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011 魔力ゼロの平民 

「お腹痛い……」

「アディル様、大丈夫ですか?」

「ああ……だが良い兆候らしいからな」

「良い兆候?」


 翌朝、ギルドへ向かっている途中、お腹がぐりゅるると鳴った。

 いっても、リィナという彼女曰く、薬が効いている証拠だ。


 死んでいた、という言葉も嘘ではないのだろう。


 そう思うと、またお腹が痛くなった。


 しかし今日も任務を受けに行かないといけない。

 俺たちはまだ六級、普通は兼業でしか稼げないが、数でごまかしている。


 扉を開くと、そこにはいつもの面々がいた。

 変わりのない顔ぶれに、少しだけ落ち着く。


「ようアディル、はええな」

「まあな。六級は大変だよ」

「はっ、お前らならすぐさ。イヴちゃん、死なないようにな」

「はい!」


 粗暴な男たちも、今はちょうどいい距離感で付き合ってる。

 彼らはこう見えて五級で、実際に戦っている所は見たことないが、それぞれ上手くやってるらしい。


 夕方になると集まって酒を飲み、今日の手柄だったり、今後の任務についてと、後はくだらない話をする。


「で、アディル、女は買わないのか?」

「大丈夫だ」


 もちろん男たちの楽しみは食事もそうだが、女を買うことも含まれている。

 需要と配給、帝都には何でもある。


 そのとき、イヴが俺の服の袖を掴んだ。


「なんだ?」

「アディル様、遠慮しなくていいのですよ」

「何の話だ」

「……ええとその」

「?」


 もごもごしていてよくわからない。

 ちょっと、と言われたので耳を貸すと――「女性に抱き着きたいんじゃないんですか?」と言われ、思わず慌てふためく。


「ば、バカなことをいうな」

「でも……みんな楽しそうです。私がいるから遠慮してませんか?」

「そんなことないよ。俺は等級を上げるために頑張ってるんだ。くだらないとまでは言わないが、俺は興味がない」

「そうですか。でも、アディル様が望みのなら私はいつで――いたっ」

「バカなことを言うな。ほら、今日の依頼、見に行くぞ。ちょっと遅くなっちまったからな」


 冒険者の依頼自体は夜遅くまで受け付けしているが、掲示板に張り出されたりするのは早朝が多い。


 簡単そうに見えるが任務内容に合わせて等級を決めたり、急ぎの任務の場合は、適した冒険者に直接依頼する。

 非常に見極めるのが難しい仕事だ。


 依頼者は追加料金を支払えば、指定の冒険者に頼むこともできる。

 もちろん受けるかどうかは本人次第だが、貢献度が高いほどよくあるという。

 毎日受付以外にも何人か世話しなく働いていて、いつも大変だ。


 そのとき、受付で昨日の彼女、リィナがいた。


 昨晩ようやく思い出したのだが、彼女はこの帝都で一番貢献度ランク高い冒険者だ。

 名前を見たことがある。


 だが何やら揉めているような――。


「申し訳ありませんが、自動で上がってしまうんです。また五等級になると、貢献度の依頼を受けることはできますが、金額は随分と低くなります」

「……どうにかなりませんか? 私、ずっと六等級でいいんですが」

「申し訳ありません。新しく加入する冒険者の為の規約でもありますから」


 そこに俺が割って入ると、受付のミリサさんが少し安心したかのようだった。

 俺が初めて来たときに受付してくれた女性だ。今では仲良くしてもらっている。


「どうしました、ミリサさん。――それに昨日は助かったよ、リィナ」

「アディルさん、それにイヴさんおはようございます」

「あ、昨日、死の寸前だった人ですか?」

「怖い事いうなよ」

「お腹痛いですか?」

「ああ、おかげ様で痛いよ」

「良かった」


 俺たちの謎の掛け合いに、イヴとミリサさんは首を傾げる。

 説明してもいいが、先に話しを聞いてみよう。


「それでどうしたんですか?」

「お知り合いのようなので話しますね。リィナさんは現在六等級なのですが、貢献度が規定値を随分上回ってしまったので、五等級に昇級」

「凄いな。貢献度でも上がるとは聞いていたが。おめでとう」


 薬草拾い、低賃金の依頼、猫探し、ゴミ拾い、とにかく簡単で、なおかつ誰もやりたくない仕事をすると貢献度が上がるのだが、それが一定の数値を上回ると等級もあがる。

 だがそれにはものすごく回数を増やさないといけないらしく、本来は夢のまた夢だ。

 しかし、凄いな。

 

 でも、変だな。なんでそれで揉めるんだ?


「なのにどうしてリィナさんは嬉しそうではないんですか?」


 同じ疑問を抱いたイヴが、素直に尋ねる。

 すると、リィナが少し言いづらそうに超えた。


「……私、貢献度任務でしかお金を稼いでないんです。いえ、稼げないんです」

「「え?」」


 その言葉に、俺とイヴは顔を見合わせた。そこに。ミリサさんが補足する。


「リィナさんは、十等級から貢献度ランクで六等級にまで上がりました。私がここに赴任してからですから、もう九年くらいでしょうか」


 すごい……伝説の冒険者を見たような気持ちだ。

 毎日受けたとしてもどれだけかかるのか想像もつかない。


 九年先輩だったとは……いや、それより――。


「リィナ先輩、タメ口ですみませんでした」

「り、りぃな先輩!」


 俺たちは二人で頭を下げる。

 だがリィナは慌てて「や、やめてください!?」と叫んだ。


 冗談ではなかったが、本当に困っていたので普通に話すことにした。

 まあ彼女は敬語のままだが。


「でも、いいことじゃないか。五等級になりたい奴なんて山ほどいるし」

「無理なんです。私は、貢献度の任務しか受けれないんです。戦えないから……」

「戦えない?」


 続けて、ミリサさんがが衝撃なことを言い放つ。


「リィナさんが加入した九年前は、適正審査がありませんでした。だから問題なかったのですが、リィナさんはアディルさん、イヴさんと同じく――魔力がゼロなんです」


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