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プロローグ

 子供の頃、ヒーローになりたいと誰もが夢に思っていただろう。


 そんな夢は、大人になるにつれ文化、価値観、自己認識により忘れ去られていく。


 そんな中1人憧れ追い続けた少年の物語である。



「レンー、洗濯ものをリビングに持って行ってー」


 お母さんの声が木製の家に響く。


 お母さんは、買い物の帰りに下手に転び、腕の骨を骨折中だ。


 お父さんは、都会に出張中である。


 なので、家事を一人では十分に熟せないから、俺も手伝う羽目になっている。


 理由がどうであれ、子供と言うのは手伝いなんて甚だ嫌であろう。


 しかし、俺は違う!!


 家事を手伝ってと頼まれれば、快く受け入れる。


 老人が、荷物を運ぶのに困っているのならば、当然のように助ける。


 全ては、そう困っている人を助けるヒーローになる為だ。



 俺は、ある少女と田舎道を歩いていた。


「はぁ最悪!!私の推し死んじゃった」


「また、ドラマかよ!?正直どうでも良いぜ」


 少女は、そう言う蓮をジッと見ると思い出したかのように顔をハッとさせた。


「ねー、山に行って何しているの?」


 そう問うのは、同級生である(りん)という少女であった。


 ちなみに、同じ年齢の人はこの村には、凛しか居ない。


 だから、家族ぐるみで仲の良い友達だ。


 毎日、一緒に遊んで、泊まりに行った時には一緒にお風呂に入ったり。


 俺は、フッフフと不敵に笑う。


 そう、この俺結城坂(ゆうきざか)(れん)は、山で修行しているのだ!


「よくぞ聞いた!俺はヒーローになる!!必ずだ」


 拳をおもいっきり空へと上げる。


「だから、日々山で過酷な修行を行なっている。全ては、強くなってよぉ!皆からもてはやされる為だ!!」


 木の棒を使って、木を敵に身立て振り下ろしたり、山道を走りながら駆け降りたりと、そのお陰で体力も付いたし力も付いたと思う。


 凛は、はぁと呆れたため息を吐く。


「俺は、こんな山に囲まれている田舎なんて、早く抜け出してーよ」


 俺の言葉に凛は首を傾げる。


「何で?別にこんな田舎でも、良いと思うけどなー」


 そんな何気ない凛の一言に、俺は首をおもいっきり振って否定する。


「どこが良いんだよ!人が少なすぎて、困っている人も少ないじゃんか!悪者も居ない。それじゃぁ、ヒーローなんて目立たないし輝かない!」


「でもさ、ヒーローって居ないんじゃないかな。だって、本当の悪者って居ないと思うし」


「どう言う事だよ!!」


 悪者は、居て当たり前だろ!


 人の安泰を脅かす悪者がよ!


「皆、何かしらの思いを掲げてさ!それを元に行動する。それに善悪を付けて良いのかなって」


 凛は、どこか大人びた口調で言う。


「は?何言ってるかわかんねぇよ!」


 こいつ、俺を否定しようってのか?


「まぁ、分かんないか!ヒーローに憧れちゃうお子ちゃま思考なんだもんね〜」


 舌をベーっと出し、嘲笑する。


「は?お前....言ったな。流石の寛大な心を持つ俺でも許せねーよ!お前なんかダチじゃない!!」


 俺は、怒り狂うようにキレると、凛も目を吊り上げて言い返す。


「奇遇ね!!私もレンの事なんて、ひと時も友達なんて思っていないしね!何?私の事友達と思っていたの?勘違いしないで!気持ち悪い」


 そう言い終えると顔をプイッとそっぽ向ける。


 歩くテンポが速くなっていく。


「な....!良いさ。そっちがそこまで言うなら、もう関わってくんなよ!絶対だからな」


「言われなくても分かってるよ」



「ったく、何なんだよあいつ、むしゃくしゃする!」

 

 そう言いながら、小枝を蹴っ飛ばした。


 はぁ、あいつから離れるように山へ来たのは、良いが修行する気が起きない。


 俺は、何かする事がないかと周りを見渡すと、奥へと続く山道に気付いた。


 特に、奥は暗闇で見えない不気味な場所ではなく、木の葉の隙間から漏れ出す光が神秘的に辺りを照らしていた。


 あれ?こんなのあったのか、修行に熱中しすぎて気付かなかったのか。


 ああ、子供心がくすぐられる。


 胸が熱くなるのを感じた。


 一丁、冒険でもしてみっか!


