第33話:不自由の終焉
法の神カミシロ、陥落!
ミナトが砕いた合図が、無敵を誇った天秤王宮を両断する! 支配から解放された東方の空に、自由の咆哮が響き渡る。
東方六国同盟の全域が、不吉な紅い光に飲み込まれていた。
カミシロが発動した権能『法の強制執行』。
それは、対象地域の全生命体に「法への絶対服従」を強いる戒厳令。呼吸の一つ、心音の一打ちまでがカミシロの管理下に置かれ、意思に関わらず人々は法という名の鉄鎖に縛り上げられた。
その混乱の渦中、占領下のルヴィア。
ミナトは、カミシロの意識が「全土の強制執行」に割かれ、個人の防衛が手薄になる瞬間を待っていた。背後には、休眠中のレンを背負ったカインが、鋭い静寂を纏って立っている。
「……厳戒令下では、平時の法は停止し、すべての『特約』が無効化され非常時のルールに書き換わったということだ」
ミナトは不敵に笑うと、懐から一本の小型ナイフを取り出した。カインの加護が宿り、鈍い銀光を放つその刃を、ミナトは拳に力を込め、迷いなく粉砕した。
パリン、という硬質な音が響く。それはアド・ヴァルム同盟にとっての、反撃の祝砲だった。
「カイン、いまだ!」
同時刻、北辰大帝国の辺境に近い高台。
そこからは、東方の象徴である『聖法都レガリア』が遠く地平線にそびえ立っていた。白亜の塔が幾何学的に配置され、街全体が精密な計算機のように機能するその中心――『天秤王宮』の最上階に、カミシロは鎮座している。
ミナトの手元でナイフが砕かれた瞬間、カインは数千キロの距離を隔ててその振動を魂で受信した。
「了解しました、ミナト殿。……これより、法の外側へ引導を渡します」
カインは腰に帯びた二本の刀を、ゆっくりと、だが淀みなく抜いた。
天秤王宮。
「……何者ですか。不法侵入は、即座に処刑の対象ですよ」
カミシロは王座の影から忽然と現れた影隼を、冷徹な眼差しで見下ろした。
カミシロの周囲には、常時発動スキル『専守防衛』による無敵の結界が幾重にも重なっている。さらに、この結界に害意を持って触れた者は、スキル『正当防衛』により、その攻撃を数倍の威力で反射される。
カミシロは、物理的な攻撃など一切恐れていなかった。
「……私の影が、貴様の喉元へ届いたぞ」
影隼が捨て身の動作で小刀を投げつける。それは結界に触れた瞬間に粉々に砕け散り、影隼の肉体を凄まじい反動が襲う。だが、影隼は血を吐きながらも笑っていた。
「愚かな。私に攻撃は効かないと言ったはずだ! 私は法そのものだ!」
武器の神の加護――それは、数ある移住者の能力の中でも「最強」の一角と称される、絶対的な断絶の力。距離は関係ない。強度も意味をなさない。カインが「そこ」にあると認識し、刃を振るえば、世界の理そのものが切り裂かれる。
影隼が投げた小刀が砕けた場所を確認すると、カインはレガリアの王宮を見据え、一歩踏み込んだ。
「極外・絶界断」
大気が悲鳴を上げ、カインの周囲の空間が同心円状に爆ぜる。放たれたのは、次元の隙間を滑り落ち、直線上のあらゆる概念を無に帰す、不可視の神速斬。
カミシロが勝ち誇り、断罪の宣告を下そうとした、その瞬間だった。
――ズ、ン。
空間が、鏡が割れるような音を立てて絶叫した。
カミシロが全能を信じて疑わなかった「無敵の結界」が、まるで水面に引かれた線のように、あっけなく両断された。
「な……が、は……っ!? 馬鹿な、私の……!」
何が起きたのか、カミシロの知能でも理解を拒絶した。
一拍遅れて、豪華な王座、そしてカミシロの身体中央に、一本の紅い「境界線」が走る。
数千キロの彼方より飛来したカインの斬撃が、法の神の器を、左右に分断したのだ。
「法の……外、だと……。そんな、不条理……な……」
カミシロは内臓と共に絶望を吐き出し、身体が左右に分かれ、石床に崩れ落ちた。
支配者が死んだ。その瞬間、大陸東部を呪縛していた法印の鎖が一斉に光の粒子となって霧散していった。
張り詰めていた「窒息するような平和」が崩壊し、解放された人々は、何が起きたかも分からぬまま、魂の底から湧き上がる歓喜の叫びを上げた。そのどよめきは、レガリアの街を物理的に揺らすほどの熱狂を帯びていた。
遥か遠方の丘の上。カインは熱を帯びた刀をゆっくりと鞘に納めると、アド・ヴァルム同盟の勝利と、傲慢な法の番人の最期をその眼で確かめるべく、静かにレガリアへと歩み出した。
第33話をお読みいただきありがとうございました!
ついに「法の支配者」カミシロが退場しました。カインの「最強」と言われる所以が、これでもかと描かれた回となりました。
しかし、カミシロの死は、東方諸国のさらなる混乱をもたらすかもしれません。
ミナトの次なる一手は?
次回、お楽しみに!
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※AIとの共同執筆作品となります。




