく、体を保っている。


 魔人は目を張り、すぐさま理解した。


 アレンには記憶がないのだ。


 いや違う、アレンに元から掛けてられいる尋常では無いユニークスキルを魔人は、上書き出来ないのだ。


 魔人は作戦を変え、手に魔力を込め、アレンを殴る。


 衝撃波で、ガスを溜めていた機械が粉砕し、ガスがプシュッと音を立て排出される。


 壁に打ち付けられたアレンは、額に血を滴らせ軽く目眩を起こす。


 目の前が暗闇に包まれる。


 ああ、俺はここまで弱かったのかとアレンは自分自身に幻滅した。


 ヒーローは強くなければいけない。


 それは、逃げられようのない事実で、無慈悲に襲いかかる現実だ。


 アレンはそれを分かっていたはずだった。


 だが、受け止め切れない力の差の現実がアレンの心をズタボロに崩す。


 高を括っていた、もうちょっと自分は出来るとそう慢心していた。


 しかしこんなにも程遠い力の差。


 それは、アレンの夢であるヒーローになる為には同様にほど遠い事を意味する。


 アレンは弱音を心に溢すが、全て言い訳だと一掃する。


 いつのまにか零れた涙を汚れた服で拭う。


 もう一度、力を奮い立たせ立った。


 剣を握りしめ、自分が持っている魔力全てを体に行き渡らせる。


「さぁ来い」


 アレンは腹の底から声を出す。


 まるで地響きが起きているような声を。


「全力で行くね」


 魔人は手のひらをアレンに向け、魔力の塊を形成させ撃った。


 工場内にあった様々な機械を消し去り、それにより炎が周りへと広がった。


 アレンは気付けば、工場の奥にへと飛ばされていた。


「まずは1人かな?」


 魔人の声もアレンの耳には入らなかった。


 アレンは、ラインやナギは逃れたか?と心配した。


 鼓動がやけにうるさく、呼吸が浅くなる。


 体全体が疼いた。


 どれだけ自分が弱いかを身を持って再認識させられた。


 なら、ここからは這い上がるのみだけだな、とアレンはポジティブな思考に切り替えてみた。


 だがそんな事すら自分の弱さで実現出来ない。


 きっと又白龍を使えばと考えると手が震える。


 後がどうなるかが分からないからだ。


 でも、こいつを野放しにする事は絶対に許されない。


 アレンは覚悟を決めた。


「魔人!次からが本番だ」


 アレンは剣で心臓を刺した。



【魔人目線】



 何してんだ?こいつ、自分の心臓に剣など刺して....


 俺に殺されたくないから、自分で自殺した的な?


 変な拘り的なものがあるんだね。


 それじゃ....後の2人を殺しに回るか....


 次の瞬間、後ろから有り得ない程の量の魔力を感知する。


 俺はすぐに後ろを振り向くと、魔剣士から白龍が飛び出していた。


 どうやら、魔力の持ち主は白龍であるらしく、レベル5ぐらいには匹敵するのではないかと思えるほどだった。


 さっきはレベル2ぐらいだった魔剣士がいきなりレベル5までに変化するとはな。


 ったく....お前は、俺のユニークスキルが通じないと言い――


「どんだけ俺を驚かせるんだよ!魔剣士!!」


 そう叫んだ刹那、白く光った神々しい白龍の体当たりが俺を襲う。


 手で受けてみるが、吹っ飛ばされ体ごと壁にめり込んだ。


 やはり強いね。


 だが、見た感じ白龍を操ってるのがあの魔剣士みたいだ。


 そのせいで、白龍は自由を失い上手く動けていないってところか。


 しかし、魔剣士の意識はある感じじゃない。


 無意識下による攻撃を今アイツはしてんのか。


 俺はズボンのポケットから記憶操作をし、持ち運びを可能にした生物を複数取り出すと、変形させ白龍へとぶつける。


 白龍は、少し傷が付き蹌踉めくが、驚異の再生スピードで傷を癒す。


 白龍を攻撃するのは悪手か....


 やっぱこう言うのは、宿主を叩くのが定石だよね!!


 すっかりと壊れ無くなった天井から、俺は翼を生やし空へと飛び出す。


 魔剣士と白龍は、逃すかと言わんばかりに俺に向かってくる。


 俺は手を刃へと変形させる。


 空中で刃と白龍の鱗が交差し、火花を散らせた。


 翼が空を切りながら、白龍からの攻撃を避け宿主の攻撃の機会を見計らうが、中々チャンスが来ない。


 空中なら自由に動け、宿主に攻撃を入れるのも容易いかなと考えたが....流石白龍、空もいけるとはね。


 俺は、地面へと足を付けた。


 俺なら攻撃を受けずにこいつらを殺す事も出来るが、時間が些か掛かってしまう。


 その間に援護でも来られたら、最悪だ。


 ココは一旦引くしかないね。


 白龍が出てきた条件が、心臓を刺した時――つまり宿主に命の危険がある時だけ。


 こちらがこれ以上、攻撃もしなければ追いかけもしないだろう。


「はぁー成果なしかぁ」


 いや、成果は少しあったかな。


 魔剣士はどうやら制御を効かせれないようだしね。


 俺はそう言いながら、建物の裏へと姿を消した。



 

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