「うーん、何もねぇな」


 進んでみたのは良いものの、小川、獣道、虫、小池などしか無く、目立つ物は何もなかった。


 小池から、バケモンが出てくるとかそんな展開もある訳ねぇーし。


「つまらねーな」


 と軽く嘆いてみた。


 当然、整備も行き届いていない小道は、草が生い茂っていて、俺を阻む。


 草などには毛虫などくっ付いてる場合がある為、要注意である。


 正直、今にも蛇を踏みそうで怖いと言う感想しかない。


 俺は、怯えつつも、道なりに沿って歩いてると、小さな小屋がポツンと建っているのが分かった。


「今日が決行日だ。あのガキを攫い、ここへ逃げ込み、反対側から麓まで降りるぞ」


 俺の耳に男の声が入った。


 え?人が居んのか!?てかアイツらガキを攫うとか言ってなかったか?


 俺は、茂みに身を隠し、耳を澄ます。


「でも、本当に大丈夫かな?」


「あー?何今更ひよってんだよ、それにこんなクソ田舎のガキ一人や二人居なくなったって、警察は本腰入れて捜索などしないだろ」


「そうかなぁ」


「あぁ、そうだ。あの少女を海外に売り捌くのもヨシ、人身売買でもヨシ、金は確実に弾むだろうな」


 コイツら何言ってるんだ?


 少女って――凛!?


