1話完結 港町の風に恋を乗せて
両思いなのに切ない上手くいかない恋心の物語でございます
思いはわかりやすい方がいいのか…お楽しみくださいませ。
昼下がりの港町は、波の香りと塩風で少し湿った空気に包まれていた。
リナは籠に朝市で買った野菜とパンを詰めながら、そわそわしていた。
見慣れた遠くの白い帆に目をやると、カイルが甲板で荷を整理している。
「あ、あの船……!」
リナの胸が跳ねる。
到着した船から降りる彼からは
「…また慌ててるのか?」
カイルの声はいつも通りツンと冷たい。
でも、その声の端に少しだけ、彼が気にかけているニュアンスが混じっていた。
慌てて籠のパンがひとつ転がる。
「うわっ!」
拾おうとした瞬間、子供がぶつかり籠に寄りかかる。
散乱する野菜やパン。
カイルは眉をひそめながらも駆け寄り、手伝ってくれる。
「……大丈夫か、怪我すんなよ」
ツンとして言うが、手はしっかりリナの籠を支えてくれている。
リナは顔を赤くして、あわてて「大丈夫です!」と叫ぶ。
トッと猫が籠に飛び乗り、リナは悲鳴を上げる。
「まったく……落ち着け、勝手に乗るんじゃない!」
カイルは眉を下げながらも、猫を追い払う手を差し伸べた。
その動きは自然で、優しく、リナにはそれが少し嬉しかった。
「……もう、懲りろよ」
「は、はい……」
ドタバタの最中、カイルのツンな口調に混じるさりげない気遣いが、リナの心をドキドキさせる。
午後の光が海を照らす中、二人は散乱した荷物を片付け終える。
リナは、カイルが時折小さく微笑んだり、手を貸してくれる瞬間に心を掴まれる。
ツンツンしてるけど、自分のことを見てくれているんだとわかる瞬間。
「……次会う時はもうちょっと気をつけろよ」
「はい……!」
少し怒った口調だが、目の端には優しさが宿っている。
リナは胸を高鳴らせつつ、またドタバタを繰り返す。
港町の人々や小さな子供たちも、二人の騒ぎを微笑ましく見守る。
リナの空回りする元気も、カイルの小さな好意も、港町の昼下がりの陽気な空気に溶け込む。
「さあ、今日も……!」
リナは心の中で決意する。
片思いのもどかしさと、ツンデレのカイルの優しさを胸に、港町の昼を駆け回る彼女のドタバタな日常は、まだまだ続く。
いかがでしたでしょうか。
次回のお話も楽しんで頂ければ幸いです。