第一話 記憶を無くした
「本当にごめん。助けられなくて」
俺は咄嗟におぼつかない辿々しい声で誰かに謝った。
涙が顔伝いに流れた。
理由は分からないが、誰かを助けられた自分への憎しみと、誰かを助けなければと思う使命感が、胸を打っていた。
って....いったー....何が起きてんだよ。
視界が真っ暗で、体が思うように動かない。
体をおもいっきり力を入れれば、動くかな?
一斉ので
バキバキ!
あが!!痛い。
筋肉が硬直してんのか?
どれだけ動かしていなかったんだ?
グハ!!
目の奥が焼けるように痛くなってきた。
そうか、光を認識できるようになってきたのか。
そうして、俺の目に映ったのは、湿った洞窟の中だった。
どうやら、光があると言う事は、深い洞窟ではないのか。
手には、緑色の指輪....
クッソ、ここどこだ?
てか、俺って――誰だ?
◇
取り敢えず、薄暗く居心地の悪い洞窟から出たが、分からない事尽くしの今では、まず散策するとしよう。
まずは、俺の生命活動が安定したら、記憶を思い出すよう尽力するしかないだろう。
置かれている状況が酷すぎたら、逆に冷静になれるってもんだな。
「と、その前にまずは、こんな山からさっさと下り麓を目指そ....」
「ギャァアアア!!」
突然、そう叫ぶのは、歪な形をしたバケモンであった。
白い目を吊り上げ、紫色の体毛のない体で向かってくる。
殺気を感じた。
「ちょ、お前こっちに来るんじゃねぇ....」
バケモンは、俺の言葉をモノともせず、銀色に光った鋭い爪を振った。
俺は間一髪後転し、攻撃を避けた。
土が舞い、バケモンの視界が塞がる。
「今のうちに....」
俺は、這い蹲りながらも反対方向へと振り向き、体勢を直しながら逃げた。
ドスドスと地響を鳴らしながら、こちらへと追いかけてくる。
やべぇ、木々が密集している所に逃げたのが間違えだった!!
ここなら、見つかりにくいし、あの巨体じゃ追いかけられないだろうと思ったが、コイツ木々を折りながら向かって来てる!!
木の枝が肌に容赦無くブッ刺さり痛い。
地面が揺れるせいで転ばないように神経を注ぐ。
獣道も揃えば、100点満点だ。
絶好調では無い体の時にこんなのありかよ。
だが希望はある。
前に光が見えるんだ。
あともう少しで開けた所へ出るって事だ!
徐々に光の方へと近付いていく。
だが、徐々に近付くのは、俺とバケモンの距離もだ。
「バケモンよぉ!!どっちが先に近付くか勝負だ」
コイツは巨体のあまり、足が遅いから開けた場所に出ればこっちのもんだ。
凸凹の地面を蹴るたびに、衝撃が膝から背骨へと突き抜ける。
耳の奥で鼓動が爆ぜる。
ドクン、ドクン、と脳の内側を叩く音がした。
気付けば、俺はバケモノの勝負に勝っていた。
だが、俺はあいつに殺されたと言って良いだろう。
何故なら、光の向こうは崖だったからだ。
体がフワッとして気持ち悪い。
やっべ死んじゃう。
◆
「おい、大丈夫か?」
冷たい感覚が顔に伝わる。
俺は目を開けると、知らない男二人がが黒いスーツに身を包み立っていた。
一人目は無愛想で、少し奇抜な髪型にキリッとした青色の目。
二人目は、朱色の髪色に黒く丸いサングラスを掛けた人だった。
って、この二人剣持ってんじゃん。
無礼な事はできねー。
「お!水を掛けるとやっと起きたか」
サングラスの男が嬉しそうに喋る。
「ここは?」
俺は、まだ死んで無かったらしい。
落ちている時川に着地したと考えても無傷なのは有り得ない。
何故なんだろうか。
「街の近くに流れている小川だよ。街周辺を警備してたら君を見つけたんだよねー」
そうか崖下がたまたま川でここまで流されて来たのか。
「ったく、何でこの川で倒れてたんだよ」
そう言いながら奇抜な髪型をした男は、ため息を吐いた。
「確か、山に居て、気付いたら崖から落ちてそこから....」
男達は、眉を高く持ち上げ、目を大きく開けて驚いた。
「お前....あの山へと1人で行ってたのか」
「へぇ、君って案外頭のネジ飛んでるんだね」
やはり、あそこはヤバい所なのか。
バケモンが居たのも頷ける。
「まぁ、こんな頭のおかしい奴に構ってる暇などないですし、先を急ぎましょう。ライヴァンさん」
まさか、俺頭おかしい奴認定された!?
屈辱だが、記憶が無い以上、記憶ある前の俺の事よく分からないから何も言い返せない。
それと、サングラス男はライヴァンと言うのか。
覚える意味はないと思うが覚えておこう。
「....もう、あそこ行っちゃダメだよ〜。そんじゃ、バイバイ」
ライヴァンは、笑顔で手を振りながらそう言うと、そそくさと立ち去っていった。
「あざっした!!」
俺は深くお辞儀をし、顔を上げると誰も居なくなっていた。
あれ?もうあの人ら行っちゃたのか。
速すぎんだろ。
俺の感謝の意聞こえたか?
ま、街の探索に戻るとするか。
あ、この街のこと色々聞いとけば良かった。
一本の道に沿って歩いていくと大きな街へと出た。
「うわ、スゲェ」
石塁が敷き詰められていた地面には、人などを乗せた馬が真っ直ぐ走っており、広い道路の両脇には家が並んでいた。
街灯が一定に建てられていて、文明的な街だと分かる。
うわ!あの女の人、手に持ってる大きな円形の物は!!
何であれで自分の体に影を作っているんだ!?
「おい、これ何!?」
「キャッ!!何なんですか!触らないで下さい」
そう叫ぶと俺の手をひっぱ叩き、走って行った。
何だよ、あのおばさん....感じの悪い。
教えてくれたって良いじゃねぇか、ケチ!!
はぁ、俺の傷ついた心を癒してくれる何かオモロいモンねぇかな。
俺は周りを見渡すと、人が食い物を外で木造の長い机に並ばせている。
お、あれを皆んなにあげてんのかな?
起きてから、何も食ってねぇんだ。
腹拵えとしくか。
にしても、何でアイツらあの食い物貰わねぇんだ?
貰わないと損だね。
俺は、タダ飯をくれている場所の前へと行くと、
「お、兄ちゃんどれが欲しい?」
とおっちゃんが問いかけて来た。
赤い果物や黄色の果物などが置いてある。
うーん俺は赤色が好きだから、赤い果物頂くとするかぁ。
俺は、赤い果物を鷲掴みにすると、口にへと運んだ。
お、美味いな。
えーと、この味どっかで食ったような....
「このタダ飯食い泥棒!!」
そうおっちゃん怒鳴られた。
その瞬間もの凄い衝撃が頭に直撃する。
まるで稲妻が頭に走ったかのようだ。
おっちゃんが硬い物を持っているのが見えた。
「ギャッハ!!」
頭がクラクラとして、視界がおぼつかない。
「ウチの商売舐めやがって!!滅多打ちにしてやる!!」
マジかコイツやべぇ奴だ!!
ダメだ。
もっと視界が不安定になっていく。
肺が圧迫させられる。
体中が痺れていき、動かなくなってくる。
これ今日2回目の気絶するかも....




