012 魔力ゼロパーティー
「アディルさん、こちら体力回復の薬草を煎じたお茶です。魔力回復は――ええと、意ないか……。気力回復の飴にしておきます! 後、これは甘いお菓子ですが、ちょっとした加護があるので休んてる間に食べておいてください!」
「お、おう。悪いな、リィナ」
リィナが魔力ゼロだと知ってから数時間後、俺とイヴと彼女は、近くの洞窟へやって来ていた。
背中に背負った大きな袋から、次々と癒しの道具を出してくれている。
「イヴさん、お怪我は大丈夫ですか? 少し痣になっているので、こちらを貼っておいてください。戦闘で動いてもはがれないようにしておきますね。お菓子とお茶も置いておきます」
「ありがとうございます。リィナさん」
討伐対象は、五等級討伐以上の鋼鉄のゴーレム。
今日、もしくは明日までに倒さないといけない。
「本当にすみません。私の為に、こんな危険なところまで来ていただいて」
「リィナは命の恩人だ。このくらいなんてことないさ」
「アディル様の恩人は、私の恩人でもあります!」
五等級に上がる為には、相応の任務を受けなきゃいけない。
しかしリィナはそれができずにずっと保留していたとのことだ。貢献度任務の金額は下がるが、ひとまずあげておかないとランク剥奪もありえるとのことだった。
しかし彼女は魔力ゼロ。戦うことはできない。
パーティーを組むことも、それを依頼するお金もないとのことだった。
そこで俺たちが名乗り出たということだ。
道中、魔物と戦っている間はリィナはただ見ていることしかできなかった。
だがこうやって戦闘終わりにケアしてくれている。
俺は魔術師の家系だったからこそ魔力ゼロという立場はつらかった。
しかし彼女は平民、魔力ゼロだとしても普通の仕事のほうが安全だ。
「冒険者送金システムを知っていますか?」
「ああ、知ってるよ。各都市にお金を預けたり、送ったりできるやつだろ? 冒険者は稼ぐ為に移動が多いし、家族とも離れることになる。ギルド員にも送金しなきゃいけない時に無償で頼むことができる、ってやつだよな?」
それを聞いたリィナがこくこくと頷く。
使ったことはないが、酒飲みの男たちの中にも家族の為に、という奴がいる。
まあ、本当に送金しているのかは知らないが。
「私の実家はとても小さな田舎街で、働くところがあまりないんです。それに給料も低くて」
「なるほど。それで送金、してるってことか。でも……九年前から?」
「はい。――私のお母さんは病気なんです。こっちに移動すると住むところも高いし、妹もいるのですが、そんなに高くないお給料で働いています」
「なるほど……。ずっと送金してるのか?」
「はい。貢献度が高いので、宿や食事の心配はあまり必要がないのです」
リィナの言う通り、貢献度が高いと冒険者組合からそういった特典を得ることができる。
魅力的ではあるが、面倒な上にお金が少ない、というのが冒険者の本音だ。
といっても、リィナは違うだろうが。
彼女の動機はとても素晴らしいものだ。
だが同時に悲しく思える。
この世界、貧富の差は激しい。
そのとき、一つの事が思い浮かぶ。
――『調伏』だ。
だがイヴの場合、愛情値が一定以上とこっくさんが言っていた。
俺とリィナがそうなる可能性もわからないし、そもそも対象なのかすらかわからない。
一応……訪ねてみるか。
『リィナを俺が調伏することは可能か? そして――スキルを得ることは?』
『10000ゴールドです。質問が重複しています。二つの質問の場合、20000ゴールドです』
相変わらずのぼったくりだ。俺とイヴの一か月分の食糧でもある。
そして同じく、イヴが俺を意味ありげに見ていた。
同じことを考えていたのだろう。
――とりあえずはゴーレムのことだけを考えよう。
「よし、腹ごしらえも終わった。そろそろ行こう。洞窟について調べてるが、無理だと思ったらリィナには悪いが退くことになる」
「もちろん構いません。元々、私には不可能な任務ですから」
「でも、頑張りましょうね。アディル様、リィナさん!」
「え、わ、私は何もできませんよ!?」
「私たちは、パーティだよ」
「……ありがとうございます。イヴさん」
そういって、イヴはリィナと微笑み合った。
「さて、気を引き締めていこう」
鋼鉄のゴーレムは相当難易度が高く、冒険者の中でも鬼門と言われている。
こいつを倒せるかどうかで、五等級に上がれるかどうか。
だが絶対、倒してやる。