 同級生は、凛しか居ないと言ったが、同級生以前に少女などこの村には凛ぐらいしか居ない。


 いや、そんな事ある訳無いか。


 たまたま、ラジオで流れてきた音なのかもしれないし、悪役好きな人が真似をしているのかもしれない。


 もっとも、こんな所の小屋を使っているのは不気味であるが、ここは所詮田舎。


 ドラマ、アニメなどの事件などは起きないであろう。


 そう考えていると、ポツンと水滴が俺の肩に当たる。


 俺は、ふと空見上げた。


 さっきまでの晴れていた蒼い空の面影は無く、鼠色の雲が村を覆っていた。


 戻るか。


 雨が降ると、山の土はたちまち、粘度がある泥へと変化し、足場を悪くする。


 俺は、来る時に付けた目印を頼りに、フラフラと寄り道をしながら帰った。


 だが、降りれた時には、周辺が徐々に暗くなっていくのが分かった。


 あ、これフラフラとし過ぎたな。


 先程よりも雨が強くなっていっているので、バス停の小屋を使い雨宿りをする事にした。


 中に入ると、電灯が小屋を照らしてた。


 服が濡れていて、気持ち悪くなり、上着を脱ぐとギュッと絞った。


 小屋の隅にある椅子に腰を下ろすと、電灯に屯っている虫を見ながら考えた。


「本当の悪者は居ないか....」


 胸が少しモヤっとする。


 冷静になった今でも悪者は居ると思ってるし、居て欲しいとも思っている。


 だが、『本当の悪者』ってのがどう言う事なのか分からない。


 悪者も思いをを掲げ生きている事は分かるんだ。


 ただ、それが今の時代に合っていないだけなのかなぁ。


 鼻がツーんとする。


「頭が熱くなってきた」


 窓の外は、先ほどよりも雨が強くなっていくのが分かる。


 これ、止まないコースかな。


 しょうがない、雨の中また走るか。


 一呼吸を置くと、ドアをおもいっきり開け、一目散に走り出す。


 走れ。走れ。走れ。走れ。


「うを゙ーーーー!!」


 俺は叫びながら走った。


 そして家に着く。


 ドアを開けると、血相変えながら、母親が俺の方へと小走りで向かってくる。


「もー!遅いじゃない!!こんなに服を濡らして....心配したのよ!?どこ行ってたの」


 あまりの母親の迫力に怖気つき、小声で答える。


「山へ修行に....」


 そう言うと、母親は安堵のため息を吐き両手で俺の肩をギュッと掴んだ。


「本当に....心配したんだから....! ね、凛ちゃんと一緒に遊んでたんだよね?帰る所見た?」


「ううん。俺は、アイツとダチじゃねぇから一緒に遊んでない」


「あら珍しく喧嘩でもしたのね。じゃなくて....一緒に帰ってないの?」


 俺が帰ってきたと言うのに、母親はまだ動揺している。


 何かあったのだろうか。


 どうでも良いが。


 そう思っていると、黒電話が音を鳴らす。


 急いで、母親は受話器を手に取ると、何かを話し出した。


 焦った顔で、震えた顔を発する姿は何か嫌な予感がした。


「ね!凛ちゃんがまだ帰ってきてないらしいの!!本当に知らないのね!?」


 俺の予感が当たった。


 小屋の件を思い出す。


 玄関のドアをバッと開けて、母親の制止を振り切り、あの小屋に向かって全速力で走った。


 雨で冷えた体も今では何も感じない。


「クッソ。何であの時、目を背けたんだ。ヒーローならきっと....」


 いや、待て。


 これヒーローになるチャンスじゃね?



「思ったよりも楽に攫えたな」


 男が凛の顔をスッと触った。


 凛は、手足を縄で柱と結ばれ逃げ出せない状態になっていた。


 顔を歪ませ、男の手を顔で払う。


「そうですね。このガキと居る男の子も一緒に居なかったですしね。殺す手間も省けましたよ。こんな田舎になると雨の日は、誰も外に出なくなるんですね」


 そう言うと男は、手を伸ばした。


「てか、コイツ面いいよなぁ。こんな田舎にこんな人材を留めておくなど、勿体無い話だよな」


 そう言うと男は、しゃがみ凛と目線を合わせるとニタっと笑う。


 凛は、震えながら訴える。


「嫌!」


「あー、そんな事はしねーさ。お前は商品であり、傷付ける事はしねー。それにそんな趣味はねぇよ」


 そう言うと机に置いてあったタバコを取り出し一服する。


 突然、バタンとドアが開けられた。


 3人の視線は、ドアの向こうに釘付けとなった。


 そこに立っていたのは、蓮であった。


 その手には、木の棒がギュッと握られ、水が滴っていた。


「へへ、マジかよ。ここバレるとはな」


 タバコが床にポッと落ちる。


 そして、ピースを手で作り言った。


「ヒーローのよぉ。参上だ!!ダチ返してもうぞ」


 蓮のガシャれた声がツンと刺す。


「蓮!?」


 凛は驚いた様子で蓮を見た。



「ガキが大人二人に勝てる訳ねぇよなぁ」


 相手は俺が子供だからと油断しているな。


 いくら、俺が子供だからって、木の棒をおもいっきりぶつければ、唯ではすまないだろう。


 俺は、まずタバコを吸っていた男を狙った。


 焦るな、きっとアイツの間合いに入れば、右足蹴りでも入れてくるのだろう。


 俺は男の間合いに入ると、男の右足が動き出すのを確認する。


 ほら。


 左側に寄り、攻撃を交わすと頭脳目掛けて木の棒を振るい落とす。


 パコン!


 男はよろけた。


「しっかり効いてんじゃねぇか」


 俺は、追い討ちをかけようとしたが、後ろに一歩下がる。


 スパン!と男の拳が振り下ろされる瞬間、その薬指に光る銀色が目に入った。


 それは、指輪であり、『あかり』と言う文字がチラッと見える。


 俺は木の棒を振るい落とすのを躊躇してしまった。


「ヒーローごっこしてんじゃねぇよ。クソガキがぁああ」


 男のフックが腹に入り床へと倒れる。


 何をしているんだ俺は!!


 何を躊躇している?コイツは悪じゃねぇか!!


 そんな奴の身内なんて同類に決まってる。


 俺の近くに落ちている石を掴み、向かってくる男に投げつけた。


「俺のダチを取り返しに来たんだろぉ!!」


 自分を奮い立たせると男が怯んだ隙を付き、木の棒を横腹におもいっきり打つ。


 男はドサっと倒れる。


 倒れた!!次はあのタバコ男を。


 タバコの男に目をやると、まだ狼狽れている。


 修行を伊達にやってねぇんだよ。


 もう1発頭に木の棒を当てようとした時、背中をチクっと刺された。


 ッツ....!!


 背中から氷水を流し込まれたような感覚が走る。


 一瞬、視界の端が白く弾けた。


 だが、そんな事を気にしている暇は無い。


 後ろを見ると、横腹野郎が注射で俺の背中を刺していた。


「ハハ!これでお前は....」


 言い終わる前に俺は言葉を被せる。


「予防注射は、まだ早いんだよ」


 俺は、腹を足で蹴り上げ、木の棒で頭をおもいっきり殴打すると、その勢いでタバコ男の頭にも当たった。


 男達は、泡を吹いて崩れるように気絶した。


 あー、いてぇええ。


 特に注射を打たれた場所が酷く痛む。


 今はそんなの気にしている場合じゃねぇな。


 気絶している内に縄で縛ってやらないとな。


 そうだ、凛の縄を解いてやらないと....


 俺は、凛と目が合った。


 喧嘩の事が脳裏をよぎった。


 あー、気まず。


 凛も同じ事を考えているのか、目を下へと逸らす。


 まぁ、取り敢えず縄を解こ....


 そうして、足に目線を向けると凛の足が歪に曲がっているのが分かった。


 攫われる時に、骨折したんか。



 豪雨は、俺とおんぶされてる凛を容赦無く打ち付けた。


 足の裏の感覚が薄い。


 泥を踏んでいるのか、宙を歩いているのか分からない。


 体の芯がじわじわ冷えていく。


「....蓮、ありがとう」


 凛は、口を開けた。


「何言ってんだ。俺は、ヒーローだ」


 俺がそう言うと、凛はギュッと俺の肩に力を入れる。


「て言うか、俺の戦いを見てたか?カッコ良かったろ」


 誇らしげに笑いながら言った。


「うん。ヒーローみたいでカッコ良かったよ!!」


 凛は微笑んだ。


「俺はさ、一瞬、悪者に同調してしまったんだよ」


 俺は、自嘲じみた笑みを浮かべた。


 体全体の感覚が無くって行くのを感じる。

 

「....何で?」


 突拍子の無い言葉に唖然とする。


「敵の内一人が指輪をしてたんだ。多分、結婚指輪を。なぜだかさっきから、その事が心の中で渦巻いて止まらないんだ」


「....」


「俺は俺が感じてる事が分からない。もしかして、悪物の仲間を倒しきれてないからなのかもしれない」


 俺は地面にしゃがむと凛を下ろした。


 凛の声がやけに遠くなっていくのが分かる。


 雨音だけが耳に渦巻く。


「すまん。もう体の感覚が無いんだ。多分、注射を打たれた時に何かしら入れられたのだろう」


 俺はそう言うと、やっとの思いで、木へと体を預ける。


「嫌だ....嫌だ!!死んじゃ嫌!!」


 凛の顔には大粒の涙が溢れ、雨と混じり、顔を滴る。


 息が苦しい、体が動かせない。


 あー、コレそろそろかな。


「なぁ、凛聞いてくれるか。ずっと言いたかった事があるんだ」


「何?」


「今まで、ありがとな。楽しかったぞ!」


 凛の肩が震えた。


「ダメ....ダメだよ。行かないで。私のせいで、大事な人を失うならヒーローなんていらない」


 おいおい、そんな事言うなよ!折角助けてんだから。


 それに、コイツ骨折してんのに、こっから山下れるのか?


 心配だらけだ。


 クッソ!俺は、人一人満足に救えねぇのかよ。


 もし、もう一回人生をやり直せるなら――沢山の人を救えるそんなヒーローに。


 俺の頬を打つ雨が、少しだけ冷たくなった気がした。


 遠くで、雷が鳴る。


 俺は、それを最後に聞いた。 

 


 

 

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